(※以下、ネタバレあります。これからご覧になる方はご注意ください。記憶違い等多々あると思いますがご容赦を)



岡田くんと坂口健太郎くんのバイオレンス・アクション映画、北村一輝さんも出ているし、興味津々で見てきました!

と言ってももう見てから2週間ぐらい経っちゃって、だいぶ記憶が薄れてしまってます。見た直後はどういう感想だったんだっけ……。

見終わったあとは「うーん、何か物足りないぞ」と思ったんですよね。キャストはみんな良いし、アクションも格好良いし、面白いのは面白かったけど、見ながらめっちゃワクワクするとか、見終わったあとにすぐ「もう1回見たい!!!」と思うとか、そういうのはなかった。

でも家帰って改めてPVとかメイキングとか見たりしてたら、じわじわと「もう一回ちゃんと見たいな」という気分になったし、室岡(坂口くんの役名)のことを色々考えてしまった。

「ちゃんと見たい」というのは、前半なかなか人物関係が飲み込めなくて、組関係の人物の顔と名前も一致せず、「ん?誰のこと言ってんの??」ってわかんないまま見てたりしたので。

最初に酒向さん扮する警察の人が「東鞘会」の内情と主要メンバーについてレクチャーしてくれるんだけど、駆け足で聞き取れない、理解が追いつかない。
それぞれのキャラクターが登場するたび「東鞘会幹部:三神」とかクレジット出してほしかったな…。

もちろん見ているうちにだいたいわかってくるし、要はヤクザ内部の抗争と潜入捜査官の話だから、細かいことわかんなくても楽しめるし、わかんないからこその緊張感もあった気がする。
2時間半ぐらいあるけど、意外に「長いなぁ、退屈だなぁ」とはならなかったので。

お話は、岡田くん扮する兼高が男を殺すところから始まる。
元警察官の兼高は復讐のためにある事件の犯人たちを探して、10年ほどかかってやっと全員を始末した。それで自分で警察に電話して自首したみたいだったんだけど、警視庁の裏捜査官・阿内にスカウトされて、潜入捜査官として「東鞘会」に入り込むことになる。

その際、「おまえとの相性98%」と言われて「こいつに近づけ」と名指されたのが坂口くん扮する室岡。映画の公式サイトで「制御不能のサイコボーイ」と紹介されている室岡とバディを組み、兼高は「ヘルドッグス」と呼ばれる「東鞘会」の殺し屋組織でのし上がっていく。

序盤、二人っきりで行動して体術教えてもらってるところとか、「金魚のふん」的にというか、まさに「犬っころ」的に室岡が兼高に懐いてるのがなんとも良い。結末を知ってから振り返ると一層……。
そしてダークな闇落ち岡田くんが格好いいのはもちろん、キレちらかすサイコパスな坂口くんがめちゃくちゃいいんだよぉ。
大河ドラマでの生真面目な泰時くんとか、これまで割とクールで真面目な役しか見たことがなかったので、こういう坂口くん新鮮

実際にそばにいたらうっとうしいし怖いと思うけど、室岡可愛いよ室岡

頭のネジが何本かはずれてそうな室岡だけど、彼のこれまでの人生は過酷。カルト二世らしく、親は死刑囚(すでに死刑執行されているのかどうなのか、ちょっとわかんなかった)。教団に「一切食べ物を口にせず点滴だけで半年間生きる」実験をされたことがあり、おかげで満腹中枢が壊れて常に「腹減った」と言っている。その割にスマートだけど。

教団や親を激しく恨んでいる、というふうでもなく、隠れ家にも「ピラミッドパワー」を取り入れたりしてるけど、終盤で「生まれてからずっと悪夢の中にいるようだった」と言っていて、そんな彼に居場所を与えてくれたのがヤクザだけだったっていうの、とてもせつない。

室岡は同じ教団施設で育った杏南という女性と再会して、彼女が所属している「犯罪加害者や被害者の子どもたち」のグループと接触する。
その中に、「毎月現金書留で謎の人物からお金が送られてくる」という子がいた。その子の母親は、11年前勤務先のスーパーで事件に巻き込まれ、殺されたのだけど、その時一緒に殺された女子高生の遺族にも、同じようにお金が送られてきているらしい。

送金者のイニシャルはG.I.。事件の関係者でそのイニシャルを持つのはスーパー近くの交番に勤務していた出月梧郎(いでつき・ごろう)という若い警官。もしかしたら彼が遺族にお金を送っているのでは? 事件を防げなかった罪滅ぼしに……。

