借りようと思っていた本がなかったため、ふと目についたこの本を手に取りました。
片手を失い,自分の本名すら知らない孤児の少年「そばかす」の成長物語。アメリカでは親から子へと読み継がれ、「大人になって読み返したい本」「子どもに読ませたい本」として愛され続けている、という解説に惹かれ。

すっかり児童文学の古典にハマっています。

著者ポーターさんの名前も作品タイトルもまったく知らなかったのですが、日本には1964年に村岡花子さんの訳で紹介され、竹宮惠子さんによってコミカライズもされているのだとか。

うわぁ、むしろこの漫画の方を読みたかったぞ(笑)。


さて。

赤ん坊の時に孤児院の前に捨てられていたそばかす。その時すでに右腕の手首から先を失っていた彼は、後に引き取られていった家でひどい目に遭い、そこを飛び出して「リンバロストの森」にやってきます。

材木を切り出す現場に職を求めた彼、最初に声をかけた料理人には「そんな手で何ができるんだ」と追い返されそうになりますが、支配人のマクリーンはそばかすの立ち居振る舞いに「みどころ」を感じ、「森の番人」として雇うことを決めます。

名前を訊かれたそばかす、「僕には名前がない」と答えます。

「昔、孤児院の名簿に入れるときに誰かが適当に名前をつけましたが、飼い猫の名前ほどにも悩みも考えもせずにつけたものです。(中略)あんな名前、僕の名前じゃありません」 (P24)

「あなたが名前をつけてください」と言われたマクリーン、尊敬する自分の父親の名前を彼に贈るのですね。

いくらそばかすの話しぶりやその態度、考え方に感銘を受けたといっても、いきなり「自分の理想とする男、もっとも大切にしていた男の名前」を初対面の少年に与えてしまうって、マクリーンさん大丈夫ですか?

その後、そばかすの働きぶりと人となりにすっかり魅了されたマクリーンはそばかすを「我が子」同然に思い、愛するようになるのですが……そばかすがいい少年である以上に、マクリーンがいい人すぎる……。

リンバロストにたどり着くまでのそばかすの半生は辛く厳しいものだけれど、マクリーンさんに会った後は周りがいい人だらけで。

そばかすが一緒に住むことになるダンカン夫妻、著者ポーター自身をモデルにしたと思われるバードレディ、そして彼女と行動を共にし、そばかすと深い愛情で結ばれることになる少女エンジェル。

みんなそばかすの生い立ちや「片腕がない」といったことにはこだわらず、その美しい性質を見抜いて親切に、対等に接してくれます。

リンバロストの厳しくも豊かな自然と、そういう温かい人々との交流で成長していくところは『秘密の花園』とちょっと似ているんだけど、メアリが最初ものすごく「ヤな女の子」だったのと対照的に、そばかすははじめっから「いい子」なので。

そこがちょっと、「成長物語」としては物足りないというか、単純に好みじゃないというか(^^;)

材木泥棒との対決や、エンジェルとの恋物語、悲劇的な事故を経て身元が判明する怒濤の終盤、そして素晴らしいリンバロストの自然描写、面白く読めたけど、うーん、『秘密の花園』を読んだ後ではなぁ。

実はいいとこの子だった、というのはまぁいいとしても、エンジェルが「あなたの親がひどい人たちなわけがないわ!あなたのような美しい心を持った人が、母親に愛されていなかったはずがないわ!」みたいに言うところは、「それだとまるで……」と思ってしまう。

裕福な家の娘エンジェルと孤児の自分では釣り合わない、たとえエンジェルやその父親が許してくれても、後から犯罪者の親や親戚が現れてエンジェルに迷惑をかけるかもしれない、と気に病み、「いっそこのまま死なせてくれ」と生きる意欲をなくしていたそばかすを力づけるため、とは言い条、ひどい親に捨てられて孤児になった子がこのくだり読んだらどう思うんだろうと。

「孤児院では誰からも教わらなかったはずの気配りや礼節をあなたが備えているのは、あなたが何代にもわたって紳士の血を受け継いでいるからよ」みたいなことって、本当にあるんだろうか。たとえば「取り替え子」みたいな感じで生まれの卑しい(という言い方もアレだけれども)子が由緒正しい家で愛情たっぷりに育っても、礼儀や教養を身につけることはないとでも……。

この場面のエンジェルが必死なのはわかるので、「そこまでツッコまなくても」と自分でも思うけど、やっぱり気になっちゃうんだよなぁ。

その「紳士の血筋」の中には金のことしか考えず血を分けた子や孫を見捨てる祖父もいるわけで、全然紳士じゃないじゃん、と思うし。

最終的にはそばかすは「紳士の血筋」よりもマクリーンの息子としての人生を選ぶし、作品が書かれた時代背景(1904年の刊行)を考えれば、マクリーンやエンジェルが相手の生まれ育ちや障害をまったく気にせず、ただただ「その人となり」のみで判断するというだけですごいことなのでしょう。

うん、そんなこと、今の時代でも全然当たり前ではないものね。私自身、粗末な身なりで片腕のない少年が「働かせてください」と言ってきたら、どんな反応をしてしまうかわからない。

エンジェルはそばかすに限らず、普段から人に分け隔てなく接する少女で、材木泥棒を銃でおっぱらったり、絶体絶命のそばかすを救うために「色仕掛け」とも思える手管を弄したり、度胸と行動力もピカイチの16歳。

こんなヒロインが登場するってだけで十分すごいもんね。ただ美しく優しいだけじゃない。見どころのありすぎるヒロイン。

ちなみにそばかすは物語の終盤で「20歳」と書かれていて、リンバロストにやってきた頃は19歳ぐらい。「少年」というタイトルからしてもう少し幼いのかな、と思ってたら「20歳」って出てきてちょっと驚きました。原題には「少年」という言葉は入っていないし(単に「Freckles:そばかす」らしい)、大の男でも難しいと思われる「森の番人」役に雇われるんだから、さすがに15~16歳では厳しいだろうけど。

それなりに楽しめたけど「好き」と言うほどではないな、と思いつつ姉妹編『リンバロストの乙女』を借りる算段をつけてしまった。ははは。

一つ本を読むとまたそこから次へ繋がっていく――読書の醍醐味だもんね。