びははせんたい・みんきーまま
★美母戦隊ミンキーママ★
その1『PTAから始まった』 Vol.7
[E:danger]この物語はフィクションです。実在の人物・団体等には一切関係ありません。

「甘い! 甘いぞっ! 実害が出てからでは遅いのじゃ。学芸会だけで済むわけがなかろう。すぐに彼女は幼稚園を好きなように動かし始めるぞ。のびのび元気に、が信条のこの園を、私立のお受験校のようにされてもよいのか」
「だからさ」
 今度はあたしの番だ。
「なんで世界を二分して争ってる悪者が、わざわざ幼稚園なんかに魔の手を伸ばしてくんのよ。あまりにも小さいでしょうが、やることが」
「そうよねぇ。小泉さんに取り憑いて日中戦争を始めさせるとかだったらわかるけど、矢沢さんに取り憑いたってねぇ。――あ、でもあたし思うのよ。絶対金正日にはなんか憑いてるって。あなたいい仙人だったらそっち行った方がいいと思うよ。日本にだけはミサイル撃たないでねって」
 芳美ちゃんって、フリルひらひら、髪にはリボン、顔も童顔でいかにも可愛らしい子なんだけど、見た目に惑わされてはいけない。これでなかなか、言うんだよねぇ。
「わかった。結局あんたも小物なんでしょ。ホントに位の高い仙人は北朝鮮だのイラクだの、世界を股にかけて頑張ってるのかもしれないけど、所詮あんたは幼稚園のもめ事に首を突っ込むぐらいしかさせてもらえないと」
 ううむ。蜂の一刺しならぬ淳子の一刺し。これは痛い、痛いぞ〜。
 図星と見えて、じーさん、口をぱくぱく、体をわなわな。
「ば、ば、ばっかもーんっ!!」
 じーさん、叫んだ。その小さな体から出たとは思えないほどのくそでかい声で。
「世の中がそんなに単純だと思っとるのか? どこかの国の大統領一人がバカだからと言って、それで本当に世界全部が悪くなると思うのか。自分達小市民はいつだって平和を望んで正しい道を生きているとでも言うんじゃろう、え? 悪いのはみんな国か? 政治家か? 目の前で年寄りが転んでも手も差し伸べんくせに善人づらするでないわ」
 ギクっ。なんでこいつそんなこと知ってんだ? ついこないだ――一昨日だったか、暁と公園から帰る途中、目の前でおばあさんが転んだんだ。自転車ごとひっくり返って。あっ、と思って、おばあさんと目が合って。どうしようと思った瞬間、後ろから来た自転車の男の子(たぶん高校生)がさっと自転車止めて、おばあさんを起こしてあげた。
 別に、あたしだって助けようと思わなかったわけじゃない。ただ、目が合った瞬間、おばあさんがバツの悪そうな、「見られた!」って顔をしたもんだから。
「スーパーでよその子どもが勝手にお菓子の袋を開けていても知らんぷり、マンションだからってゴミは毎日出し放題! そーゆー日頃の行いが地域の平和を乱し、果ては国の平和を乱していくんじゃ! 敵は己の裡に在り! 真実の悪が狙うのは、人間一人一人の弱い心じゃ。国家の存亡なんぞ何万年と続いてきた善悪の闘いに比べれば屁でもないわっ」
 ……至極もっともなような、でもやっぱりただの屁理屈のような。