その話を聞いて、室岡は出月のことを尊敬する。もともと室岡は「俺は警察官は殺さない、尊敬してるから」とか言ってるんだけど、実は出月梧郎の正体は兼高なんです。

冒頭で兼高が殺していたのが、そのスーパーの事件の犯人。事件で殺された女子高生と親しくしていた兼高、警察をやめ、一人で犯人を捜して処刑してたんですね。そして潜入捜査の報酬をほぼ全部遺族に送っていた。
兼高、いい人すぎるっていうか、そこまで行くとちょっと狂気では、って気もするんだけど、兼高が「そこまでした」のは、犯人たちが拳銃を持ってることに気付いていたのに職務質問せずスルーしてしまった悔恨があったから。

さすが岡田くんっていうか、井上(ドラマ「SP」の)っていうか、兼高、ちょっと眺めただけで相手が銃を持ってるかどうかわかるんですよ。ポケットや何かの膨らみだけで、「あいつら銃持ってますよ、たぶんトカレフ」って銃の種類まで当てちゃう。
いくらガンマニアだったとしても、交番勤務のまだ若いおまわりさんが通りすがりの人間の銃所持を一瞬で見破るってヤバくない?

「ははは、まさか~」と年長の同僚に信じてもらえず職務質問せずに見すごしてしまうんだけど、まぁ仕方ないよね。そんな凄技、信じろって言うほうが無理。

兼高、交番勤務のあと機動隊にいたらしいけど、格闘術はその時に習得したのか、交番にいた時から武術の方もすごかったのか……。

ともあれ兼高は出月梧郎で、室岡がうっかり出月のことを三神たちに話してしまったことから兼高が潜入捜査官であることがバレそうになる。
見ていて、「あー!あー!ダメ、室岡!それ喋っちゃダメ!!!」ってやきもきしたよ。。まぁその前に兼高自身がかつて勤務してた交番の近くを通って、「梧郎!」と呼びかけられるヘマをやらかしてるのがいかんのだけど。

「東鞘会」では色々あって会長秘書だった熊沢が死んじゃって、その葬儀の席で会長十朱が「次の秘書は兼高」って指名する。兼高が秘書になるということは、室岡とのバディは解消ということで、傷心の室岡は三神に喧嘩をふっかける。
三神が「いい加減にしろ、会長になんて口の利き方だ」みたいなことを室岡に言ったのが気に食わなかったんだけど、「死刑囚の息子は×××××なのかよっ!」(すいません、台詞覚えてません)と勝手に曲解してぶちキレて三神をボコる坂口健太郎がとても良い。すごく良い。

ボコられた三神は「ちょ、待てよ」と室岡に出月梧郎の話をするのです。「おまえの大事な兼高が出月梧郎なのかもしれないんだ、兼高はアンダーカバー(潜入捜査官)だ」と。

「嘘をつくならもっとマシな嘘をつけ!」と室岡は三神を殺してしまい(らせん階段から突き落として結果的に殺す)、三神の手下たちから追われる身に。
逃げる時に、序盤で兼高に「おまえ寝技向いてねぇな」みたいに言われてた技をちゃんと決めてた(ように見えた)のが良かったなぁ。

異変を察した兼高も駆けつけてて、雨に打たれながら兼高に取りすがり、「兄貴は警察の犬なんかじゃないよな?」と聞く室岡。「生まれてからずっと悪夢の中にいるようだった。けど、兄貴とはうまくやっていけると思ったのに」――。

兼高はもちろん自分が潜入捜査官だなどとは言わない。「俺はおまえと同じ、地獄の犬だ」と答える。

警察の犬ではなく地獄の犬。
どっちにしても、狂った犬。

室岡は逃げて、その後はラストまで兼高とは会えない。
怪我を負った室岡が、ちゃんと隠れ家のピラミッドパワーで傷を癒してるのがなんかせつない。

で、室岡は例の事件の遺族に「出月梧郎ってこの人?」と写真を見せて兼高=出月だって確証を得ちゃう。兼高の否定の言葉、信じてなかったんだなぁ。いや、逆に信じてたのかな。「あの人ならそういうこともするかもしれない」と。
室岡は出月のことを「尊敬する」と言っていたわけで、大好きな兄貴が――「一生ついていく」と思ってたに違いない兄貴が、そんな尊敬できる人間だったっていうのは、室岡にとっては「なるほど」だったかもしれない。もちろん、自分や組をずっと裏切っていたことに対しては、激しいショックと絶望を感じただろうけど。

