ルパン全集も11冊目まで来ました。

と言っても、全集で読み始めたのは5巻からだったりしますが(^^;)

ちなみに1冊目は『怪盗紳士ルパン』、2冊目が『ルパン対ホームズ』、3冊目『ルパンの冒険』と来て4冊目が『奇巌城』となっています。

『三十棺桶島』……タイトルからして何やらおどろおどろしい感じですが、中身もかなりヤバいです(笑)。

「横溝正史の『獄門島』や『八つ墓村』の原型がすでに描かれている」と解説に書かれていますが、まさにそんな感じ。

舞台はブルターニュ地方の孤島。周囲に危険な岩礁がたくさんあることから「三十棺桶島」と呼ばれている島。

ヒロインのベロニックは偶然見た映画の中に自分の娘時代のサインが書かれた「あばらや」を発見し、どうしてそんな見覚えのない建物に自分のサインがあるのか気になり、探偵を使ってその「あばらや」の場所を探し出す。

訪れた「あばらや」の中には老人の死体!そして四人の女が四つの十字架にはりつけにされている絵。しかもそのうちの一人の頭上にはまたしてもベロニックのサイン、自分の名前が!!!

もうここまでだけで「えぇぇぇっ!」という展開なのですが、まだたったの26頁。全523頁の大著の中の、ほんの冒頭です。

ベロニックはまた別の箇所に書かれた自分のサインと矢印、数字をたどって海岸へ出、三十棺桶島に渡ることになります。なんとそこには14年前に死んだと思われていたベロニックの父と息子が住んでいたのですが、次々と悲劇が起こり、あっという間にベロニックは「その島にたった一人取り残される」ことに。

150頁くらいで、島の住人みんな死んじゃうの。謎のあばらやで見つけた通り、3人の女は3つの十字架に架けられて。

4人目、最後の一人、ベロニックもはりつけにされてしまうのか!?

一人残されたベロニックがかなり気丈でびっくりしてしまいます。島の住人達は昔から伝わる謎の言い伝えに怯え、怯えるあまりに気が違って自分から死を選んでしまったりもしたんだけど、ベロニックは正気を保っている。

これまでのルパン作品と同じく次から次へ、これでもかという感じで事態が二転三転し、頁をめくる手が止まりません。

そして今回もルパンは途中出場。前作『金三角』で主人公二人が絶対絶命だったのを救ったように、今回もいよいよベロニックが絶対絶命な時になってやっと現れてくれます。

もうちょっと早よ来たってぇや(笑)。

『金三角』では主人公ペルバル大尉の部下がルパンのことを知っていて、ルパンにSOSを発するのですが、今回もSOS自体はかなり早い段階で出ているのですよね。

しかも『金三角』のペルバル大尉がちょっと前に三十棺桶島を調査に来て、島に伝わる秘密のことを知り、「それならうってつけの人物が」とルパンを紹介するという。

これぞ全集を順番に読む楽しみ。

ルブランの遊び心が嬉しい♪

もちろん「アルセーヌ・ルパン」と言って紹介しているわけではなく、『金三角』と同じドン・ルイス・ペレンナというスペイン人貴族として紹介しているんだけど、ベロニックの息子のフランソワは「きっと彼が助けに来てくれる」と救世主扱いで待ち望んでいた。

どうせならもうちょっと早く来てくれれば島の住人も死なずにすんだんだけど、「いよいよヤバい」という時になってやっと現れるからこそのヒーローではあります。

残り3分の1くらいのところで現れたルパンはベロニックを救い、真犯人をやっつけ、島に伝わる謎の「神の石」の正体も暴き、すべてはめでたしめでたし。

いや、だから島の住人30人くらいもう死んじゃってる(^^;)

ルパンが真犯人をもてあそぶところもあるけれど、基本的には謎解きをしてくれるだけなので、やはりヒロイン・ベロニックに次々と降りかかる悲劇&負けずになんとか後半まで戦い続けるベロニックのがんばりが白眉。

ルパンシリーズのヒロインはみんな美しいだけでなく、芯が強いよね。

読んでて思ったのは「予言の遂行性」。島に伝わる言い伝えの半分は実はテキトーなでっち上げだったんだけど、繰り返しそれを聞かされているといつの間にかみんな洗脳されて、「予言が実現するように」行動してしまう。

島の住人達が命を落とすことになるのも予言を信じすぎてパニックになったあげくで、冷静に対処して「実際に手を下している悪い奴がいるはずだ」と島内を探索していれば、少なくとも住人全員が犠牲になることはなかっただろう。

「予言の遂行性」というのは内田センセがよく言ってらっしゃることだけど、自分で口にした言葉が自分の行動を縛っていく。いいことであれ悪いことであれ、「ほら言った通りになった!」という結末を得たいがために無意識に「実現するための」行動をしてしまう。

それが古い言い伝えや語り継がれてきたことならなおさら信憑性が強くなって、信じているがゆえに一層行動を縛るように……。

「言葉にする」というのは本当に怖ろしいことだなぁ。

そして伝説の「神の石」。これは嘘っぱちではなく実際に存在したんだけど、「人を生かしも殺しもする」と言われたその石は、実はラジウムの鉱石。

放射性物質のことが話題にのぼらない日はない今、なんとも意味深な「神の石」であります。



続く『虎の牙』は二分冊の大長編。3作続けて「ゲスト出演」だったルパンがやっと「主役」として帰ってきました!

