ポアンカレ予想に続いてはリーマン予想です!

NHKでポアンカレ予想と一緒にリーマン予想のドキュメントも再放送していて、もちろん両方録画していたのですね。

↓ この番組です。


で、実はこちらのリーマン予想のお話の方が面白かった。

うん、だって、「素数」の方がとっつきやすいですもんねぇ。ポアンカレの方はどうしてもあの謎のトポロジーの話が出て来てしまって、「それが証明できたから何なの?っていうか何を証明したいんだっけ???」って(笑)。

その点「素数」は「1とそれ自身でしか割り切れない数」ということで、小学生でも知ってるでしょ?(何年生で習うんだろ)

番組の構成も、「ポアンカレ予想」の方は「せっかく証明したのに引きこもってしまったペレルマン博士」に焦点が当たっていて、なんとなく暗い。

リーマン予想の方はまだ証明されてないから、その点素数と予想自体にしっかり注目できた。

もちろん、「素数だからとっつきやすい」と「リーマン予想の何たるかがわかる」はまったく別の話なんですけども。

で、こちらも読書でおさらい。Amazonさんで「リーマン予想」と検索すると色々な本が出て来ますが、素人にも親切そうなこの『素数の音楽』を選んでみました。

うん、面白かった!

後半、数学者の皆さんが入り乱れ、「誰と誰が同時代で、この話とあの話はどっちが先なんだっけ?」と時系列が混乱しますが、まぁどのみち数論を系統だって理解しようというわけではありませんし、「素数に絡む様々な謎とそれに取り組んだ様々な数学者、そのアプローチ」をたっぷり楽しむことができました。

先の『ポアンカレ予想』の本と、並べると同じくらいの分厚さに見えるんですけど、新潮文庫の方が紙が薄くてページ数が多いんですよね。しかもこちらは後ろに脚注や参考文献はなく、本文が丸々610ページ。

読み応えありました。

なので最初の方の話を忘れています(笑)。

NHKドキュメンタリーと同じく、最初の方で活躍するのはガウス。「次にどの数が素数になるか」を予測するのは難しい(というか今のところ無理?)。つまり、法則性がないように見える。ならば、「ある数までの素数の個数には法則性があるのだろうか?」と考えたのがガウスなのですね。

1から10までの間にある素数は3,5,7,9の4つ。1から100までだと25個、1000までは168個……と素数の個数を数えていく表を眺めて、ガウスはそこに「自然対数の表」との関係を見出したのです。

「自然対数」ってえーっと…。

log(N)とかって書くやつ。

10を底とするlog(100)は2、ですね。100は10の何乗ですか?という。

だから2を底とするlog(8)なら3……で、合ってる?(まったく自信がない)。

eと呼ばれる特殊な数を底とした時のlog(N)を「自然対数」と言って、「1からNまでのあいだにある素数の数はざっとN/log(N)個と推測される」(log(N)はeを底とするNの対数)ということをガウスは発見した。

ランダムにしか見えない素数の数列。しかしその出現数には一定の法則があるかも!?という素晴らしい発見だったわけですがところで。

対数の重要な性質に、かけ算を足し算に変えるという性質がある。 (P95)

商人たちは大きな数同士をかけなければならなくなると、まずそれらの数の対数をとり、得られた値を加えてから対数表を逆に使って元々のかけ算の答えを求めた。 (P96)

対数ってそういう使い方をするもんだったんですね。知らなかった……。何のためにあるんだろうと思ってた……。習ったっけ、そんなこと……。

「とりあえずそーゆーもの」と思って、とりあえず計算してましたよねぇ。以前別の本で「行列ってそういうふうに使うもんだったのか!」って初めて意味が理解できたこともありました。もちろんもう忘れてますが(汗)。

で。

ガウスの次に出て来るのがオイラー。そして「ゼータ関数」。

リーマン予想というのはものすごく簡単に言うと「ゼータ関数の零点の分布に関する予想」なのですが、ゼータ関数というのは

ζ(x)=1/1のx乗+1/2のx乗+1/3のx乗……1/nのx乗+……

というものらしい。(詳しくはWikipedia先生に聞いてください)

で、このゼータ関数の式に1より小さい数を入れると、答えが常に無限になるのだそう。(1より大きい数を入れた時は有限)

