久しぶりに読んだ『十五少年漂流記』が大人になってもやっぱり面白かったので、ヴェルヌの他の作品も読んでみようと思い、図書館で借りてきました。

なんでこれにしたかっていうと、図書館に創元文庫であったのがこれと『月世界へ行く』で、月と地底とどっちが面白いだろ?と思って地底を選んでみた。

変わり者の学者リデンブロック教授がひょんなことから300年前の錬金術師の残した「暗号」を手に入れ、その解読に成功し、「アイスランドのとある山の火山口から地球の中心に行ける」というその内容を信じて張り切って探検に出かける。

物語は、その探検に運悪く付き合わされてしまった甥のアクセルの視点から描かれます。

このアクセル君がけっこうへたれで、「そんな地球の中心なんか行けるわけないだろ。冗談じゃない」と思いつつ、教授がずーっと暗号の謎に心を奪われてイライラしているのを見かねて「その暗号はこう読めばいいんですよ!」と教えてしまう。

いざアイスランドに向かっても、ずーっと「地球の中心なんて熱いんですよ、溶けちゃいますよ、行けるわけないでしょ、途中で火山噴火したらどーするんですか、帰ってこれませんよ、やめましょうよ、僕は嫌ですよ」とぶつぶつ言っている。

もちろん教授はそんなへたれな甥の意見など一顧だにしないので、哀れアクセル君は二度とは戻れないかもしれない旅へ足を踏み入れてしまうのだ。

旅の途中も「もう嫌だよぉ、えーん」という感じなのに、最後の方で「ホントにあの錬金術師はここまで来たんだ!」って証拠を見つけると俄然ハイテンションになって「前進だ!」と先走る。

こーゆー奴いるよなぁ(笑)。

でももちろんアクセル君の感覚が「普通」で、どんどん地底に潜り込んでいっちゃう教授の方が変。

地球の中心に向かえば向かうほど温度は上がるし、酸素はなくなるし、気圧だってきっとやばいし、「中心」なんかに行けっこない。何より持って行ける食糧や水には限度がある。ただの「洞窟探検」にしたって、何日も潜っていって迷子にならず無事戻ってこられる保証はない。

ましてや火山の噴火口を降りていくわけで、休火山とはいえいつ噴火するか、地震で岩盤崩落するか……。

何かあっても地上と連絡を取る術もない、そんな冒険にほいほいついていく馬鹿がどこにいるというね。

甥だったのが運のツキ。

もう一人地底へついていくのがアイスランド人の猟師ハンス。

またこの人がすごくて、そもそもは道案内と荷物持ちに雇われただけなんだけど、一切不平不満は言わず最後の最後までお伴して、しかもその技術、落ち着き、屈強な肉体で教授とアクセルの危機を何度も救う。

「地球の中心まで探検に。すごく危険で帰ってこられないかもしれない」なんてことはたぶん雇う時に言ってないのよ、教授。毎週ごとに現金で給料がもらえる、それが彼にとってはおそらくかなりの大金であるとしたって、地底じゃお金使いようもないし。

途中飲み水がピンチになったり、嵐に遭ったり、どう考えてももう元の道引き返せない=帰れないだろ、って状況になっても、表情も変えず、不満も言わず、主人たる教授が前進すると言えば前進し、黙々と自分のなすべきことを果たす。

物語の中には時々こーゆー人が出てくるけど、アクセル君にかなり近いへたれな私にはとても信じられません。

ハンスがいなかったら探検は成り立ってないよねぇ。

地底深く降りていって、でもさほど温度は上がらず、気圧は多少変わっても呼吸はでき(つまりずっと酸素が存在する)、あまつさえ、かなりの深さ(教授の測定が正しければ地下100㎞超)のところになんと「海」が……。

しかもその周辺は「失われた世界」になってて。

いくら本当には誰も見たことないったって、そんなバナナ!と思うのですが。

中心に近くなってもそれほどの「熱」はないかもしれない、っていうのは当時(1865年)本当にあった議論なのかな? なぜ「冷たいか」の科学的説明が本文にも出てくるけど、私の頭ではよくわからん…。

まぁでも、「月」以上に実際に人間が「行く」ことができないのが「地球の内部」ではあるよねぇ。

例のチリの鉱山事故で作業員が閉じ込められたのが地下700m。教授達は地下100㎞を優に超える。

そして鉱山事故では2か月半に渡って地下生活が続き、教授達も丸2か月経ってやっと地上へ戻ってくる。

着替えとかどーしてたんかな…。

最後、「髭も伸び放題で」って書いてあるけど、さぞ臭かったやろな。

ずっと日光も浴びられてなくて、病気になりそうだけど、3人とも怪我はしても病気になったりはしていない。干し肉とクラッカーみたいな食事なのにタフ。

地底だからインフルエンザウイルスとかアデノウイルスとかいないのかもしれないけど。

途中アクセルが他の二人とはぐれて真っ暗な中に取り残されるところは本当にドキドキで、なんとか合流できるそのきっかけも面白い。

火山口に辿りつくまでが意外と長くて(全338ページで、地底旅行が始まるのは136ページ)ちょっと退屈だったけど、地底入ってからはサクサク読めた。

教授の不屈さというか、無茶すぎる前向きさとアクセル君のへたれの対比、そしてハンスの泰然とした落ち着き。

人物造型も地下世界の活写も、アクセルの危機という盛り上げ方も、よくできてる。

ルパンと並行してヴェルヌ作品ももうちょっと読んでみようかな♪