『金三角』『三十棺桶島』で名乗っていたドン・ルイス・ペレンナとして登場するのですが、かなり早い段階でみんなが「こいつはルパンではないのか?」と疑いの目を持ち出す。

『813』事件でルパンは死んだことになっていて、たとえ正体がバレても「死人を逮捕することはできないでしょう?」なのだけど、さて。

ドン・ルイス・ペレンナは「二億フランの遺産」を残して死んだモーニントンという人物の相続人に選ばれていました。ルパンがペレンナとして外人部隊で活躍している頃、モーニントンの命を救ったことがあり、多大な信頼を得て、「もしも自分の親族が誰も見つからなかった暁には遺産はペレンナのものに」と遺言されるのです。

そこで刑事がモーニントンの親族について調べていたのですが彼は毒殺され、死ぬ前に「今夜二重殺人が起こる」と警告を発していた。

第一相続人である技師の家で殺人がある、という警告にペレンナことルパンは早速その家に駆けつけ、技師の寝室のすぐ隣で張り込みます。ルパンと、実はルパンの手下である巡査部長と二人で張り込んでいたにも関わらず、誰も技師の部屋に出入りしなかったにも関わらず、技師はベッドで死体になっており、別の部屋でやすんでいた技師の息子も同じく亡くなっていた。

警告通りの二重殺人!

ルパンが張り込んでいたのに殺された。そして技師とその息子が死んだということはルパン=ペレンナに二億の遺産が……ということはつまりルパンが犯人!?

しかし庭から歯形のついた林檎が発見され、その歯形は技師の妻マリー=アンヌのものとわかる。そして彼女は技師とはいとこ同士であり、実は彼女もモーニントンの遺産相続人だった。

「動機あり、証拠(歯形)あり」としてマリー=アンヌが逮捕され、ルパンへの疑いが晴れたかに見えたのだが……。

『虎の牙』というタイトルは林檎についた歯形を差しています。

「♪殺人現場に林檎が落ちていた~ガブリとかじった歯形がついていた~♪」という郷ひろみ&樹木希林の『林檎殺人事件』は本作品がモデルだったりするのでしょうか?

謎が謎呼ぶ殺人事件、歯形はついていたものの本当にマリー=アンヌが犯人なのか。

見えない敵とルパンとの行き詰まる戦い、ルパンの屋敷の使用人フロランス嬢の不可解な行動、急速にフロランスに惹かれていくルパン。

途中で「技師とその息子」の殺人の真相には私も「当たり」がつき、作品内でもルパンが見事に解明してくれるのですが、しかしここで終わらずまだ「どんでん返し」があるのがルパンシリーズ。

「虎の牙」=「歯形」の謎は解かれていないし(これはまぁみんな割と早い段階で思いつくと思うんだけどな、現代なら)、遺産の行方は?黒幕は?何よりルパンの恋の行方は!?

真犯人像はかなり無理矢理というか、今だったらこういう造型にできないな、っていう……。前半まったく出てこない、推理のしようもない存在ではあるし。

もちろん「真犯人が別にいる」というほのめかしと、彼の関係する「場所」は出てきてはいるんだけど。

「推理小説」としてはかなりズルい感じのする真犯人。まぁルパンは「冒険小説」だし、何度も窮地に立たされながらそれを脱するルパンの活躍はホントにどきどきわくわく。「おいおい、どうなるんだっ!」と頁を繰らずにいられない。

冒険には勝っても恋愛には勝てないルパン、という印象だったのですが、今回はついに!

めでたしめでたしの結末!!!

いやー、懲りずに惚れた甲斐があったね(笑)。でもいくら何でも惚れっぽすぎるだろ、ルパン(笑)。

ルブランはこれをルパン最後の作品にしようと思ってたのかな?と思うようなラストシーン。「この不機嫌の時代では、忘れてならない美点だよ。彼は微笑を絶やさなかった!」と自分で言うルパン。

うん、でも本当にそこが魅力だよね。どんなピンチに陥っても、「最後には俺が勝つ」と諦めず前向きに戦い続けるその不屈さ、自信、大胆不敵で女に弱くて粋でお洒落な男前。

全集はまだまだ続きます♪