花組の『うたかたの恋』を見ながら、どうしても13年前に見た星組の『うたかたの恋』を思い出してしまって、「あの時この役は誰がやってたんだっけ?」とかよけいなことを色々考えてしまったせいか、はたまたお話をもう全部知ってるせいか、期待していたほどは感動しなかった……。

13年前は、逆に予想以上に良かったんだよね。「この役を是非やりたい」と言っていたシメさん(紫苑ゆう)が怪我のため休演し、急遽準トップだったマリコさん(麻路さき)が主演を務めることになって、その初々しくも堂々たる大劇場初主演ぶりが印象的だった。
むしろシメさんよりマリコさんの方がルドルフは合っていたのか、と思ったほど。
東京公演ではシメさんが復帰して、きっとシメさんはシメさんで「超正当派白馬の王子様」「濃くて色気たっぷり」なルドルフだったろうと思うのだけど。

『うたかたの恋』は、かのオーストリア皇妃エリザベートの息子であるオーストリア皇太子ルドルフと、男爵令嬢マリーの悲恋物語。二人は最後、雪のマイヤーリンクで心中してしまう。

とても宝塚的な哀しいロマンスなんだけど、けっこう舞台進行は淡々としてて、主役のルドルフは意外に「しどころがない」。マリコさんのルドルフについて、「悩める純な青年将校」というイメージを記憶していたのだけど、ルドルフは既にベルギー王女と政略結婚していて、気鬱を紛らすために色々と女遊びもしているので、実は特に「純な青年」ではない。
自由主義に傾倒し、「新しいヨーロッパ」を作ろうという気概は持ちながらも、皇太子という窮屈な立場にもがき、日々をアンニュイに過ごしている。それが、「可憐で純な乙女」マリーに出会って真実の愛に目覚め、生きる喜びを得て……となるのだけど。

春野さんのキャラクター的には、前半の「アンニュイな皇太子」の方が合っている。
劇中劇で「ハムレット」を演じるところが、春野さん的には一番の見せ場かな……とか(とてもカッコよかった)。

なんか、後半は食い足りなかった。

母が、「昔の方が演出も良かったし、大体照明の落ちるのが早すぎる」とか通なダメ出しをしていたが。
演出の違いを指摘できるほど、星組版を覚えてない。

マリー役が、星組は大女優白城あやかちゃんで、今回はまだまだ初々しい桜乃彩音ちゃん。とても可憐で役としてはぴったりだけど、いかんせん歌が弱いし、セリフの発声も悪い。まぁ芝居が下手なわけではないんだけど、セリフが聞きとれない部分があるので……要修行。

これは私の趣味の問題だけど、春野ルドルフなら、最後は心中ではなくて、自分だけ死ぬべきだ。マリーを愛しているからこそわざと遠ざけて、自分だけ陰謀の渦中に戻り、従容として運命を受け入れる……それが春野ルドルフにふさわしい結末だと思う(もちろん『うたかた』はそーゆー話ではないので、そんなこと言っても仕方がないが)。

なんというか、春野さんは、ヒロインとがっぷりにならない方がいいな。
「きれいなお兄さんの相手役は少女ではない」。
男役同士での友情とか葛藤とか敵対とかのところに、ヒロインが絡んでるのが良いと思う。
元々、私はそーゆー、トップと準トップとヒロインのトライアングルがうまく機能しているのが好きだし、特に春野さんは「一人すべてを悟っている」みたいな人なので。

愛に生きてはいけないのよ(笑)。

それにしても。
13年前、マリーとルドルフだったあやちゃんとマリコさんは、その後エリザベートとトートになり、今回はトートとしてルドルフを死にいざなっていた春野さんがルドルフ……。

『エリザベート』を見たせいもあるのかな。
今回のルドルフがピンと来なかったのは。
『エリザベート』では、ルドルフは一人で殺されちゃう。マリーの姿は出て来ない。
それは、皇室がマリーを歴史から抹殺したせいで、「お話の最後がルドルフとマリーは一緒でした、なら私にはハッピーエンドなの」と言っていたマリーの遺体は、一人さびしくマイヤーリンクに取り残される。
死ぬところより、この、「死んだ後」の下りが、とても哀しかった。やっぱり、この話はルドルフにとっての悲劇ではなくて、マリーにとっての悲劇で、だからルドルフを「カッコいい」と思えないんだろうな。

翻って、大劇場で見た時はそれほどとも思わなかったショー『エンター・ザ・レビュー』は楽しめた。
不思議なもんだなぁ。