カドフェルシリーズも13作目となりました。

タイトル通り、今回はとてもロマンティックなお話です。と言っても若者が二人も死ぬし、誘拐もあるし、「謎解き」の要素もしっかりあるのですが。

久々に(?)女帝モードとスティーブン王の争いが背景としてもまったく絡まないお話、とも言えるでしょう。そして「カドフェルのもとに逃げこんできた無実の若者を救う」というお話でもない。

物語は、1142年の初夏。シュルーズベリ修道院の守護聖女、聖ウィニフレッドの移葬祭を目前に控えた6月。少年ルーンが聖ウィニフレッドの奇跡によって健康を取り戻してから(10作目『憎しみの巡礼』)早や1年が経とうとしているわけです。

その、移葬祭の日に、修道院から一輪の薔薇を贈られる女性がいました。

町の裕福な服地屋の女主人ジュディス。まだ25歳そこそこの彼女は四年ほど前に夫を亡くし、そのショックで赤ん坊を流産していました。夫と子どもの両方を一度に亡くした彼女は、短い結婚生活の思い出に溢れた家を修道院に寄進しました。そしてその「代価」として、家の庭に咲く薔薇を一輪、年に一度届けてもらう約束を交わしたのです。

この設定からして非常にロマンティックでドラマティックなのですが。

まだ若くてお金持ちなジュディスを巡る男達の思惑が渦巻く中、静かで控えめな、妻に先立たされた男が最後に勝つ(?)という、なんともロマンティックな結末が待っています。

ミステリなのにいきなり結末バラすのも何ですが、まぁ「バラ」こそがこの物語の主役とも言える作品なので。

何しろ、第一の殺人は薔薇の木の下で行われるのです。ジュディスに薔薇を届ける役目を負っていた若き修道士が死体で発見され、そして「こんなことがあったのだから、もう代価を受け取るのは辞めよう」と修道院に申し出に行こうとしたジュディスが行方不明に。

そして顕れる第二の殺人。

水死体として発見されたジュディスの家の織り職人。泳ぎの得意な彼が溺れるとは思えず、何よりこのタイミングでジュディスと近しい人間が死ぬなど偶然とは思えない。

果たして二つの「死」の真相は、ジュディスの行方は――。

ピーターズさんの描く女性はいつも凛として、困難に立ち向かう勇気を持っているのですが、今回のジュディスもすごいなぁと思います。21歳やそこらで夫を亡くし、その形見となるべき赤ちゃんも流産して、泣き暮らしてても不思議はないのに、町一番の服地屋の主人として経営を切り盛りしてきた。共同経営者的な立場で手伝ってくれる従兄弟がいるとはいえ、もうそれだけで「すごい女性」です。

その上事件に巻き込まれ、酷い目に遭わされても、自分の才覚でその場を切り抜け、憎むべき犯人を赦しさえする。

「善にしろ悪にしろ、彼は取るに足らない人物です」 (P268)

って言い切っちゃうんだもんなぁ。まぁ、実際ヘタレな人物だったけど(苦笑)。

「決して美人ではないが」とカドフェルに形容されるジュディスだけど、まだ若く、十分に魅力的で、何よりお金持ち。「俺と結婚すればさらに商売が繁盛する」と迫ってくる30歳近く年上の男、「結婚して俺の借金返して」と言うヘタレな若者、「あわよくば店の主人に」と「逆玉の輿」を狙う職人。

亡き夫への愛に生きたくても、周りが放っておいてくれない。

財産のある未亡人って大変ですね……。

でもピーターズさんはちゃんとジュディスを幸せにしてくれるし、そのお相手が「決して自分の権利を主張などしない控えめな男」であるというのが、こう、さすが女性作家というか、「わかってるなぁ」と(笑)。

妻に先立たれ、生まれたばかりの娘を妹に預けてやめも暮らしをしている男。彼の、娘に対する想いもよく描かれていて、ほろっとさせられます。

幼くして修道院に預けられ、いわば「純粋培養」された若き修道士が陥る苦悶、それに対して「もう二度と幼児の受け入れなどしてはならない」と考える院長ラドルファスの描かれ方もいつもながら素敵。

うん。ラドルファス院長はホント、信の置ける素晴らしい方よね。

長編はあと7作。どうか院長が転任などしませんように。


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