びははせんたい・みんきーまま
★美母戦隊ミンキーママ★
その1『PTAから始まった』 Vol.4
[E:danger]この物語はフィクションです。実在の人物・団体等には一切関係ありません。

 何でも矢沢の子どもがこの3月まで通っていた隣の県の私立幼稚園では、PTA会長の子どもが学芸会の花形、王子様もしくはお姫様をやるというのが伝統になっていたらしい。カンナちゃんのお兄ちゃんの樹人(みきと)くんも王子様をやったそうだ。つまり、矢沢、PTA会長2度目。
 やるか、普通。会長2度も!
「いえ、でもうちの園ではそういうことは……。劇といっても別に白雪姫とか浦島太郎とか、そういうはっきりした主人公のあるお話はやりませんし、みんなが主役という感じで……」
 と、最初は反論を試みた園長先生と主任の川端先生。
「何寝ぼけたことおっしゃってるんですか! 私が会長を務めさせていただく以上、そんないい加減なことはきっぱりやめさせていただきます! 年中組はともかく、年長組にはきっちりと見応えのあるお芝居を演じていただきますわ。ええ、衣裳や舞台装置等、何でも必要なものはPTAが用意いたします!」
 ってこら、そんなこと勝手に決めるな!
 唖然茫然、あまりのことに声を失ってしまったあたしら3人の目の前で矢沢は熱弁を振るい、ついに先生方降参。
 そして。
 自分の娘が主役を確保したとなると矢沢、
「あら、もうこんな時間! それじゃあたくし、カンナちゃんのバレエのレッスンがございますので。失礼」
にこやかに退場。
 マジかよ……。
 実際学芸会騒動だけでたっぷり45分使ってしまったので、その日本当に議論しなきゃいけなかった諸々の事案は全部先送り。
「申し訳ありません、一通り簡単にご説明しますので、今度の2回目の役員会議までに執行部からの提案等、まとめておいて下さいますか。あ、去年の役員さんのノートもありますし。参考になさっていただいて」
 というわけで、次の日あたしら3人、また幼稚園に集まったのだった。
「なんか、釈然としないね」
 里見さんが言った。
「っちゅーか、先が思いやられるよね。あの会長と1年間付き合ってかなきゃならないかと思うと」
 あたしが答えると、倉橋さんがビシッと言った。
「付き合う必要なんかないんじゃない。無視よ、無視。どうせあの人学芸会以外に興味ないわよ。衣裳たら何たらえらそーなこと言ってたけど、それだって絶対こっちに丸投げよ」
 確かに。
「うん、でもあーゆー人って、何にでも口だけは出しそうじゃない。文句だけは」
「なんか最悪。せっかく幼稚園楽しみにしてたのに。あーあ、なんで母親代表なんかに当たっちゃったんだろ。あの日に戻ってくじ引きやり直したーい」
「今度は会計に当たるわよ」
「えーっ、いやーん」
 ――この倉橋さんの辛辣さがあたしは好きだ。
「くじと言えばあいつ(←もはや“あいつ”呼ばわり)、よくうまい具合に会長なんか当たったよね。あの口ぶりじゃ最初っから狙ってたんだよ。やりたいんならさっさと立候補すりゃいいのに、わざわざくじ引きやらしてさ。当たっちゃったから仕方ない、みたいな顔して受けてんの。超むかつく」
「世の中不思議とそーゆーことになってんのよ。善良な人間が迷惑するように。あーゆー輩って良くも悪くもパワーあるからね、さしずめ前の日に御祈祷でもして当たりくじ引き寄せたんじゃない」
 至極もっともなしびれる意見を倉橋さんがクールに言った時だった。
「その通りじゃ! いや、君、鋭いのぉ。ほんに鋭い」
 どこからともなく妙な声が。