墓もなく
家も失せにし
ふるさとの
山に還らん
さくら咲く頃



3歳から結婚するまでの20数年間、
大阪の池田で過ごした私にとって
五月山の桜は特別なもの
五月山だけでなく、すぐ近所だった
塩塚公園、母校である五月丘小学校、
とにかく美しい桜があちこちにある
街だった。
だから、結婚して移り住んだ所に
桜の木があまりないことにショックを
受けた。
近所の名所、と言われるところに
行っても、まだ若い木が多かったり
ボリュームがなかったり。

花見をしても、なんだか物足りない。

それはもちろん、欲目というもの
なんだろう。
育った場所の桜には、20数年間の
思い出
が一緒に詰まっているから。



お盆でも正月でもなく、桜の季節に
帰省していた。
でも数年前、実家が兵庫に引っ越して
からは、墓もなく親戚もない池田に
帰る理由はなくなってしまった。

桜の季節になると、五月山に帰り
たくなる。
おとといの夜、思い切って息子に
言った。
「明日さぁ、五月山行かへん?」
「うん、行きたい!」

JRと阪急を乗り継いで、片道
2時間の道のり。
あさってから2年生の息子に池田
への思い入れがあるわけもなく、
わざわざ桜のためだけに付き合わ
せるのは申し訳ないな、と思って
いた。
でも、「行きたい!」と言って
くれたので。

実家の母にも声をかけ、絶好の
お花見日和となった昨日、五月山へ。
ちょうど見頃の桜が美しいのは
もちろん、子どもの頃から何度と
なく通った場所を歩くのはなんとも
言えず幸せな気分。
駅も、商店街も。
本当ならついでにかつて住んでいた
場所にも足を伸ばしたいところだけど。

児童館から緑のセンターへ続く桜並木
も大好きだし。



でも昨日は何十年ぶり(?)かで
少し山を登って秀望台へ。
猪名川と阪神高速を見下ろす絶景。
昔はよく日の丸展望台まで登った
ものだけど、一番近い秀望台へ
上がるだけで……ぜーはー。

帰りは新快速を逃して、高槻から
各停の電車。
でもそのおかげで山崎駅の満開の
桜に出逢った。
うつらうつらしている私に、
「ママ、ほら、桜! きれぇ〜」と
息子の声。

桜の美を愛でられる子に育って
くれてありがとう。
もっとずっと年を取った時に、
君の思い出の中にも五月山の桜が
ありますように。

……と願うのは、私のエゴかな?

(写真上は公園裏口(?)の桜。
 中段は秀望台からの景色。
 下段は秀望台から公園へ戻る途中、
 ドライブウェイの桜)