お友達のDaisy(an-an)様がblogで紹介されていた『神なるオオカミ』の上巻。

なんとか返却期限までに読み終えることができました。

上巻だけでも514ページもある大長編なのですが、読み始めると止まりません! 本当に面白い。

期限ぎりぎりになってしまったのは、ひとえにお葬式続きのバタバタのせいで、本当だったらもっと早く読み終えて、下巻に突入していただろうと思います。

Daisy様が紹介してくださっている通り、文革の時期にモンゴル草原に“下放”された北京の知識青年、陳陣(チェンジェン)が草原とオオカミに魅せられていく物語。

読んでいると、陳と同じように私も草原とオオカミの魅力に引き込まれてしまいます。

平井和正さんの「ウルフガイ」シリーズも大好きだったし、もともと「狼」という生き物に憧れを持っていたのですが、ホントに狼ってすごい!

賢くて、強くて、団結力があり、仲間思いで、こんなに素敵な生き物がなんで絵本や諺の中で「悪者」にされているのか、と腹立たしくなるほど。

この物語の中でもいわゆる「上層部」の人達にとってはオオカミはやっぱり家畜を食い殺す「にっくき敵」で、「オオカミを全滅させるんだ!」と叫んでいたりします。

オオカミを駆逐することができればもっとたくさんの羊が飼え、もっと生産性が上がる、と。

でも本当は、そうではない。

もしもオオカミという天敵がいなくなれば、野ネズミや野ウサギといった動物が増えすぎて、たちまち草原の草は食べ尽くされ、砂漠になってしまうだろう。

オオカミがいればこそ、他の動物たちの数が適正に保たれ、草原の秩序が保たれる。

陳に草原やオオカミのことを教えてくれる遊牧民の長老、ビリグじいさんという人が、とっても素敵なんですが、彼が言うのですね。

「草原という“大きな命”を守ることが何より大事だ」と。“大きな命”なくして、我々“小さな命”が生きられるはずもない。

大いなる自然の采配。

人間もまた、その下の、“小さな命”にすぎない。

遊牧民はオオカミを民族のトーテム・神として崇めていて、家畜を守るためにオオカミと戦い、オオカミを狩ることもあるけれど、決してオオカミを滅ぼそうなどとは思わない。

でも昔ながらのこういう考えは、次第に「古く」「遅れた」ものとされて、「上層部」からの「オオカミを駆逐しろ!」「もっとたくさんの羊を上納しろ!」という圧力に押されつつある。

「上層部」の人は、オオカミを駆逐するだけでなく、草原を開墾して農地にしろ、とも言うし、「こんな広い土地があるのに、少しの人間しか養っていないじゃないか」と言う。「土地を遊ばせておくのはもったいない」と。

なんかこう、身につまされると言うか、「そうして人間はあちこち砂漠にしてきたんだな」と暗い気持ちになってしまいます。

増え続ける人間を食べさせるために、もっともっと「農地」が、そして「家畜」がいる。

世界の貧しい人々が豊かになって牛肉や豚肉をもっと食べるようになったら、どれだけの牧草、どれだけの飼料がいるか、という話があるけど、「土地」が養える生きものの種類や数は決まっていて、人間が無理に自分のためだけに土地を使ったら、結局は荒れ果てて、不毛の地になってしまう……。

読んでるとビリグじいさん側に感情移入するから、もう「上層部の人」がうっとうしくてうっとうしくて(笑)。

私自身、「上層部側」に加担した人間だろうのに。


主人公の陳はすっかり草原とオオカミに魅せられて、漢民族より遊牧民の方が優れてる、みたいなことをやたらに言います。

こんなこと言っちゃって大丈夫なの?と日本人が心配してしまうぐらいに(笑)。

大丈夫どころが、中国では大ベストセラーになったそうで、ちょっと不思議な気もする。

上巻の最後の方に、「西洋民族も栄えているのはみんな遊牧民族の子孫だ。この草原の遊牧民の秘密を知れば、なぜ西洋民族が先の者を追い越したかを理解するのに役立つ」とかいう議論が出てくる。

「戦闘的な性格は、平和的な労働の性格よりずっと大事だ」とか。

著者の姜戎さんが心底そう思ってるのか、漢民族の読者に受け容れられるように、わざとそういう議論を持ってきているのかどうかわからないけど……。

まぁそんな政治的なことはともかくとして、美しい草原の描写、オオカミを始め草原に生きる生きものたちの描写が見事で、本当に面白いです。


訳者である唐亜明さんは「テレビで中国語」のテキストにコラムを書かれていて、その中にこの『神なるオオカミ』のこともちらっと出てきます(2008年6月のテキスト)。中国ではこの『神なるオオカミ』がベストセラーになった後、チベット高原のマスチフ犬をモチーフにした『藏獒』という本がヒットして、「オオカミと犬とどっちがより価値があるか」という論争まで巻き起こったそう。

『藏獒』は日本語訳出てるのかな? 出てたらぜひ読んでみたいな。

でもその前にまずは『神なるオオカミ』の下巻を楽しまねば!