※以下、ネタバレあります。これからご覧になる方はご注意ください。


観てきました。

とにかく萬斎様が可愛かった!!!

萬斎様ファンにはこたえられない映画です。

『陰陽師』のような妖しい役、『オイディプス王』のような狂気を孕んだ悲劇の役、はたまた『鞍馬天狗』のような飄々とした格好良さ……どの萬斎様も素敵だけれど、のぼう様の萬斎様は可愛くてチャーミングでまた素敵。

田楽踊りのシーンとか狂言役者ならでは、と思うし、のぼう様のコミカルな味ってそもそも狂言的なキャラクターなのかな、と思えて、「萬斎様以外の誰にこの役ができるの!?」と思っちゃうのだけど、オイディプス王とか思い出すと「どんな役であれこの役は野村萬斎しかいないと思えるように萬斎様が見事に演じている」のだな、と。

何言ってるのかわかりませんね、はい(笑)。

とにかく萬斎様が素晴らしいんです(爆)。

可愛いかと思えば凛々しく、頼りないかと思えば「やる時はやる」。田楽踊りは作詞も振付も萬斎様ご自身でやってらっしゃいますが、あれは本当に、他の役者さんでは無理だよね。

他にもいくつか「作詞:野村萬斎」って書いてある劇中歌(?)があったんだけど、もしかして即興で歌わはったのかなぁ。

そしてあの舟の上での田楽踊りは本当に揺れる舟の上で踊られたのだろうか。あんなところで踊れるなんてものすごいバランス感覚、身体能力。

この間『嵐にしやがれ』にご出演なさった時、狂言での「きのこ」の動きとして、コサックダンス姿勢でさささぁーっと動き回ってらしたけど、狂言師って実はかなりのアスリートなのかも。

のぼう様のトボけたところ、飄々としたところ、普通の人とはちょっと違う、やっぱりちょっと「狂気」入ってるのかも、というところ。

いやぁ、本当に萬斎様素敵。

成宮くんも可愛かったし、佐藤浩市はさすがだし、ぐっさんも巧くてハマってたし、忍城のシーンは和やかでくすっと笑えるところが多い。戦国時代、「戦(いくさ)」の内実ってこんな感じだったのかな、小さいお城の家臣達の会議って「どーすんだよ」「お前決めろよ」「えー」みたいな、どこかのどかで和気藹々としたものだったのかも、と。

成宮くんは自称「戦の天才」、でもまだ一度も実戦に出たことがない。武芸自慢のぐっさんにバカにされて、「俺は戦略の天才なんだよ!」と言い返して、ちゃんとそれを実証してみせる。

2万超の石田軍相手に百姓入れてやっと3000人で戦う無謀な戦なのに、二人のやりとりは子どものケンカっぽいところがあって。

のぼう様以外の武将達にも、「悲愴」な感じがないのよね。

佐藤浩市演ずる丹波守はのぼう様とは幼なじみらしく、戦ではけっこう名を馳せた猛者で、「えーっ、めっちゃ強いやん!」っていう見せ場もあるんだけど、やっぱりちょっとコミカルな味付けがあるし、最後は武士をやめて寺を造る、っていう。

のぼう様はもちろんだけど、この3人の家臣のキャラクターがよくできてるな、と思った。

そんでその強い丹波をも投げ飛ばしちゃう強いお姫様が榮倉奈々。

男勝りの姫君で、のぼう様に惚れている。

のぼう様が彼女のことをどう思っているのかがはっきり明かされないところがまた良いです。

ってゆーか、のぼう様はあの時点で独身なんだろうか???

