2013年6月26日水曜日

『女探偵ドロテ』/モーリス・ルブラン



『1984年』があまりに陰鬱だったので、気分直しに借りてきました。

こんな時はドキドキわくわくの冒険物! ルブランさんに限ります!!!

偕成社版の完訳ルパン全集を読破したわたくしですが(先日の『ルパン、最後の恋』の記事に過去のルパン記事へのリンクをすべて貼ってあります。また、カテゴリ「ルパンに乾杯!」からもさかのぼれます)、まだ「別巻」5冊を読んでいませんでした。

「ルパン全集」の別巻には、ルパン物以外のルブランさんの作品が収められています。

まず1冊目は『女探偵ドロテ』。

「満天の星と下弦の月のもと…」という冒頭の一文だけでもうワクワクしてきます♪

予想に違わず面白くて、あっという間に読んじゃいました。『1984年』とはえらい違い(あたりまえ)。やっぱりルブランさん好きやわ~。

ルパンシリーズの『カリオストロ伯爵夫人』の中で、「四つの謎」というものが語られているのですが、そのうちの一つを解くのがこの本です。

四つの謎とは

1.イン・ロボール・フォルチュナ

2.ボヘミア諸王の敷石

3.フランス諸王の富

4.七本枝の燭台

で、3番の「フランス諸王の富」というのがかの有名な「奇巌城の秘密」であり、2番は「三十棺桶島」で、4番は「カリオストロ伯爵夫人」の中でそれぞれ解かれます。

つまり、4つのうち3つはルパンの冒険なのですが、1番の「イン・ロボール・フォルチュナ」だけなぜかルパンではなく本作の主人公ドロテが解き明かすのです。

「女探偵」という日本語タイトルになっていますが、原題は「綱渡り女芸人ドロテ」とでも訳すものだそうです。

そう、主人公ドロテは家馬車に乗って町から町へ興行の旅を続けるサーカス団の団長。まだ21歳の若さでありながら団員の4人の子ども達の「母親」役をも務め、自身も綱渡りや軽業をこなす女芸人。

しかしてその実態は!

愛の戦士キューティハニーだ!……ってことはもちろんありませんが、実は彼女はアルゴンヌ公爵令嬢だったりもするのです。

公爵令嬢でありながら旅の軽業師。

もうホント、この設定だけで「つかみはOK!」ですよね(笑)。

公爵令嬢といっても両親とは離れて田舎で育てられたらしく、また、現在は父母とも亡くなり、みなしごになっています。父を戦争で失ったドロテは、自分と同じように戦災孤児の子ども達を引き取り、サーカス団を組むことで彼らの日々の糧を稼いでいるのでした。

四人のうちもっとも年長の男の子サンカンタンは「まだ16歳にもならない」と言われているので、14~15歳くらいでしょうか。ポリュクスとカストールは10歳。一番小さいモンフォーコン隊長は7~8歳。

みんな「お母さん」=ドロテが大好きで、彼女の愛情をめぐってケンカが絶えません。

「お母さん」というよりもきっと「女性」としてドロテに恋しているのであろうサンカンタンが、彼女のためにとあるお城からサファイアのイヤリングを盗み出したことが発端で、ドロテとその子ども達は「イン・ロボール・フォルチュナ」の謎をめぐる冒険に飛び込むことに。

その「謎」には、もともとドロテの父、アルゴンヌ公も絡んでいて、戦死だと思われていた父の死の真相も明かされていくのですが。

イヤリングを「ドロテのために盗んできた」というサンカンタンに向かってドロテが言うセリフ。

幸せだったじゃないの、楽しかったでしょう。ともかく、ひもじい思いはしなかったわ。この際はっきりいっておいたほうがよさそうね。わたしが好きなのは、清潔で透明で輝いているものだけ、たとえば太陽の光のようにね。 (P19~P20)

うーん、素敵だ。

ルブランさんはこの最初の数ページだけでもう読者をドロテに夢中にさせてしまうのです。その性格をきっちり印象づけてしまう。

じっさい大貴族の令嬢にふさわしい慎みぶかさと、綱渡り芸人らしい奔放さとをあわせもっている (P350)

と、終盤でドロテに恋する若者達が彼女を評するのですが、二面性を兼ね備えた魅力的なヒロインを、ルブランさんは実にいきいきと描いてくれるんですよねぇ。

もちろん見た目も美人ということになってるし、何より彼女は頭が良く、ルパン並みに物事をよく観察し、ひらめきにすぐれ、そして勇敢なのです。

しかしドロテは自分を信じ、どんな戦いにも応ずる覚悟でいたし、勇気とのんきさをあわせもっていたので、ちょっとやそっとの脅威にはたじろがなかった。 (P91)

「勇気とのんきさ」ってとこがいいですよね。「勇気」だけじゃダメなんです。真に強いものは「のんきさ」を持ってないと!