しかしオイラーは、関数の値が無限の彼方に飛び去るのは、素数が無限にあるからだということに気がついた。そのきっかけとなったのが、ゼータ関数と素数を結びつけたオイラー積表示だった。 (P159)

えーっと、オイラー積というのは、「どんな数も素因数分解できるんだから、ゼータ関数のようなものもあらゆる分数の無限和という形でなく、分母が素数一つだけからなる1/2や1/3のような分数を掛け合わせた形で表せるはず」ということで「分母が素数の分数で書き直した形」、だそうです。(詳しくはやっぱりWikipedia先生に…(汗))

だからといってそれだけではゼータ関数が素数の秘密を明かす!というものではなかったんだけど、リーマンさんが「ゼータ関数に虚数(というか複素数?)を入れるとどうなるか?」ということを考え、するとそこには「素数」の風景が広がっていた……。

って、自分で書いててもよくわからんわ(涙)。

とりあえず「虚数」っていうのがこんなところに出てくるんだなぁと。

「虚数」って、「二乗してマイナス1」になるあれです。普通「i」と表記される数。マイナス同士もプラス同士もかければ必ずプラスになるから、「同じ数を二乗してマイナスになる」って全然理解出来ないし、「虚数」という名前通り、頭の中だけで考えた「虚構の数」だろ、みたいに思ってたんですが。

指数関数に虚数を入れると正弦波ができるというオイラーの発見 (P177)

もあるそうで、「虚数」を使うことで説明できてしまうことがある不思議。(しかし指数関数や正弦波が何なのかはよくわからない)

マイナスとかプラスって直線上の向き(ベクトル)なんかな、と思ったりしてたんだけど。それで「マイナス」っていうのは「向きを逆にする」ってことなんじゃないかと。

マイナスとマイナスを掛けると「向きが逆になって」プラスになる。

プラスにプラスを掛けると「向きはそのまま」プラス。

数直線上で、原点0をはさんでプラスとマイナスは対称に存在する。0より左側に位置する数値の「√」が「存在しない」っていうのも考えたら不思議な気がするし、「向き」とは違うまた別の要素があれば「掛けてマイナスの向きになる」もありえるのかとか……。

すいません、テキトーです(汗)。

ともかくリーマンは虚数の世界を旅することで、「素数の個数を数え上げるための関数の誤差を打ち消すもの」を発見したのです。

リーマンは、ゼータ関数のゼロ点の位置を記した虚数の地図を使えばこれらの誤差を消すことができて、素数の個数を数える正確な公式を作れるということに気がついた。 (P174)

この発見を表す式を言葉でまとめると、「素数=ゼロ点=波」となる。 (P178)

全然わかりませんね…。

ガウスは素数と対数の関係を探り出し、素数が平均してどう振る舞うかを予測した。これに対してリーマンは、素数をこまかく規定するものを探しだした。 (P181)

わからないけどとにかくリーマンさんがすごい人だというのはよくわかりました。

リーマンさんは39歳の若さで亡くなってしまい、その素晴らしいアイディアの数々を書き留めたメモは何も知らない家政婦の手で灰になってしまったそうな。

一部、灰になるのを免れた「遺稿」があって、後年それを研究することで「おおっ!」という発見があったりもして、もしリーマンさんが80歳くらいまで長生きしてたら自分でリーマン予想を予想ではなく「定理」にしていたのではないか。せめてそのアイディアをきちんとした形で残しておいてくれたなら、リーマン予想だけでなく数論の世界はもっと速く先へ進んでいたのでは。

ああ、もったいない。

で、その後他の数学者の皆さんが素数とリーマン予想の謎に挑戦し続けるわけですが。

リーマンは、ジーゲルの時代に使われていた手法よりはるかに賢い方法で、残りの無限和を求めていたのである。 (P296)

今やリーマンの小さな黒いノートの発見には100万ドルがかかっており、宝探しの対象となっている。 (P300)

死後65年経って、ジーゲルという数学者さんがリーマンさんの遺稿を調べた結果、リーマンさんの方がずっと先を進んでいたと。いやはやホントにすごいです。

388ページには、「素数を求める公式」が載っています。

なんだかすごい式です。とても書き写せませんが、AからZまでの文字を使って、そのAからZまでに適当な数を当てはめ、公式に則って計算を行えば、その答えは素数になるというもの。ただし、この方程式の値は「負」になることが多く、素数について何か新しいことがわかる、というものでもないらしいです。

