久々のエラリー・クイーンです。新訳版国名シリーズを一気に読んでしまうのがもったいないのでSFに浮気していましたが、そろそろ少し戻りましょうか。

と言っても国名シリーズではなく短編集の方へ。

1961年初版の創元推理文庫。2014年の2月までに重ねた版、なんと68版。いやー、すごいですね。なんというロングセラー。

1961年は昭和でいうと36年、さすがの私もまだ生まれていませんが、訳は読みやすいです。特に古めかしいとも思いません。まぁ、子どもの頃から「昭和の翻訳もの」を読んできたので慣れているせいもあるのかもしれませんが。

今の若い人にはもしかしたら読みにくい箇所、意味のとりづらい言葉があったりするのかな。

活字が小さいのが読みにくいかな? 今の文庫はどれも字が大きいですからね。

昔のままの活字っぽいのが私は嬉しいです。

収められた短編は10編。

・「アフリカ旅商人の冒険」
・「首つりアクロバットの冒険」
・「一ペニイ黒切手の冒険」
・「ひげのある女の冒険」
・「三人のびっこの男の冒険」
・「見えない恋人の冒険」
・「チークのたばこ入れの冒険」
・「双頭の犬の冒険」
・「ガラスの丸天井付き時計の冒険」
・「七匹の黒猫の冒険」

原著にはもう1編、「キ印ぞろいのお茶の会の冒険」という作品が入っているそうですが、創元推理文庫の別の本(『世界短編傑作集4』)に収録されているのでこちらでは割愛されたそう。

再録してくれててもいいのにー。



『世界短編傑作集』は江戸川乱歩が編んだものらしいです。こちらも現在でも版を重ねているもよう。絶版じゃないってすごいな。創元社がんばってる。

機会があれば読んでみたいものですが。

で、収録された10編、どれもなかなか面白かったです。それぞれ味わいが違いますし、一つ一つは短いですから、移動時間や隙間時間などに気軽に読むのにお薦め。

短編はアイディア勝負ですから内容についてはあまり書けませんが、エラリーが母校で「応用犯罪学」の講座を受け持つ「アフリカ旅商人の冒険」、宿の主人が怪奇譚のように語る「双頭の犬の冒険」、そして猫嫌いのはずの老婆がなぜか毎週一匹ずつ黒猫を買う「七匹の黒猫の冒険」が印象深かったです。

「七匹の黒猫」にはハリー・ポッターという人物が出てきて「お!?」と思いますが、原著は1934年の作品ですからあのハリー・ポッターとは何の関係もないでしょう。

クイーン警視やヴェリー部長といったお馴染みの面々も登場し、クイーン家の新世代万能執事ジューナの名前もちょこっと出てきます。

『災厄の町』を読んだ時に「エラリーってこんなに“たらし”だったの!?」とびっくりしたんですが、この短編集でもその片鱗をしっかり窺わせてくれて、「エラリー、おまえ、そういうヤツだったのか……」感(笑)。

「七匹の黒猫の冒険」ではペットショップの若い美女の「美しい目を見つめ」、有名なクイーンさんに出会えるなんてという美女に「ぼくだって(あなたみたいな美人に会えるとは)」と言って彼女の顔を赤らめさせています。

「ひげのある女の冒険」では事件の起こった屋敷の若い看護婦ミス・クラッチに目をつけ、「あなたはミス・クラッチの―――そのう――所書きをご存知ではないですか」とか言ってる。

所書きを知ってどうしようというんだ、ええっ!?(爆)

国名シリーズ前半を読んだ限りではそんなに「たらし」な印象はなかったのになぁ。とはいえ決して嫌らしい感じではなく、むしろ推理の才能を含め自身の「魅力」に自覚的なところがエラリーの良さでしょう。うん、実際にそばにいたら鼻につきそうな気もするけど、でもやっぱり格好いいんだろうなぁ(笑)。