城主とのぼう様はいとこ同士で、城主の娘が榮倉奈々。城代家老だった父親が石田軍を前に亡くなっちゃって、「父上~~~!」と泣くのぼう様は一体何歳設定なんだろう……。

城主の妻で榮倉奈々の母親は鈴木保奈美。

姫のじゃじゃ馬っぷりは母譲りなんだな、と思う奥方。早々に「秀吉と内通する」と決めて小田原城へ向かった夫を「あんな腑抜けの言うこと気にしなくていい」と切って捨てる。

のぼう様が戦うと決めちゃった時も、水攻めで大変になっても、一向に動じる様子がない。

その、水攻め。

この描写が東日本大震災の津波を思い出させるということで公開が延期になったわけですが。

なるほど、こりゃ延期も仕方がない、と思うド迫力。

凄まじい水の塊が建物を壊し、田んぼを呑み込み、逃げ惑う人々。1年半経って、直接被害にあったわけでもない私が見ても、「うわぁ…」と思う。

地震の前だったら、「すごい迫力!すごい特撮!!!」ってただ感心したんだろうけどなぁ。

水が引いた後の風景も、ぐちゃぐちゃになった建物の残骸や木々がなんとも……。みんな生き残ったけどあの後衛生的に大変じゃないのかとか……。

うん、でも、よく撮ったよね、水攻め。公式サイトによると総計3000トンもの水を落としたとか。「1か月間水を流し続け」とかホントすごい。

秀吉の高松での水攻めも三成のこの忍城への水攻めも実際にあったことというのがまた。

よくもまぁねぇ。

で。

秀吉は市村正親さん。箱根湯本の温泉に入るシーンに既視感が…(笑)。『テルマエ・ロマエ』のハドリアヌスが秀吉に生まれ変わったのでしょうか。

三成は上地くん。ヘキサゴンでのイメージが強くて、俳優としての上地くんをあまり見たとこがないので、「え?萬斎様に対するのが上地くん???大丈夫?」と思ってしまったのですが。

うん、別に変じゃなかった。

「人間としてはいいヤツなんだけど、武将としてはバカ」な三成像が合ってるな、と(褒めてます)。

この映画の三成見てると考えさせられるよね。「数で圧倒されれば人は誇りなど簡単に失うのか」とか言って、忍城が戦いを決めると「それでこそ!」と喜ぶ三成。わざと「強い者には弱く出て、弱い者には強く出る」長束正家を使者に送り、「こんだけ居丈高に上から目線で“どーせ開城だろ?”という態度を取られても平気なのか?」と忍城の人々を焚きつけるんだもんなー。

さっさと相手が負けを認めて開城してくれると彼の「武功」にならない、というのはあるにしても。

戦う必要のない時にわざわざ戦って犠牲を出し、あげく勝てないとかなぁ。

最後に戦利品を巻き上げようとするのは長束で、三成は忍城を必要以上に蹂躙する気はないし、のぼう様を「天晴れ」と褒め、「良い戦いだった」とまで言う。

人間としてはいいヤツ……なんだよね?

でも水攻めで田畑をダメにしたのも三成、「撃ったらますますまずいことになる!」と言う大谷吉継の諫言を無視してのぼう様を「撃て!」と命じるのも三成。

のぼう様が撃たれた後、「これでこの戦は泥沼になった」と吉継が言って、水が引いた後の城がまさに“泥沼”なのに苦笑。

泥沼になった忍城で泥沼の戦いが幕を開けようとしたところで「小田原城が落ちたのでこれ以上の戦いは無用!」と使者(?)がやってきて、戦いは泥沼にならずにすむ。

これ、のぼう様の方にも言えることだと思うんだけど、「武を持つ者が武を持たぬ者を潰す、そんな世の中は嫌だ」で無謀な開戦を決めて、持ちこたえたからいいようなものの、犠牲はゼロじゃないし、水攻めで田畑はダメになってしまった。

3000人で2万人相手に戦う、弱い者が強い者に一矢報いるのは痛快でカッコいいけど、でも、下手したら百姓ともども全滅だったわけでしょう。圧倒的な物量で攻めてくる相手にあっさり兜を脱ぐ、それだって「生き延びるための術」ではあって、奥方に「腑抜け」と言われても、それで所領や領民が無事ならその方が「正しい」かもしれない。