「イン・ロボール・フォルチュナ」の謎をめぐってドロテはデストレイシェという悪党と丁々発止の戦いを繰り広げるのですが、このデストレイシェも当然ドロテに夢中になってしまって、「謎解きによって財宝を手に入れる」だけでなく、「ドロテ自身も」手に入れようとするのですね。

「子ども」として面倒を見てもらってる10歳や8歳の男の子でさえドロテのキスの数をめぐって争うんですから、出会う男はみんなドロテにめろめろ。悪党デストレイシェは再三「俺のものになれ!」とドロテに迫ってきます。

「憎しみ、というよりむしろ病気だ……おまえの毒はおれを焼きこがす。なんとかしてその毒を消し去らなけりゃならないんだ、ドロテ」「おまえのくちびるの味、これこそ、おれの病を癒す妙薬さ、じっくりあじわわせてもらうぜ」 (P327)

無駄に文学的というか、さすがフランス人は悪党でも女の口説き方知ってるというかですね(笑)。

殺人すらためわらない悪党にこんなセリフで迫られるの、悪夢以外のなにものでもないんですが、しかしドロテは気丈に頭を働かせ、絶体絶命の窮地を脱するのです。

いやはや、すごい。

こういう男にたいしては、けっして弱気になってはいけない。徹頭徹尾、冷静さをたもちつづけたほうが、いつか相手を圧倒して勝利をものにすることができるのだ。 (P313)

ドロテはあきらめなかった……最後まで……最後の十五分……いや、最後の十五秒まで…… (P313)

ドロテは軽業師としての身体能力は持ってるけど、決して「格闘系」の女の子じゃないから、腕っ節ではデストレイシェにまったくかなわない。彼と対決して、疲労のあまり気絶したり、熱を出したりもする。

そういう「か弱い女の子」でありながら、ドロテは勇気とのんきさと知恵で悪党を撃退し、200年間解かれなかった謎を解明し、財宝のありかを見つけてしまうのです。

天晴れというしかない。

しかもまた最後がね。粋なんです。

それに、お金はいわば牢獄のようなもの、わたしは自由に生きたいのです。 (P373)

せっかく手にしたお宝捨てて、野郎どもにも背を向けて、ああ女芸人ドロテ、お次はどこの旅の空……。

これにて一巻の終わりにございまするぅぅぅ。

と拍子木を打ちたくなるような粋な終わり方。

いやぁ、お見事。

いずれ劣らぬ求婚者達に「誰か一人を選んでくれ!」と迫られたドロテは、「今の私には子ども達が一番大切」と言って去っていくんですよね。モンフォーコン隊長が途中で「宝は母さんだよ。だけど、なんだかだれかに盗まれそうで心配なんだ」と言っていたのですが、ドロテにとっても、子ども達との生活と自由が何よりの宝だった。

まぁ、将来的に子ども達の間での「ドロテ獲得戦争」が熾烈になるのは火を見るより明らかな気はしますが……。

しかしこんな素敵なヒロイン、こんなドキドキわくわくの物語があまり知られていない(私は知りませんでした)のはどうしてなんでしょ。もったいない。

なんか、ジブリアニメになりそうな感じするのにね。

小さい子どもたちの面倒を見る健気で明るいヒロインと悪漢との追っかけっこ。ヒロインが冒険の途中でちょこっといい感じになる若者は少し頼りなくて、謎の財宝の仕掛けはなかなかに「あっと驚く」代物で。

ジブリ全然好きじゃないけど、『未来少年コナン』や『カリオストロの城』な感じで動くのは面白いと思う。

カリオストロと言えばこの『女探偵ドロテ』は『カリオストロ伯爵夫人』発表の前年、1923年に刊行されています。『八点鐘』と同じ年ですし、ルブランさん円熟期の作品と言っていいのでは。

うん、本当に楽しかった! 大好き!!!


で。

「なんでこれ有名じゃないの?」と思ったんですが。

調べてみると瀬名秀明氏がルパンとドロテが出会う(原作ではまったく別のお話なので、ルパンは本作には一切登場しません)お話を書いてらっしゃるそうで。

ドロテは飛行機乗りの少女になってるし、原作とまったく同じ設定ではないようですが、ルパン&ドロテファンとしては非常に気になります。

図書館にあるようなので、近いうちに借りてこようっと。

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