おととい、2010年10月3日、第68代横綱朝青龍の引退断髪披露大相撲が行われました。

初場所後の衝撃の引退劇から早や8か月。

角界は野球賭博問題で大揺れ、名古屋場所の生中継が見送られ、先の9月場所では「相撲を見られる」というだけで幸せだったりもしたのですが。

やっぱりドルジの大銀杏を見ちゃうと。

ドルジの土俵入りを見ちゃうと。

「どうしてもうドルジの相撲を見ることができないんだろう。どうして千秋楽結びの一番はドルジと白鵬の横綱対決じゃないんだろう。どうしてこんなことになっちゃったんだろう」

と、寂しさと悔しさで泣けてきます。

もちろんニュースやなんかでちらっとダイジェスト映像を見ただけなんですけど。

土俵にキスして、ガッツポーズで引き上げていく、最後まで「朝青龍」な青年。

「横綱になった時から、“最後はキスして別れようと思っていた”」らしい。(TBSの「芸人記者による独占記者会見」より)

「国技館で断髪式をやらせるのはどーのこーの」と苦言を呈す方もいらっしゃったようですが、初場所優勝後、「思いがけず」引退することになってしまった朝青龍。

まさかこれが「最後の土俵」だとは思わずに千秋楽を勤めたのだろうから、「国技館の土俵」にきちんと別れの挨拶をすることができて良かったなと思う。

そりゃ、大阪府立体育館でやってくれてたら、私も生で最後の土俵入りを見られたかもしれないですけど。

……なんかホントに、またふつふつと悔しさが湧いてきて、ぐちぐち言いたくなるんだけど、前に書いたことの繰り返しになるし。

(前に書いたこと→『嗚呼、朝青龍…(涙)』 『「ダグワドルジさん、ありがとう」小長谷有紀さんのエッセイ』 『ドルジも父もいない5月場所…』 自分のblog内検索で「朝青龍」って入れたら初場所優勝を無邪気に喜んでる記事とか出てきてまた泣ける……)

ドルジ、「生まれ変わったら大和魂を持った日本人の横綱に」と言っていたけど、もし彼が「日本人」だったら、少しは展開が違ったりしたのかな。当然「師匠の知らない間にモンゴルに帰っていた」「怪我してるはずなのにモンゴルでサッカーしてた」なんてことは起こらなかっただろう。でももし「日本人」だったら、やっぱり「横綱朝青龍」は存在していなかったんじゃないかな。

日本人であれだけの精神力と強さとお茶目さを兼ね備えた力士なんて……力士に限らず、そうはいないでしょう。

今、孤高の道を歩む白鵬も、「日本人以上に日本人らしい」とまで言われて、「おすもうさん」というよりは「武道家」「求道者」という感じで、「とうてい今の日本人じゃ無理だろ」の境地に至っていると思う。

朝青龍も白鵬も、モンゴルで他の道に進んでいてもきっと成功したろうと思うけど、異国の地で、その国の「国技」とされている舞台で活躍しようと思えば、母国にいる以上の「覚悟」を持たなきゃならないよね。

私はドルジには下手な大和魂とか持ってもらわなくていいと思うんだけど……。

前に紹介した小長谷有紀さんのエッセイの中で、「朝青龍があくまでもモンゴル人として出稼ぎをしているのに対して、白鵬は国籍のいかんにかかわらず、移住して日本人らしくなる」という話があって、本当に朝青龍は「モンゴル人」としての誇りが強い人だと思う。

そんな朝青龍でも「生まれ変わったら日本人の横綱に」って言うのは、それほどやっぱり「日本人じゃない」ということに起因する諸々が重かったのかなぁ、って。

バッシングに限らずね。

……まぁそんなのは私の勝手な感慨なので、ドルジの真の思いは全然違うかもしれないんだけど。


今回の引退相撲の告知サイトに掲げられた「自業自得」の文字。そして「あと2年、大好きな相撲を続けたかった」という言葉。

そりゃ、確かに本人が「やりすぎた」ところはあったけど、周囲にも「もっと違うやりよう」はあったはずで、これだけの逸材をみすみす喪う事態になったのは決して本人だけの責任じゃないと思う。

「自業自得」。

すごいな、って思うんだ。

かっこいいな、って。

この期に及んで他人のせいにしたって仕方がないもんね。そんなのかっこ悪いもんね。

きっとすごい葛藤があったろうに。別に「あと2年続けたかった」っていう文章だけでもかまわないだろうに。

「自業自得」って掲げちゃう。

この間ニッポン放送に出演してた時(ラジオ番組をUst中継していた)にも、「いい経験だった」って言ってて、「強いなぁ」って思ったんだ。

そうそう、あの番組では「もう一度朝青龍に戻れって言われても絶対イヤだ」って言ってた。

勝つことを強いられる横綱。それでいて活きのいい若手に負かされることを期待される横綱。土俵でどんなに結果を出しても、それ以外のところで色々言われる横綱。

「横綱である」というだけでも大変なことなのに、そこへあのバッシングだものね。

あと2年相撲は続けたかった、でも「朝青龍はもうゴメン」って。

どっちも正直な気持ちなんだろうな。

「あと2年」どころか、何年でも見たかったよ、ドルジの相撲。ホントに――。

日本で相撲取ってくれてありがとう。あなたの相撲、絶対忘れないよ。

これからの新しいステージでの活躍も楽しみにしています。

(…あー、でもやっぱりもっと見たかったよ、土俵での活躍……ううう……)