びははせんたい・みんきーまま
★美母戦隊ミンキーママ★
その3『ゴミ置き場は魔の匂い!?』 Vol.10
[E:danger]この物語はフィクションです。実在の人物・団体等には一切関係ありません。

 必死の思いで視線をはずし、あたしは下を見た。何人かが殴り合っている。やめさせようとする人たちが入り乱れて、そして犯人は。
「どうでもいいんですよ、犯人なんて」
 男がふっと手を動かすと、屋根の上にいきなり犯人が出現した。半分酔っぱらっているようなさっきのおっさん。と見る間に、ぱっとその姿は弾けて消えた。
「あ!」
 おんなじだ。あたしが追いかけた奴と。
「東流斎のじいさんによろしく。ミンキーママさん」
 再び男は微笑み、すうっと吸いこまれるように闇に溶けた。バカみたいに呆然と固まったあたしの目には、怖ろしいまでに魅力的な彼の微笑がまだゆらゆらと揺れていて。
 チェシャキャットかよ。
「何を呆(ほう)けておるっ!」
 パコーン! 小気味よい音が、頭の上で炸裂した。
「なっ。何すんのよ、くそじじぃっ!」
 そんなことをするのはもちろんあの耄碌仙人に決まっている。
「誰が耄碌仙人じゃ」
 パコッ、パコッ、パコッ。
 だーっ、もう! 仮にも正義のヒロインを気安くポカポカ叩くんじゃないわよ。
「ヒロインならヒロインらしく事態を収拾せんか! ボケッとしおって」
 言いながら、じじぃは杖をひらめかせた。そして呪文。何語なのかわからない短い言葉が裂帛の気合いとともにじじぃの口から吐き出される。
 下の喧騒がぴたりとやんだ。人々は一瞬静止画になり、そして――。
 その後どんなふうに騒ぎが収まったのか、あたしは見ていなかった。みんなの動きが止まってしーんとしたその時、あたしの耳には王子様の泣き声が聞こえてしまったのだ。
「ママ〜っ、パパ〜っ」
という声が。
「ごめん、あと任せた!」
 あたしは開けっ放しのリビングの窓に飛び込んだ。もちろん“パタポン”と唱えて変身を解くのは忘れない。
 果たして王子様は寝室のドアのところでふぇーんと泣いていた。
「ママ〜っ!」
「はいはい、ごめんごめん。もう大丈夫だよぉ。どした? おしっこ?」
 ぶんぶん、と暁は首を振る。
「誰もい〜ひ〜ん」
 ああ、そうねぇ。パパも外にいたもんねぇ。
 ダメなのだ、うちの王子様は。寝つく時も親と一緒じゃなきゃダメだし、途中で目が覚めて横に誰もいないとふぇーんと泣きが入るのだ。
「何? 玲子さん、大丈夫?」
 階段の下からふみちゃんの声がした。きっとふみちゃんも外が静かになるまで泣き声に気がつかなかったんだろう。気づかれてたらやばいところだ。ダーリンがこういっちゃんと外に出たことは知ってるだろうけど、あたしはどこで何してたの、ってことになっちゃう。「大丈夫ぅ」と答えながらも、暁の頭をなでなで。
「さっ、寝よ。せっかくだからおしっこ行っとく? いい?」
 寝よ寝よ。火事より黒仙人より、何より自分の子どもが一番大事ですものね。おやすみ〜。