「佐々木淳子傑作選」と銘打たれたコミックスです。

いや、ホントーに傑作!!!

表題作の『SHORT TWIST』、1988年、もう20年以上も前の作品ですけど、すごいです!

正直『リュオン』以上にこっち買って良かった!って思います。

佐々木さんお得意の「時間」ネタなんですけど、「意識」だけが過去へ未来へランダムにタイムスリップしてしまう3人。16歳の「意識」が26歳の自分の肉体に「トリップ」してそこでの時間を過ごしてしまう。あるいは過去の、5歳の肉体に入り込んで何分か何時間か、長い時には何日をも過ごす。

そんなことが起こるようになってしまったのは未来(16歳のヒロインの意識にとっての“未来”)で起こる「事故」のせいらしく、その「事故」が起こらないように3人はそれぞれ頑張るんだけど。

タイムトリップネタのパラドクス。

「その事故を起こらないようにするための努力が、結果的に事故を起こすのではないか?」

「世界の時間」というか、できごとの連なりである「歴史」が「不可逆」なものであるならば、過去の時点に遡って何か工作をしたとしても、未来はそれを織り込み済みで出来上がっているはず。

肉体ごとタイムスリップしてしまうお話では同じ時点に若い自分と未来の年取った自分が同時に存在してしまって、もうその時点で「つじつま合うんだろうか?」になっちゃうんだけど。

もしもその後「歴史が変わらない」とすれば5歳の自分は未来の自分に会ったことを覚えたまま大きくなるはずで、「あ、俺もうすぐタイムスリップするはず」って“知ってる”はずだよね。

突然タイムスリップして、「うわ、なんだよ!げっ、あれ子どもの俺じゃん!」って方が多い気がするけど。

「5歳の自分は未来の自分に会っていない」という歴史にタイムスリップして介入したら「その後の歴史」は変わるはずで、「元いた未来」に戻った時に全然世界が変わってしまっているとか、さらにもう一人「自分」がいるとか、おかしなことになる。

「5歳の自分は未来の自分に会っていた」歴史が既にあったのなら、タイムスリップしても大丈夫……なのかな?

『SHORT TWIST』では肉体は普通に一直線の時間を刻んでいて、精神だけが過去や未来の自分の肉体の中へ「トリップ」する。

まだ「時々記憶が途切れることがある」としか事態を認識していないヒロインは精神科で「多重人格かも」と言われ、「生後3か月で変なこと言ったらしいんですけど、そんな赤ん坊の時から多重人格ってあるんですか?」と医者に尋ねる。

やけに冷静というか落ち着いてるヒロイン操ちゃん、すごいと思うけど(笑)。

その後しばらくして「生後3か月」への「トリップ」が起き、「ああ、こういうことか」ってわかる。

つまり、「織り込み済み」の歴史がちゃんと積み重なっているんだよね。

未来の意識が過去へ飛ぶ時、過去の意識にとってそれは「空白」として記憶されていて、「未来の意識」が過去の肉体を用いて行った言動は「その後の未来」を形作っている。

3人のうちの1人は「未来の事故」を起こさないために別の1人を殺してしまおうとするんだけど、その彼の行動も織り込み済みで「未来での事故」は起きてしまったはずで……。

これだけでも十分面白い「時間SF」なんですけど、最後にもう一つ「えーっ!」っていう展開というか「裏」というか、タイトル「SHORT TWIST(短い捻れ)」の意味が明かされて「参りました!」ってなるの。

もうホント佐々木さんすごすぎ。

最後に書き下ろし「LONG TWIST」が入ってるんですけどね。操ちゃんの息子たかふみ君はもしかして…?という、ね。

「SHORT TWIST」での事件の落着の「意味」と「LONG TWIST」での「意味」が変わっちゃってるようにも思うんだけど、「織り込み済みの歴史」を突破したのなら、未来は幾通りあってもおかしくないし……。

いやぁ、ホント傑作。

『ベビーNの幸福』は代理母問題を正面から取り上げたもの。ゲイのカップルの子ども(二人の精子から取り出した染色体を、核を抜き出した卵子に入れて受精卵を作るとかなんとか)を生んだ代理母がその赤ん坊への愛情を止められなくて……という。

これも1988年から1989年にかけて発表された作品なんだけどね。

カップルが「ゲイ」で、「男同士で子どもはそもそも無理」っていう前提があるからいいようなものの、普通の男女のカップルだったらもうドロドロの「親権争い」になるのは間違いないよね。

その、やっぱり、不自然だと思うんだ。

「できる」からって「やっちゃいけない」ことはあると思うんだ。

生身の人間ではない「代理母」=「人工子宮」のようなものが実現すればまた違うけど、でもそれだってやっぱり……。

そして『オパールの竜』。

これがまた!!!

主人公の少年が見つけた「竜の化石」。実は――。「自分達を犠牲にしてまでこのすばらしい世界を創ってくれたやさしい竜達」っていうのがなんとも痛烈な皮肉で。

しかも最後の1コマ。

「ああっ、そういうことかっ!!!」

随所にそれを示唆するセリフ・絵はあったんだけど。

あああああ、そうかぁ、そういうことかぁ。

最後の2つのコマ。これ、文章で書くとすごい野暮になると思うんだ。「絵」ってずるいとしみじみ思わされる。

しかし「長男」って不幸だな、この世界……。

お勧めの1冊、絶版にならないうちに買うべし!