2011年12月7日水曜日

『謎の家』『ジェリコ公爵』/モーリス・ルブラン



『バーネット探偵社』でルパンにおちょくられていた刑事ベシュがまさかの再登場!

ルパンはジム=バーネットではなく、ジャン=デンヌリという名前で登場するのですが、ベシュはもちろん彼をバーネットでありルパンであると見抜いて、「こんな奴信用しちゃダメですよ!」と言い、また最後には「逮捕してやる!!!」とも意気込みます。

もちろんルパンは逮捕なんかされませんけど。

ダイヤをいっぱい縫いつけたチュニックを着て舞台に登場していた女優レジーヌが誘拐され、とある屋敷でそのチュニックを奪われる。

続いて同じ舞台に出ていたお針子兼モデルのアルレットが誘拐され、同じように謎の屋敷へ連れ込まれるものの、なんとか逃げだし事なきを得る。

二人の被害者は謎の屋敷の石段の数や客間の調度を覚えていて、デンヌリことルパンの調べでその特徴がメラマール伯爵の屋敷と一致することが判明。伯爵は逮捕されるがしかし……。

女優レジーヌ、お針子アルレット、そして伯爵の妹ジルベルトと、三人の女性の心を一瞬で掴んでしまうさすがの女たらしルパン。でも今回の本命は貧しいお針子のアルレット。彼女には、基金を設立して自分と同じように貧しい生活をしている仲間達の暮らしをよくしたい、という夢があった。

メラマール伯爵の無実を晴らし、真犯人を挙げようとするルパンの前に現れた青年ファジュローは、巧みにアルレットに言い寄って彼女と結婚する約束を取り付ける。

「そんなバカな!あいつは絶対真犯人の一味なのに!!!」

後手に回るルパンはファジュローのしっぽを掴むことができるのか? そしてアルレットへの恋は……。

まぁホントに惚れっぽいルパンなんですけど、この作品、最初に「アルセーヌ・ルパン未発表回想録より」っていうちょっとした前書きがついていて、その中でルパンったら

「そのときどきの事情に応じて、名前や人柄を変えざるをえなかったことから、わたしはそのたびに、新しい人生を生きはじめるような思いがしたものだ。それ以前にはまだほんとうの恋を知らず、そのあとではもう二度と恋をすることはあるまいと痛感させるような人生を」

なぁんてぬかしているのですわ!

「まるで、そのさまざまの恋を経験したのは、自分自身ではなかったかのようだ」

さようでございますかっ(笑)。

まぁそれぐらいでないとこう次々に女の子に熱上げられないよねぇ。しかもルパンの場合決して「お遊び」というのでなく、その時はホントに本気で愛してるし、「彼女のためならたとえ火の中水の中」を比喩じゃなく実行して、命を賭けて救い出すから。

しかもそれを軽やかに、どんなピンチに陥っても自信と陽気さを失わず、鮮やかにやり遂げてしまう。

こんな男に惚れられたら、女は怖れつつも惹かれるしかない。

「怖れつつも」ってところがミソだよなぁ。ルブランは女心をわかっているし、しかも毎回出てくる女の子が確かに魅力的で、しかもちゃんとバリエーションに富んでる。

ルブランも「たらし」だったのかしら。それとも願望?(笑)。

途中でルパンが自分に向かって言うセリフ。

「おまえは危険が好きなのさ。戦いたがっているんだ。(中略)だが、なんといっても、大きな冒険に身をさらし、敵陣へのりこんで対決するってのは、こたえられんよ。武器も持たず、たったひとりで、くちびるには微笑を浮かべながら……」 (P224)

くちびるには微笑を、ってくだりがたまりませんなぁ。うぷぷ。




全集19巻目は『ジェリコ公爵』。

♪ぬすまれた過去を探し続けて~おれはさまよう見知らぬ街を~♪

主人公エラン=ロックは「過去をなくした男」。瀕死の状態で海を漂流していたところを助けられ、驚異的な体力で回復したものの、自分にまつわる記憶をすっかりなくしてしまっていた。

公園の名「エラン=ロック」を名乗る彼は偶然見かけた令嬢ナタリーに過去の光(「前にも逢ったことがある!」)を見て、彼女に近づく。海賊ジェリコの一味に狙われているらしい彼女を襲撃から守り、彼女の父の死にもジェリコが絡んでいると知った彼は「自分自身」を求めてジェリコの影を追っていくが……。

こうしてあらすじを書いただけで大方の予想はつくと思いますが、そう、実はエラン=ロックはジェリコその人なのです。

読者にはその可能性はけっこう早くから見えていて、でも当のエラン=ロックはそんなこととはつゆ知らず「悪党をやっつけるんだ!」と意気盛ん。

じわじわと証拠が集まりだし、外堀が埋められていくその「息詰まる」感じがたまらない。いつもながらページを繰る手が止まりません。

なんというか、その緩急、ノンストップでありながらうまく読者を焦らすそのバランス感覚がうまいんだよなー、ホントに。

エラン=ロックに惹かれつつ彼の及ぼす力を怖れるナタリーの乙女心描写も相変わらずお見事。

し・か・し。

ルパン出てこないよ。

エラン=ロックは大胆不敵で情熱的、他人を一瞬で支配下に置いてしまう不思議な力の持ち主で、確かにルパンを彷彿とさせる人物だけど、でもルパンその人ではない。最後に本名、生まれ育った館、老いた従僕とか出てきて、別人だということははっきりしているし、ルパンの「ル」の字も出てこない。人々の噂にさえ出てこないのだ。

これまでにもたったの2ページしかルパンが登場しない『オルヌカン城の謎』とか、ゲスト出演的な『金三角』とかあったけど、『ジェリコ公爵』は本当にルパンとは別の作品だと思う。

なぜにルパン全集に入っているのだ(^^;)

ルパン全集、「別巻」としてルパンシリーズ以外のルブランの作品を収めてあるから、そっちの枠で良かったんじゃないかとも思うんだけど、そうすると本編24巻+別巻6巻でなんとなくキリが悪いような気がしたのかしら……。

ところでこの作品の原題は『Le Prince De Jericho』。「プリンス」と言われるとすぐ「王子様」と解釈してしまうんだけど、公爵・大公の意味もあるのね。「プリンスという言葉は帝政ローマの指導者、つまりローマ皇帝を指すプリンケプスに由来している」…ふむふむなるほど。

あ、そーだ。最後にこれだけは言っておかなきゃ。

エラン=ロックの正体である青年の帰りをずーっと待ち続けている婚約者の女の子に対するあの仕打ちはないんじゃないの、ルブラン! 彼を待ち続けたあげく家は傾き婚期は(たぶん)逃し……。「一番に君のもとへ帰ってくるよ」と約束しといて彼女より美人なナタリー連れて戻るってエラン=ロック!

確かに君はルパンかもしれない……。

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