※以下ネタバレあります。これからご覧になる方はご注意ください。
4月4日土曜日の11時公演に行ってまいりました。
昨年の『エリザベート』はチケットが取れず、みりおちゃん(明日海りお)のトップ姿を見るのはこれが初めて。
そもそも花組に組替えになってからは観ていないので……最後にみりおちゃん出演公演を見たのはキリヤン退団公演の『エドワード8世』かな? 2012年の3月ということは、もう3年前か。感想blog、みりおちゃんの「み」の字も出てけぇへんけど(笑)。
『エリザベート』の時とはトップ娘役さんが変わって、大劇場ではこの公演が新コンビのお披露目。
まずお芝居は『カリスタの海に抱かれて』というオリジナル作品。『ふたりっ子』や『セカンドバージン』でお馴染みの脚本家大石静さんのシナリオを石田昌也先生が演出してらっしゃいます。
地中海に浮かぶ美しい島、カリスタ。フランスの植民地であるこの島に、新しい司令官シャルルが赴任してくる。実はシャルルはもともとカリスタの生まれで、カリスタ独立運動の英雄アルドを裏切った男の息子。アルドを裏切って父は「フランス貴族」の称号を得、シャルル(本名はカルロ)もフランスに渡り、士官学校を出て軍人になっていた。
このカルロ役がみりおちゃん。
いやー、みりおちゃん格好いいねぇ。軍服姿凛々しいし、美形だし、歌もお芝居もうまくて。
今のトップさんの中では一番好みのタイプです。
カリスタでは、カルロの子供時代の親友ロベルトが独立派のリーダーになっているんだけど、なぜ彼が「リーダー」「カリスタの希望の星」と呼ばれているかというと、28年前、英雄アルドが処刑される際に、「今日生まれた男子が俺の後を継ぎ、カリスタの未来を開く」とかなんとか言ったから。
そう、運悪くロベルトはその日に生まれてしまったのです。
で、実はカルロも同じ日に生まれている。
宿命の日に生まれた二人の男……ブラックサンとシルバームーンか!?
再会した二人は旧交を温め、「二人で力を合わせてカリスタ独立を果たそう!」となるのですが。
ロベルトの許嫁アリシアとカルロが恋仲になってしまったことでカルロの立場は微妙に……。
「舞台がどこやらの植民地」「主人公は占領側の軍人だけど実はその植民地の生まれ」「植民地側の女と恋に落ちて二番手男役と三角関係」……っていうの、宝塚ではものすごくデジャヴな気がします。
独立派なのに占領側の令嬢と恋に落ちるとか、細部は色々だと思うけど、「植民地舞台」で「主人公が独立を導く」みたいは話、けっこう多いような。『落陽のパレルモ』とか、昔懐かしい『炎のボレロ』もそんなんじゃなかったっけ(違ったらごめんなさい)。
そんなわけでロベルト役は二番手男役の芹香斗亜さん。花組を観るのはたぶんオサさん(春野寿美礼)のサヨナラ以来だと思うので、みりおちゃん以外のスターさんがまったくわかりません。知ってるのは組長の高翔みず希さんと専科の美穂圭子さんだけという惨憺たる有り様。
オサさんのサヨナラって2007年の話で……芹香さん、その2007年が初舞台。若っ!!! とはいえ今年で研9? 若すぎるというほどではないのか……。
お芝居を見ている限りでは、よくわからなかったんですよ、芹香さん。可も無く不可も無くというか、みりおちゃんがあまりに上手で格好良いので、ロベルトはじめ他の男役さんはみんな印象が薄いなぁという感じで。
ショーの方では芹香さん、とても大らかなタイプに見えて、どっちかというと可愛らしい雰囲気、声も高めだったので、ショーを観てからお芝居の方を振り返ると、「ああ、あの“仇役”のお芝居はすごく頑張ってたんだな。声のトーンも落として、暗めのイメージでしっかり役作りしてたんだな」と思いました。
キャラクターとしてのロベルトは、なかなか面白いのですよねぇ。主人公にとって恋敵ではあるけど、そもそもは「親友」で、「カルロは裏切り者だ!」と煽るのは周囲の人間であって、ロベルト自身は親友と恋心の間で葛藤してる。
「無血革命」を望むカルロに対して、「それじゃあフランス軍に家族を殺された者達は納得しない」って言うけど、でも特にロベルトは強硬派じゃない。「リーダー」として、「希望の星」という勝手な期待を押し付けられて育った者として、島民の感情を無視できないだけ。
単純な「敵対者」ではないので、お芝居的にはけっこう「辛抱役」ぽい。うん、そう思うとやっぱり、芹香さんはなかなか頑張っていた。