三神が死に、室岡が行方をくらませ、警察はいよいよ「東鞘会」を潰せ、と潜入捜査官たちに命令をくだす。

潜入してたのは兼高だけじゃなくって、東鞘会幹部・土岐の“女”であり、兼高ともできてた恵美裏も実は警察の犬だった。途中で「この女、怪しいな」と思ってたらやっぱりそうだったよね。
兼高も恵美裏も、終盤まで互いの正体は知らなかったんだけども。

恵美裏は土岐を、兼高は十朱を、そしてマッサージ師の大竹しのぶは幹部の大前田を殺す。

「東鞘会」幹部3人が同時にやられて組は瓦解……なんだけど、そんなこととは知らない室岡が土岐のもとを訪ね、恵美裏と鉢合わせ。「何やってんだ、てめー!」と恵美裏を〆ようとするも、恵美裏に「私に何かあったら兼高が黙っちゃいないよ。兼高は私の男なんだから」と啖呵を切られ、室岡は彼女を人質にします。

人質にして、兼高を呼び出す。

呼び出す時のハイテンションなビデオ通話がまたねぇ。

やってきた兼高に対して、室岡は「兄貴にとって俺は何だったんだ」とか質問する。兼高は「おまえは神だ、おまえがいたから俺はここまで来れた」とか答えて。

室岡「アンダーカバーかどうかなんてどうでもいい、二人で組に戻ろう」
兼高「もう組はない、全部終わったんだ」

はぁ、つらい。つらいねぇ。室岡にとって組は居場所だったし、兼高とバディを組んだこの一年は、悪夢のような人生の中で唯一キラキラした楽しい時間だったのに。

だから室岡は最後の質問として「この女と俺とどっちが大事なんだよ!」って聞いちゃう。言うかー、それ言っちゃうかー。
室岡が恵美裏に銃を向けた瞬間、兼高の銃は正確に室岡の眉間を撃ち抜く。

あああああああああ、室岡ぁぁぁぁぁぁ。

「マッドドッグで始まって、ヘルドッグで終わる」
室岡を撃った兼高は、自身のこめかみに銃を当てる。始末をつけようとする。
でもそれを恵美裏が止めるんだよぉ。後ろから抱きついて、止めちゃうの。

邪魔!
恵美裏邪魔!!!

まぁ生き続ける方が兼高にとっては地獄かもしれないけど、「おまえを殺して俺も死ぬ」をまっとうしてほしかったなぁ。室岡可哀想じゃん……。

最後、一年前の、兼高と室岡の出会いのシーンに戻って、兼高に羽交い締めされながら「楽しい~!」って笑ってる室岡の姿で終わるんだよね。
あざとい。
演出があざとい。


室岡の人生って何だったんだろう。
最後に兼高に殺されたのは、本望だったんだろうか。楽しい時間が続けられないなら、兼高自身の手で終わらせてもらいたかったのか。

東鞘会なくなって、大好きな兄貴も警察の犬で、この先室岡はずっと逃げ続けるか、捕まってこれまでの罪を償わされるかしかないもんなぁ。
杏南に「足洗ってよ」と言われても、「今のままがいいんだ」って答えてたぐらい、「今が楽しかった」のに。

なんか、兼高はなんで最後まで「警察側」なんだろう、って思ってしまった。
とっさに室岡を撃ってしまったのは、あれはどういう心理なのかなぁ。私の希望として、そんなに恵美裏を大事だとは思ってない――“恋人”として大事だとは思ってない気がするんだけど。彼女がアンダーカバーでなくても、兼高は彼女を護ったのかなぁ。

警察が兼高を東鞘会に送りこんだ最終目的は十朱の持ってる秘密ファイルを確保することで、そのファイルが何かって言ったら、十朱が警察から持ち出した資料なんだよね。実は十朱もアンダーカバーで、まさに「ミイラ取りがミイラになる」でヤクザ側に寝返っちゃってた。警察よりもヤクザの方が、自分の望む商売ができたから。

十朱は兼高に仲間になるよう持ちかけて、でも兼高は応じない。
兼高は何のために十朱を殺すんだろう。
それが潜入捜査官としての彼の仕事だけど、被害者遺族に金を渡すためなら、ヤクザの金でもおんなじだよね。法の外側で犯人を処刑した時点で、兼高はもう「きれいな金」云々言えないでしょう。

兼高が十朱を殺すのは、別に正義のためではないよね…?

