先日、早川書房ノンフィクション編集部さんがTwitter上で行っていたキャンペーンに当選いたしました。

「お好きなノンフィクション文庫1冊と特製ブックカバーをプレゼント!」ということで。

まさか当たると思わなかったので、当たってから「え?何をリクエストしよう」とちょっと焦ったんですが、今年に入って文庫化されたこの『SYNC』を選んでみました。

ものすごくスピーディーに届けていただきました。早川書房さん、ありがとうございます。

で。

読んだのですけど。

うーん、なんというか、ちょっと趣味が違う感じでした(^^;)

「へぇー」と思う個所もあったんだけど、なんかこう、頭に入ってこないんですよねぇ。ちょっとずつしか読めなかったせいもあるんだけど。

でもその「ちょっとずつしか読めない」のも、読んでると眠くなってしまうというのもあって……。同じように眠くなったけど『宇宙の始まりと終わりはなぜ同じなのか』の方が、「宇宙の話」というだけでも興味を持てたので、たぶん、きっと、好みの問題なのでしょう。

SYNC、つまり「同期現象」が本書のテーマということで、まず最初に取り上げられるのが「ホタル」の話題。

「ホタルはなぜいっせいに光るのか?」

無数のホタルが、指揮者もなしにその明滅のリズムを同期できるのは一体なぜなのか。ホタルはものすごく頭がいいのか? 常に「空気を読んで」周囲と合わせようとしているのか???

実際には、「知性」や「意識」に関わりなく、数学的な法則さえあれば、リズムを合わせていくことはできるようです。

この本では数式はまったく出て来ず、ストロガッツさんが巧みな比喩を用いて「どのように同期が実現するか」を説明してくれているのですが、わかったようなわからないような(笑)。しかも最初の方に出てきたことはもうあまり覚えていないという(汗)。閾値がどうこうとか、発火がどうこうとか……。

でも別に「バラバラ」でも良さそうなホタルの明滅、なんだってわざわざ「調整機能」が働くようになっているのか。

繁殖にまつわる同期現象には、集団内の他のメスの協力が得られる限り、全個体にとって有益な意味があるのだ。 (P77)

ということで、人間の場合も一緒に暮らしてる複数の女性や仲の良い女性同士は月経周期が同期してしまうという。

これ、よく聞く話ではありますけど、いわゆる「都市伝説」みたいなものだと思ってました。でも。

月経周期内のさまざまな時期に、女性のわきの下から綿棒で採取した分泌物を他の女性の上唇につけると、それをつけられた女性の月経周期に明確なパターンを持った変動が現れるという事実を突き止めた。 (P76)

科学的な実験によって、実証されているのだそうな。

他人のわきの下の分泌物を唇に、って、めっちゃ嫌な実験ですよねぇ。せめて鼻の下とか……(なんとなく匂いで反応してそうな気がする)。

月経周期って、ストレスその他心理的要因によっても左右されるとはいえ、「自分の意志でコントロールする」のはまず不可能なので(やれたら便利ですよね)、「同期に“知性”や“意識”は必要ない」というのはそういうことか、と納得できる気もします。

たとえば心臓にしても、私たちは自分の意志であれを動かしているわけではなく、まして「今日はゆっくりめに拍動しよう」なんてことはできないわけです。

で、「心臓」はたくさんの心筋細胞からできているわけで、考えてみればなぜその「たくさんの細胞」が同じ一つのリズムを刻めるのか、「同期して動けるのか」、不思議ですよねぇ。

人体における「同期現象」としてもう一つ取り上げられているのが「睡眠周期」のお話。人の生体リズムの1日は実は24時間より少し長くて、それを太陽光を浴びることで24時間にリセットしてる、みたいな話を耳にしたりもしますが。

太陽光がまったく入らない、時計もなくて一体何時なんだかわからない、そんな「洞窟」みたいなところで生活したら人間の「睡眠周期」「生体リズム」はどうなるのか、という過酷な実験をした方々がいらっしゃるそうです。

実験の結果、睡眠覚醒周期は乱れるものの、体温周期は24時間より少し長いまま、きっちりしていたそうな。

そして、「長時間起きたままでいるかと思うと今度はやたらに長く眠る」というふうに一見「めちゃくちゃ」に見える乱れた睡眠周期にも実はある法則があって、

睡眠覚醒周期が体温周期と一見食い違っている場合ですら、両者の間には一貫した関連が見られたのだ。つまり、長期睡眠は常に高体温時に始まり、短期睡眠は低体温時に始まるというわけである。 (P152)

のだそう。

この睡眠関係の話のところは身近な話題だけあって、大変興味深く読めました。人間の「注意深さ」と「体温」にも関係があり、体温が低ければ注意深さの度合いも低くなるんだとか。

二十四時間周期への同期がなされている場合、体温が最低値を取る午前四時から六時付近で注意力が最低になると予想される。これこそ、一日の中で最も悪名高い時間帯だ。 (P157)

ストロガッツさんが魔の「ゾンビ・ゾーン」という呼び名で紹介しているこの時間帯。

「被験者が十分に休息を取っており、夜間勤務でなくてもそうなのだ」ということで、この時間の危険性は「寝不足かどうか」には関係ないんですね。昼食後の時間帯に眠気を催すのも、寝不足とは関係なく生理的に仕方がないこと、と言われていますよね。だから無理に起きていようとしないで、短いお昼寝を取った方が作業効率がアップするとか。

