だいぶ前に買って積ん読してた本。

梅田のMARUZEN&ジュンク堂書店に行った時に、「せっかくだから近所の本屋ではほとんど置いていない創元推理文庫&ハヤカワ文庫からいくつか」と思って、タイトルで選んだものです。

ダイアナ・ウィン・ジョーンズさんって、『ハウルの動く城』の原作者でもあり、「英国児童文学の女王」というふうに言われている方らしいのですが、全然読んだことがなく。

買ったはいいけど正直あんまり食指をそそられないままだったのですよね(笑)。

でもいざ読んでみたらこれが面白い。

ケンタウロスやらいくつもの多元世界、魔法も出てくるけど、ファンタジーというよりはドタバタコメディのような感じで。

特に上巻、前半部分は普通にイギリスの街をおっかけっこしてるシーンや、SFファンタジー大会の賑やかさが。

主人公はマジドと呼ばれる魔法管理官のルパート。26歳のイギリス人。彼のマジドの師であるスタンが亡くなったことで、新しいマジド候補者を選ぶ仕事を担わされます。

と同時に彼の担当区域であるコリフォニック帝国(地球世界とは別次元にある)で皇帝が暗殺され、そちらの後継者探しにも手を貸さねばならない。

あっちとこっちで難問を抱え込まされたルパート。まずはスタンから託された新マジドの候補者5人を捜してその適性を判断しようとするのだけど、これがなかなか捕まえられない。

やっと出逢ったイギリス人の女の子マリーは最悪の印象で、「こいつは問題外!」として候補からはずすのだけど、残りの4人を呼び寄せたホテルバビロンには魔法で遠ざけておいたはずのマリーとそのいとこのニックが……。

と、こう、あらすじを書いてみてもこの作品の面白さはあんまり伝わらないと思います。

マジド候補者選びのドタバタと、皇帝の後継者選びの騒動がしだいに結びついてくるその絶妙感、「ちょっとちょっと、どうなるの?」とページを繰らずにいられない語り口。

お話の語りはルパートが後に提出した報告書の体裁をとっていて、半分以上がルパートの一人称。途中マリーの一人称による報告、最後にニックの報告がついています。

お互いに初対面の印象が最悪だったルパートとマリーの距離がしだいに接近していく様子が実になんともうまい。

タイトルの「バビロンまでは何マイル」はマザーグースの詩なのですけど、これが作中では秘密の鍵として重要な役割を担います。マリーの命を救うために「バビロン」の秘儀を行わなければならない、そのためには一人のマジドに一連ずつしか知らされていないバビロンの詩を集め、その意味をうまく解釈する必要がある。

この秘儀が成功するのか、マリーは助かるのか、というところはやはりドキドキいたします。

しかし原題は「Deep Secret」で「バビロン」のバの字もないのですね。「深い秘密」っていう邦題だったら買ってなかったろうなぁ(笑)。

川原泉さんに同名のマンガ作品があって、その連想で買ってしまったようなものなので(もちろんお話はまったく違います)。



文庫版を買った後で図書館行ったら単行本が児童書の棚に並んでいました。

「児童書」というくくりに収めてしまうにはもったいないというか、かなり読書力のある子しか読めないんじゃないかと思ったりしますが……日本の子ども達の反応はどうなのでしょうかね。

作品の中で地球は魔法があまり信じられていない「負域」ということになっていて、主人公ルパートの兄でやはりマジドのウィルがこんなことを言います。

「だからおれは地球には住まないんだよ。どいつもこいつも、必ず合理的で科学的な説明をくっつけないと気がすまないんだからな。たとえ、その説明がどう考えても間違ってて、わめきだしたくなるようなときでもだ」 (下巻P34)

いや、なんか、わかります、その気持ち(笑)。