(※以下ネタバレあります。これからお読みになる方はご注意ください)


『あぶない刑事インタビューズ“核心”』の中で、「刑事ドラマを書くなら必修科目」という扱いをされていた87分署シリーズ。良い機会なので手に取ってみました。

50年にわたり、全56巻が刊行されたシリーズの記念すべき第1作目がこの『警官嫌い』。1956年(昭和31年)の作品で、3年後の1959年には邦訳が出版されています。シリーズ全作邦訳されてるの、すごいですよねぇ。続きがさっぱり出ないことも多いのに。

架空の街アイソラを舞台にした警察小説で、アイソラのモデルはニューヨーク。警察機構もニューヨーク市警がモデルになっているようで、冒頭に「場所も人物も架空だが、警察活動は実際の捜査方法に基づいている」とのただし書きがあります。

指紋や同一の銃から発射された弾丸かどうかといった「鑑識」捜査がすでに充実していて、犯人の毛髪や皮膚片からも色々情報を引き出しています。1ページ使って「前科記録カード」を出したり、「ラインナップ」という市警本部で行われるイベントも詳しく記述されています。

ラインナップの目的は、できるだけ多くの刑事に、その街で悪事を働く人間の顔をできるだけ見せておこうということだけである。 (P168)

要は、市内で前日に捕まった犯罪者を一人ずつ舞台に上げ、各分署の代表者2名を集めた席で簡単な尋問を行うというもの。へぇ~と思いました。

さて。
事件はまず、一人の警官が何者かに射殺されるところから始まります。87分署の刑事マイク・リアダンが夜勤のために分署に向かおうとしていた時、二発の銃弾が彼の頭を貫く。

撃たれるまでの描写がなんともいいんですよね。奥さんとの何気ないやりとり、まさかその直後に「死」が待っているなどと思わず、いつもどおりに出かけてゆく男。他愛のない日常が、突然断ち切られる。

最初、「この人が主人公なのかな?」と思って読んでたこともあり、「え、死んじゃうの!?」と軽くショックでした。子どもたちの頭を撫でたり、「クーラー買わなきゃ駄目か」とか思っていた人が、あっさり……。「夜勤」だけど、彼の職場が「どこ」なのか、死んでから明かされる手法も巧い。

何の手掛かりもないまま、さらに87分署の刑事が同じ銃により殺されます。犯人は警察に恨みを持つ者なのか?

読みながら、「もしかしたらこの人も殺されちゃう?」とドキドキしていたら案の定3人目の犠牲者が。しかしここで犯人の毛髪や皮膚片が採取でき、また、犯人に怪我を負わせることもできた。3人目の犠牲者ハンク・ブッシュが頑張ったんですよね。主人公であるスティーヴ・キャレラと一緒に事件を捜査していたハンク、それなりに親しみを持って読んでいたキャラクターがあっさり犠牲に。

事件の真相に関しては、途中で「こういうことかな?」と予想がつきました。ハンク……可愛そうな奴。てゆーか残り2人も可哀相すぎるけれども。

めちゃくちゃ面白い!という感じではなかったけど、サクサク読めて「なるほどこれが刑事ドラマのバイブルか」と興味深かったです。もう何冊か読んでみたいと思います。