花組トップスター春野寿美礼さんのサヨナラ公演、『アデュー・マルセイユ』。おととい観て来ました。
『エリザベート』を手がけたことで有名な小池修一郎先生のオリジナル・ミュージカルですが……う〜ん、お話自体は「まずまず」ってところでしょうか。それなりに楽しめたけど、「面白かった!もういっぺん観たい!!」というほどでもない(もういっぺん観るけど)。

春野さんは、かっこよかったです。
舞台が1930年代初頭ということで、スーツにソフト帽といういでたち。やっぱり春野さんはこーゆー格好の方が合う。軍服とか時代もののコスプレより、スーツの方が断然かっこいいと思う。
孤独と秘密を背負った潜入捜査官役。
孤独が似合うんだよな、ホントに……。
引きこもりじゃなくて、ちゃんと人の中にいるんだけど、本心は見せないというか、一歩引いて見ているというか。
大人の男の憂愁っていうんですか。
いや、あんな男の人は現実にはいないと思うけど。

途中、ヒロインとの場面で、「忘れ物よ」とまずヒロインが春野さんに帽子を渡して、帰りかけた春野さんが「忘れ物だ」と戻ってきてキスする、というところがあるんだけど。

ありえないでしょう、絶対、そんなの(笑)。
その辺の男にやられたら「バカか!?」ってはっ倒すよねぇ。
このありえない気障さがもう、なんとも美しくセクシーに決まるのよ。
これぞ宝塚の男役の醍醐味。
春野さんの場合、他の人と違って本当にこう、えもいわれぬ雰囲気があって……あれはちょっと、「見てください」としか言いようがない。

明智小五郎や皇太子ルドルフや光源氏よりは、ずっと春野さんに合ってる役だったと思う。

ただ。

「孤独なスパイ」と言っても「悪の組織の一員」とかでなく刑事なので、一応「正義の味方」なんだよね。
「いい人」なの。
宝塚だからまぁ当たり前だけど。
途中、親友にも正体をばらせなくて、「敵は怖くないが、友情と恋を失うのが怖い」と歌うシーンがあって、「うんうん、こーゆーの好きよ」と思ってたら、最後は大団円になっちゃうのよ。
事件に決着がついて、正体がバレて、でも「殺し屋でした」というのではないので、友情は壊れず、恋も、「別々の国に向かう」ことにはなるけど、一応はハッピーエンドと言っていい終わり方。

この、最後には秘密がなくなってしまって、孤独でもなくなってしまうようなところが、なんか中途半端で、物足りない。
可哀想だけど、本当のことを言えずに親友に誤解された結果、親友を殺す羽目になって……とかの方が私は好きだ。
最後まで苦悩と孤独をひきずって終わる方が。

まぁ、宝塚やし、バウホールじゃなくて大劇場やし、サヨナラ公演やし、あまり悲劇的なのはできないでしょうが。

一緒に見ていた母も「春野さんの“思いきり悪い役”が見てみたかったよね」と言っていた。
そうそう、そうなのよ。野心のためには恋人も友も踏み台でしかない、みたいな悪い男。頭も切れて大胆で、でもふっと寂しそうな顔を見せる、みたいな。
誰も頼らず誰も信用しない。どこか破滅的で、当然最後は無惨な死を迎える――。

……次、星組がやる『エル・アルコン』の主人公ティリアンはそーゆー奴だけど、やっぱ宝塚的に“甘く”しちゃうのかな。原作のまま“ワル”で行ってくれないと魅力半減だけどな。

春野さん以外の役では。
春野さんの幼馴染み役、次期トップの真飛さん。実にそのまんまな色悪やんちゃ系で、はまりすぎてました。前から思ってたけど、芸風が真矢みきちゃんに似てる。見た目も声も似てるし。
濃い役が似合う人なので、トップより二番手の方が生き生きできるのじゃないかと思うのだけど(真矢さんも二番手の時の方が面白かった)、さてこれからどんなトップになるのでしょう。いきなり『メランコリック・ジゴロ』をやるというので、よけいに気になる。
トップの安寿さんと二番手の真矢さん、そしてヒロインの森奈さんのトライアングルが絶妙でめちゃめちゃ楽しいお芝居だった『メランコリック・ジゴロ』。トップ披露なんだから、真矢さんの役ではなく、もちろん主役の安寿さんの役の方をやるんでしょうが、どーゆー感じになるのか想像がつかない。
見てみたいなぁ、中日劇場だけど。

今回一番の掘り出し物というか、「ええやん、この人」と思ったのが愛音羽麗ちゃん。男役だが、女役をやっていた。
真飛さん扮するヤクザ(?)のボスの恋人で、巴里から引き抜かれてきたダンサーという役所。押し出しが強くて、ボスは尻に敷かれていたりする。
すごくチャーミングで、初の女役とは思えないほど芝居もうまかった。

ヒロイン……どーでもいい。
桜乃さんがどうという以前に役柄がつまんなかった。
つまんない役でも魅力的に見せるのが役者というものではあるが。

次期二番手になるのだろう壮一帆さん。
きれいですっとした、正統派二枚目という感じです。
濃かったりくどかったり、個性的な方が好きな私としては、色がなさすぎてタイプではありません。
真飛さんが濃い人なので、トップと二番手のコントラストという意味ではいい取り合わせになるのかもしれない。
でも『メランコリック・ジゴロ』の配役は逆だろ、って感じがするよなぁ。う〜ん(←って、まだ配役決まってない)。

専科の立ともみさん。
私が見始めた頃にはもう専科さんだったが、非常に芝居がうまく、声が良くて、好きな役者さんだった。
今回で退団なさるらしい。
知っている人がどんどんいなくなるな。
専科の補充はしなくて大丈夫なのか、と心配になるけど、専科で残れるほど達者な役者という人材そのものが少なくなっているような気もする。
そこまで宝塚に残ろう、という気持ちもないかもしれないし。

最近新しく専科に入った人っているのかな?
私が知らないだけ???

ともあれ立さん、今までありがとうございました。