カリスタ島では偉そうにしているフランス総督府なんだけど、実は本国ではフランス革命が勃発していて、王や貴族の優位は崩れ、新政府ができつつある。カルロは新政府にカリスタ独立を願い出て、無事「無血独立」を果たせるかと思いきや、総督府側に「反逆者」の烙印を押されて逮捕されたカルロは処刑されることに。一方独立派は、「ただ独立するだけでは意味が無い、フランス人を皆殺しにしなければ」と総督府に夜襲をかけようと……。
うん、三角関係が露見したところから、「これってカルロかロベルト、どっちか死ぬしかないよね?」って思ってた。
私の好みとしてはロベルトが「戦場で見事に死ぬことで身を引く」か、「処刑されるカルロを助けるために自分を犠牲にする」が良かったんですが、残念ながらそうならないんですよね。
もちろんカルロも死なない。
どっちも死なない。
大団円になる。
いや、そりゃ誰も死なない方がいいけど、流血なしで独立できてトップスターも二番手も死なずにハッピーエンド、そりゃそれが一番いいのかもしれない。でも。
肩すかしだった(笑)。
それにロベルト的にハッピーなのかどうかは微妙なんだよなぁ。親友のために一度はアリシアを諦めようとしたカルロが「死を間近にしてやっぱり君が好きだとわかった」とか言って許嫁持っていっちゃうので、ロベルトは一人。
「宿命の日に生まれた男子」としてこれからもカリスタを引っ張っていかなきゃならないロベルトのそばにいるのは、「復讐を!」と叫んで独立派を煽っていた英雄アルドの恋人アニータ(もちろん熟女)だけ。
これはひどい。
おかげでロベルトは「俺は覚悟を決めた。もう友も信じない、仲間も信じない、冷徹な指導者になる」とか言って独裁者への道を歩むんですよ。いや、「独裁者」は今私が勝手にくっつけましたけど、「もう友も信じない」とか唐突に言い出すのはホント。
同じ「宿命の日」に生まれたもう一人はカリスタ捨てて愛する女と新天地に行っちゃうんですからね。そりゃもう友なんか信じられませんよね(´・ω・`)
「周囲の勝手な期待」に押し潰されそうになりながらもリーダーとして、「宿命の子」として戦ってきて、そして無事独立できたのに、ロベルトには何にもいいことがない。カリスタの初代大統領になったって、そばにいるのは「革命の母」気取りのおばさんだけなんだもんなー。
これはさ、やっぱりさ、もう一人女の子がいるべきでしょ、独立派に。
ロベルトがアリシアにぞっこんなのを知りながら、それでも陰からずっとロベルトのこと見守ってきた女の子っていうのが。そんで「大統領夫人じゃなくていい、大統領の小間使いでいいの、あなたのそばにいさせて」って最後に言ってくれるんだよ。
そうじゃなきゃ寂しすぎる(´・ω・`)
――そんなわけで、みりおちゃんはとっても格好良かったし、途中までは「どうなるのかな?」とそれなりに緊張感もあって楽しんでたんだけど、最後で「あれれ……」となったお芝居でした。
新娘役トップ花乃まりあさんは当然アリシア役で、「自分の感情に正直なおきゃんな女の子」を好演していました。声がキュートだね。ちょっと、見た目は老け顔というか、面長だけど。
アリシアは二人の男の間で揺れ動いたりしなくて、最初から「親が決めた許嫁」のことなんか何とも思ってないから……やっぱり可哀想すぎやなロベルト……。
で、フランス革命時の話ということで、ナポレオンが出て来るんですけど。
ナポレオン役の柚香光さんが真飛聖さんにしか見えない。
真飛さんとトドちゃん(轟悠)を足して割った感じ? とにかく一目見たら忘れない印象的なお顔で、ショーでも「あ!ナポレオンの人!」とすぐわかる。
あの見た目は舞台人としてすごい武器だと思うんだけど、いかんせんお歌の方が……。2009年初舞台ということでまだ研7かな? 今後の精進に期待。
しかし当時まだ二十歳そこそこのナポレオンが「だっはっは」笑いするのってどーなの。若の里なの(←相撲ファンにしかわからない)。
まぁ、立ち位置的にそういうキャラクターなんだろうけどね、このお話のナポレオンは。
ナポレオンはコルシカ島の生まれで、だから「カリスタの島民の気持ちはわかるよ」みたいなことをカルロに言うんだけど、調べてみたら「カリスタ」ってコルシカ島の異称らしい。「古代ギリシアの人々から一番美しいという意味の“カリスタ”と呼ばれていた」んだって。
え、じゃあナポレオンとカルロは同じ島の出身!?