まぁ、見た目がいかにも美しくないし。

で、世の中はコンピュータ時代になり、素数はコンピュータセキュリティ上で非常に重要な役割を果たすことになります。

そう、「RSA暗号」ですね。ものすごく桁数の大きい素数を使うことで、「安全な公開鍵」を実現するというあれです。サイモン・シンさんの『暗号解読』でもかなり詳しく解説されていたはず。

でもあんまり覚えてなかったので(汗)、今回もう一度その仕組みを説明してもらって、「なるほど」と思いました。

「非常に大きな数を素因数分解するのは大変だ」という事実がRSA暗号の安全性を支えているのですが、コンピュータが進化して計算が速くなれば、大きな数でも短時間で素因数分解ができてしまう。

なので現在、

今やRSAセキュリティ社は、暗号に使う時計計算機の盤面の時間数Nを少なくとも230桁にすることを推奨しており…… (P469)

さらに、もっと厳しいセキュリティーを必要とする業務には600桁超えを推奨しているらしいです。

600桁って!

10桁でやっと10億? 600桁の数字って……しかもそれを使って「計算」しなければ「暗号化」できないわけで。

いくらコンピュータが進化してるといっても暗号化と復元大変じゃん、と思いますよね。なのでモバイル用には楕円曲線を用いた別の暗号方式が使われているとかなんとか。

こないだドラマ『相棒』でも取り上げられてましたよね。「リーマン予想を証明したけどそれを公表すると世界中のセキュリティが崩壊するので秘匿しようとしたら友人が勝手に発表しようとしたので仕方なく殺しました」っていう事件。

リーマン予想が証明されたらどれくらいRSA暗号が危なくなるのか私にはよくわかりませんが、

今や、数論のある種の業績は、たとえそれがもっとも難解な数学誌に掲載される類のものであっても、印刷にかける前に国家安全保障局の許可を受けなければならない。 (P486)

というのは本当らしい。

NHKのドキュメンタリーでも「本当はもう証明されてるけど、セキュリティの都合で隠されているのかもしれない」と最後に言ってましたが。

なんか、つまんないですね。数学上の発見がそんなふうに下世話な感じになってしまうのは。

この本の中には、

われわれは、ただ犯人が知りたくて数学という推理小説を読んでいるわけではない。こみ入ったプロットがどう展開して犯人発覚の瞬間へと至るのか、それがわかるからこそ面白い。 (P413)

ハーディーは、つねづね数学がまったくの役立たずであること、特に数論が実世界の役にはまるで立たないことをたいへん誇りに思っていた。 (P433)

という文章もあるのですが、ホントなんで素数は暗号に役立ってしまったんでしょう。「何の役にも立たないがこの公式は美しい!」の方が絶対楽しいのに。

役に立つ学問なんて邪道だわ!(おい)

最終盤では、素数の「ゼロ点の風景」と量子力学の風景に共通点が見つかり、素数の研究がすなわち量子物理学の研究にも役立ってしまうのでは!?ということになります。

逆に言えば量子物理学がリーマン予想の証明に役立つかもしれない、ということで俄然「Q.E.D、証明終了!」が近づいたかと思われたのですが。

そうは問屋がおろし大根。

なかなか証明には至らない。

しかも。

驚いたことに、リーマンはゼータ関数のゼロ点について考えるのと並行して、回転する球形の流体に関する証明を作り上げていた。リーマンは、現代の物理学者がリーマンのゼロ点を並ばせるために提案しているのとまったく同じ方法で流体力学の問題を解いていたのだ。 (P558)

「これを使えば証明できるかも!」というアプローチはすでにリーマンさんが試していたのではないかという。

マジか。

リーマンさんすごすぎ。

あと、量子物理学にも「虚数」が重要な位置を占めているらしく。

巨視的な世界に暮らすわれわれが量子の世界を観察するまでは、量子の世界は虚数の世界にのみ存在する。そして、われわれの観点からは一見不可解に思える観察結果を説明するのが、この虚数なのだ。 (P520)

観測するという行為によって二次元の虚の世界が崩れて、実数の一次元の線になってしまう、といったところだろうか。 (P520)

繰り返しになるけど、「頭の中で作った虚構の数」と思える虚数が現実の物理世界を説明するって、ものすごく不思議。

面白いなぁ、数学。

面白いなぁ、この世界。

もっと真面目に数学やれば良かったなぁ、数学科へ行けるぐらい真面目に……。