戦になれば、勝っても負けても人が死ぬ。損害、消耗は免れない。

「戦わずして勝つ」のが一番いいわけで、圧倒的な数で押し寄せて「相手に戦う気をなくさせる」のもその戦法のうちだと思う。

無駄に煽って相手を戦う気にさせてしまった長束はバカだし、それを予想してわざわざ長束を使者に選んだ三成もバカだし、そしてのぼう様も、手放しで「偉い!すごい!」と褒めていいのかなぁ…と。

やっぱり戦争なんてしないのが、戦争を避けられなくなるような事態にしないのが、一番だよな、と見てて思いました。

当たり前だけど。

忍城城下の百姓達が、「我々も坂東武者の末裔」とか言って張り切って闘ってるのも、「人間ってなんだかんだ言って殺し合いが好きなんだろうか?」と思ったり。

「戦う」と決めた以上は、戦う以外にしようがなくなってしまった以上は、無理にでも自分を鼓舞して戦うしかないだろう、というのはある。でも前田吟さんめっちゃ戦い好きに見えたわ……。

「俺はいくつ首を取った!」とか自慢し合う百姓達。人間ってそういう状況になれば平気で殺し合えちゃうってことなのかなぁ。

水攻めで形勢不利どころか本丸にぎゅうぎゅうに押し込まれてなす術なし、になってしまうと百姓達、昨日までの意気はどこへやら、恨めしげに丹波ら城の武将達を見やるんだけどねぇ。

そんな、一気に士気が下がった百姓達も、のぼう様の命を賭した田楽踊りでまた「関白倒すべし!」になる。

「あいつら、のぼう様に手を出しやがって!」って、戦なんだし、そりゃ総大将出てきたら撃つやろ…。

開戦が決まった時に「俺たちも戦う」と前田吟さん以下村人達が決心したのも、「のぼう様が決めたことなら」だったんだよね。「のぼう様のためなら俺たちも命を張ろう」と。

「愛されるリーダー」というものについて考えさせられます。

ちょっと頼りないぐらいの方が、周りが「支えてあげなきゃ!」「助けてあげなきゃ!」って思うんだろうね。もちろん、ただ頼りないだけではダメで、「やる時はやる!」がないと「リーダー」にはなれないけど。

そしてもちろん、のぼう様が百姓達を愛していることも大事。

それが一番大事なのかな。

百姓達の田んぼ仕事をニコニコ眺め、赤ん坊をあやすのぼう様。

そんな日常があったればこそ、「のぼう様のためなら仕方ない」が出て来る。

強権的な「強いリーダー」が多い――というか、「強いリーダーにどかーんとこの閉塞感をぶっ飛ばしてほしい」と思いがちな昨今、のぼう様のような在り方は示唆に富みます。

のぼう様って、城主じゃないんだもんねぇ。

城代家老の息子で、開戦間際に亡くなったその城代家老は、頼りない息子よりも丹波の方を「総大将に」と言っていて。

でも結局のぼう様が総大将になっちゃう。

丹波以下の家臣の人柄も良かったのよねぇ、ホント。実戦の布陣についてはのぼう様は特に口出しもせず、彼等に任せてるし。そういうところもリーダーとしていいんでしょうね。下手にあれこれ指示しないところ。



あと。

カエルのお衣装が良かったです。百姓に下げ渡した小太刀にもカエル。

成田長親の紋所(?)はホントにカエルだったの?と思ったら、「田んぼを象徴する」ということでスタッフがカエルをモチーフに決めたそうな。(公式サイト参照)

舟の上でぴょんぴょん踊れるところからしてカエルっぽいもんね(笑)。公式サイトによるとやっぱり本当に揺れる舟の上で踊ったみたいだし。萬斎様すごすぎる。

でもあれ、堤の上にいる石田軍とか、本丸にいる百姓達のところから、ホントに見えたのかなぁ。歌、聞こえたのかなぁ。かなり距離があるみたいだったけどなぁ。昔の人は目も耳も良かったということかしら。



2時間40分という上映時間に、始まる前は「そんなに長いの!?」とビビったのですが。

萬斎様の一挙手一投足にわくわくしてる間にあっという間にクレジットロールでした。

萬斎様天晴れ\(^o^)/