さらに調べてみたらナポレオンの父親の名がカルロで、「コルシカ独立闘争の指導者パスカル・パオリの副官を務めていたが、ナポレオンが生まれる直前にフランス側に転向し、戦後に寝返りの見返りとしての報奨を受けてフランス貴族と同じ権利を得た」んだそうな。
これってこのお芝居のカルロの立場とそっくり同じ。カルロの設定自体がナポレオンを下敷きにしているっぽい。
お芝居の中のナポレオンは「いずれこの島は私の庭になる」と言って去っていくんだけど、これ「わかる人にはわかる」というネタセリフなのか……。
熟女アニータ役は専科の美穂お姉様。眼帯をして、ちょっと魔女っぽい役柄です。恋人を処刑された怨念を胸に、ロベルトはじめ島の若者達に「フランスに復讐を!屈辱を忘れるな!」と呪いをかけ続けている。
美穂さんはショーでも美声を響かせてくださって、歌もお芝居もさすがの巧さ。
しかしこういう役、昔なら組子がやってたんじゃ……と思ったりもして。ジュンベさん
洲悠花)やこけしちゃん(花愛望都)なら余裕、リンゴさん(小乙女幸)ならかなり明るめの魔女。
まぁ5組体制になってから組子の人数も減ってますし、なかなかそういう「トップにはならないかもしれないけどお芝居に欠かせない大人の女ができる娘役」とか育たないんでしょうけどねぇ。これは男役にも言えることでしょうが。
そんな中、フランス総督府側の軍人バルドーを演じた天真みちるさんに注目。
お腹の出た中年の士官なんですが、滑舌もよくコミカルな(でも決してやりすぎではない)演技で「この人まだ若そうなのに芸達者だなー」と感心しました。2006年初舞台ということは研10かな。ググったら、『スマスマ』にタンバリン芸人として出演した、みたいな話が出て来ました。
いや、いいですね。すごくいいです(笑)。
3年前の新人公演評でも「将来性豊かな新人公演!天真みちるの芝居心には脱帽」と絶賛されています。
トップスターだけじゃお芝居は成立しないですから! 脇を固める芸達者がいてこその宝塚なんですよ。歌劇団はぜひ天真さんを大事にして、専科として残ってもらえるようにバックアップすべきだと思います。うん、マジで。
さて、ショーは『宝塚幻想曲〈タカラヅカファンタジア〉』。夏の台湾公演に持って行く作品ということもあってか、ところどころ太鼓や三味線といった「ジャポニズム」風味が利いていて、なかなか楽しかったです。
オープニングから第2場に至る羽根扇の使い方が良かったし、第8場の、ちょっと千手観音ぽい振り付けもある群舞も見応えがありました。
音だけじゃなく、舞台上で和太鼓演奏する場面もあったし。
第5場では芹香さんが好きな女の子に振り向いてもらうためにバスケの練習をするという役で、可愛いかった。うん、ロベルトよりこういう感じの方が持ち味生きるタイプなんでしょうね~。台湾公演の『ベルばら』ではアンドレ役だそうで、すごく似合いそうです。
ここの音楽はアイーダ等のサッカーアンセム。やってるのはバスケなのに(笑)。
フィナーレ前の男役燕尾の大階段は「さくらさくら」。津軽三味線フィーチャーで曲もダンスもすごく素敵でした。あの音源欲しい!
最初、大階段に座って登場するんですよね、みりおちゃん。娘役さんに囲まれて。大階段に燕尾服で座ってる男役ってめっちゃ格好いいです。そこからみりおちゃんが「さくらさくら」を普通に(変なアレンジなく、邦楽的に)歌い上げたあと、男役さんがばーっと出てきて、ダンスになる。
邦楽と洋楽コラボ好きにはたまらないシーンでしたが、隣で母が「これカウント取りにくいやろなぁ」とやけに技術的なコメントを(^_^;
その後のデュエットダンスは「花は咲く」。「さくらさくら」からの花繋がりですね。
折しも花の道の桜は満開。
大劇場脇、武庫川に面したテラスのしだれ桜も見頃。
洋物ショーでの「さくらさくら」も新鮮で格好良かったけど、来年は「春の踊り」があるといいなぁ。
VIVA!タカラヅカ
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