十朱の誘いに乗ったら、また誰か違うアンダーカバーが送りこまれて、狩る側から狩られる側に回る。誰かが終わらせるまで、きっと延々と続く(のかな?警察しつこいな)。
終わらせようと思ったのかな。
今回の仕事が終わっても引退しない、って確か言ってたし、ヤクザの金よりかは警察からの報酬の方がやっぱり「お見舞い金」としてはいいのか。

「終わらせる」といえば、兼高と十朱が二人して同じ「詩」のようなものを口ずさんでて、調べたら「金枝篇」の一節っぽいのだけど、「森の王」がどうのこうの、「湖のほとり」がどうのこうの……。
「新たな王となるものは現在の王を殺さねばならない」みたいなお話らしい。


元は警察の人間でありながら東鞘会を乗っ取った十朱は「いつか自分と同じような人間(警察の犬)が自分を殺しに来る」と思っていたし、兼高は兼高で、素性を隠して東鞘会でのし上がりながらも「いつか誰かが自分を殺す」と思ってきたのだろう。

兼高が室岡に「おまえは俺にとって神だった」と言ったのは、「俺を殺すのはおまえだと思っていた」ってことなのかなぁ。あるいは、無邪気に自分を慕う室岡がいることで、逆に兼高はヤクザに染まらずに、「自分は裏切り者なのだ」という意識を持ちつづけられた――。


十朱役はMIYAVI。ヤクザっぽくないけどでも堅気にも見えない冷たい美貌の持ち主、すごく雰囲気があって格好良かった。存在感がすごい。

恵美裏役の松岡茉優さんはこれまでのイメージを覆す「ヤクザの情婦」。兼高に積極的に迫るシーンとか、お互いの正体がバレるシーンのあっけらかんさとか、非常にチャーミングでした。

恵美裏に裏切られ、殺される、可哀想な“親父”土岐は北村一輝。どんな役でも格好良くて大好きだけど、ヤクザ似合うわぁ(笑)。

十朱の秘書熊沢はオペラが趣味でめっちゃ歌うまくて、「ええっ、この役者さん誰!?」と思ったら『エール』のイヨマンテの人だった。元劇団四季の吉原光夫さん。役名が“熊”なの、イヨマンテと繋がってて面白い。

バーのママとしてバービーボーイズの杏子さんが出てらしてびっくり。客とちょろっとカラオケしてる場面があったけど、歌声はあまり堪能できなかったなぁ。でも素敵なママさんでした。

三神役ははんにゃの金田くん。公式サイトで「インテリチキン」と紹介されてる役だけど、そういう雰囲気がぴったりで良かった。冒頭、兼高と室岡の相性が98%っていうところで、三神とはめっちゃ低い相性って紹介されてた気がする。「確かに」って思わせるキャラクターだったなぁ。

総じてキャスト陣はみんなよくハマってた印象。

岡田くんのアクションはどれも凄かったけど、一番気に入ったのは車の中で「俺にこんなことしてタダで済むと思ってんのか?」とあっという間に3人ボコボコにしちゃうシーン。
三神が室岡に殺されたあと、「室岡どこに匿ってんだよ」という感じで三神の手下たちに車に押しこまれて、でもあっさりたたきのめしちゃう。車内という狭い空間でそんな大きく動けないのに、腕の振りだけで3人制圧するのが鮮やかで鮮やかで。

あと十朱との一騎打ちの前に十朱のボディガード2人を始末するとこ、事前に机の下やら引き出しやらに銃を隠しておいてそれらを使いながら戦うのが面白かった。単に体術に優れているだけでなく知略があって、しかも圧倒的な体術があるからこそその知略も生きる、みたいなのがねぇ、すごいよねぇ。


最後、室岡が兼高を呼び出す場所が「東鞘会の先代が引退したヤクザのために作ろうとしたリゾートホテル」の残骸―廃墟―だったのも、なんか意味深だったな。中盤で十朱が「いつかここを再興したい」みたいなことを言ってたけど、ヤクザに「のんびりした老後」なんて普通はやってこないわけで。

誰もたどり着けない夢の場所。
ヤクザたちの天国。

そうなるはずだった場所で室岡は死んで、十朱も土岐も、東鞘会の幹部だった人間はみんな死んで、そして。
兼高は死ねない。
兼高の地獄は続いていく。