びははせんたい・みんきーまま
★美母戦隊ミンキーママ★
その1『PTAから始まった』 Vol.3
[E:danger]この物語はフィクションです。実在の人物・団体等には一切関係ありません。

 実際、会計の倉橋和也さんならぬ倉橋淳子(くらはし・じゅんこ)さんも、母親代表の里見芳美さんもうちと同じ年中組のお母さんで、すぐにうち解けることができた。倉橋さん家の翔太(しょうた)くんと暁はその後一番の仲良しになっちゃうし、里見さん家の夢月(ゆづき)ちゃんは男の子2人のアイドルだ。
 問題は。
 そう、問題は残る一人、PTA会長矢沢伸明さんならぬ矢沢理恵子(やざわ・りえこ)にあった(←既に呼び捨て!)。
 大体がこの人、めでたく会長に当たったその瞬間、妙なリアクションをしていた。「まぁどうしましょ、いいのかしら、いやぁ、もう、まぁ、ほんとに困るわ〜」と言いながら顔は喜びを抑えきれない感じで。
 今だから言える話だけど、あの時もちろん矢沢理恵子は喜んでいたのだ。だったら最初から立候補すりゃあいいんだよなー。くじで当たったふりをするなんて本当にいやらしい。もっともあたしら残り3人の執行部員にしてみれば、彼女が立候補で当選しようがくじで当選しようがどっちでも迷惑なのは一緒だったけど。
 入園式の3日前に行われた最初の執行部会議の日、彼女は8分遅刻してきた。前回の会議の時も、今どき珍しい『派手なおばさん』だなぁと思ったけど、その日もやたらに派手だった。派手というか、なんかはずしている。別にあたしもそんなにセンスのいい方じゃないし、人のこととやかく言えた義理ではないけど、しかしフツーに幼稚園に来るのに黒のヒョウ柄のセーターとか着るか? ラメ入りのスカーフするか? 同じくヒョウ柄のアクセントの付いたピンハイヒールも、金の大ぶりピアスも、もちろんこの後どっかへ出かけるためのものかもしれない。しかしこの人一体何歳なんだって思わずにいられない、『一昔前のおばさん』スタイルなんだよなぁ。髪型もいかにも毎朝カーラーで巻いてます、って感じだし、口紅はかなりきつめの朱色、輪郭ばっちり、ついでにむっとする香水の匂いまで。
 ものの見事に『マンガに出てくる嫌なおばさん』。
 そして口を開けば。
「あら〜、皆さん、ごめんなさい。お待たせしちゃって。出がけにちょっとお客様がいらしたもんだから。何しろ、うち、主人がハヤカワ電子の支社長でございますでしょ、引っ越して早々色々とお付き合いが大変で。おほほほ」
 ああ、今どきこんな懐かしの『ざぁます夫人』が存在していいものか。あまりにもステレオタイプな悪役じゃないか。こんなの投稿マンガに出したら“発想力貧困”で即ボツだぞ。
 しかし第一声で驚いていてはいけない。
「んまーっ、学芸会がないとおっしゃるの? 秋の音楽会とかお遊戯会とか、お子達の日頃の練習の成果を見せるようなものが何もないって? え? 3学期? 発表会? 呼び方はどうでもかまやしませんわよ、あるんですのね? ああ、良かった。学芸会もない幼稚園だなんて……これだから公立の園は困りますわ。私学があればそちらへ入ったんですけど、この辺まったく選択の余地がないんですものねぇ。中学や高校にしても数が少なくて。皆さんよく我慢してらっしゃること。
 それはともかくその、発表会でしたかしら? お芝居とか、ございますわよね? 主役はPTA会長の子息、うちのカンナちゃんでよろしいわね。当然そういう決まりでございましょ? でなきゃ何のための会長かわかりゃしませんものねぇ」
 ……おいおい。皆様のための会長じゃねーのかよ。