午前4時から6時の時間帯も、科学的に「ゾンビ・ゾーン」として立証されているのに高速バスとか夜勤はなくならないんですね…。看護師さんや消防士さんはいてくれないと困るけれど、配送のトラックとかは利便性を我慢すれば夜中に走らなくても済みそうな気がしますが…。

何が最悪と言って、アメリカ合衆国海軍の原子力潜水艦で適用される交替スケジュールほどひどいものはあるまい。(中略)つまり、彼らには一日十八時間という周期での生活が義務づけられているのだ。われわれのペースメーカーはおそらく、そんなに短い周期にはとても同期することはできない。そのため、乗組員たちは常に、脱同期した状態で生活することになる。 (P180)

「ゾンビ・ゾーン」が危険なだけでなく、極端に短い生活周期というのも危険なんですね。たとえ睡眠時間が足りていたとしても、生活周期が人間の生物としてのリズムと極端にずれていたら、やはりそれは危険な状態だという。

こういうの、せっかく研究しても生かされないんですかね…。

超伝導とか、橋の振動とか、「生命体」じゃないものの「同期」についても紹介されています。

読んでる途中で、「同期っていうかこれ、“リズム=周期性”の話なのかなぁ」と思っていたら。

従来、同期現象は常に、律動性と抱き合わせで研究されてきた。この二つの概念は密接に絡み合っているため、本来この二つが異なるものであるということは往々にして見過ごされがちである。 (P327)

と釘を刺されました。

第七章の「同期するカオス」に出て来る言葉です。ここでいう「カオス」は完全な無秩序としての「カオス」ではなくて、「カオス理論」の「カオス」のことだと思います(あまり理解できていないので、あくまでも“思います”です(汗))。一見ランダムに見えるけれど、何らかの法則には則っている「カオス」が「同期する」……うーん、わかんない。

わかんないけど、「同期」と「周期性(律動性)」は区別しなきゃいけないということは一応わかりました。

そして、生物における「同期」や超伝導における「同期」等に共通するのが「非線形」ということ。

「線形」というのは「比例関係が成り立つ」ということだそうで、「非線形」はその逆。

線形方程式は、扱いやすい。なぜならそれが、モジュール形式を取っているからだ。(中略)線形系においては、全体はまさしく部分の総和に等しい。 (P321)

非線形系は、バラバラに分割してしまうわけにはいかないのだ。系全体は、コヒーレントな総体をなした状態で、すべて同時に分析しなければならない。 (P322)

うーん、いわゆる「線形」の数式が、現実の現象の「近似」しか現さない、っていうのはまぁ、わかる気がします。

ホタルの同期の説明で「閾値」という言葉が出てきていましたが、ある限界値を超えるか超えないかで振る舞いががらっと変わったり、スイッチがリセットされるみたいな現象は、「比例」では説明できない。

水が氷になる「相転移」という現象も、ある「境界」を超えることで水分子の状態ががらっと変わってしまうわけで。

70℃の水の状態と10℃の水の状態とが分かっていても、0℃の時の状態(氷)を予測はできないですよねぇ。まぁ、水分子の運動状態は高温になれば活発になって……という相関はあるでしょうけれど。

これだけ多くの病(てんかん、心臓の不整脈、慢性不眠症)が同期、および同期の喪失に関係して起こることが判明しており、これだけ多くの装置(ジョセフソン・アレイ、レーザー・アレイ、高圧送電線網、GPS)が、同期現象抜きではなりたたないとすれば、自然発生的な同期現象をより深く理解していけば具体的な利益につながるはずだ、と言っても間違いではないだろう。 (P304)

色々な現象に「同期」が隠れていて、「非線形」の力学が絡んでいる、というのは「へぇー」と思うのですが、スモール・ワールドとかネットワークの話まで来ると「それも同期なの?あれ?同期ってどういうことを指すんだっけ?」とかえってわけがわからなくなった感が……(^^;)

あと、ポケモンアニメの「激しく明滅する光」で子ども達が気分が悪くなった話も紹介されていて、「日本の家は狭すぎてテレビが近すぎる」みたいに言われているのに苦笑。

あれ、アニメの明滅光が「光過敏性てんかん」を引き起こしたらしいんですけど、「光過敏性てんかん」の原因も「同期障害」だという説が有力だそうです。

つまり脳波が明滅する光に同期することで、脳内のニューロンが誤った同時発火を見せ、その結果、突発的な発作が生じるというわけだ。 (P496)

それから、「はじめに」の部分にアメリカ国民への謝意が書いてあるのもちょっと、気になりました。

全米科学財団のような機関を通じ、アメリカ国内での科学研究を支えている合衆国民の血税のおかげで科学者は、想像力の羽根を思う存分羽ばたかせることができるという、この上ない恩恵に浴しているというわけだ。 (P25)

STAP細胞騒ぎで、理研には税金からこれだけの予算が流れてるんだ!不正なんてけしからん!説明責任がある!みたいなことがけっこう言われていて、どこの科学者さんも「予算の出どころ」には気を遣わざるを得ないんだなぁと……。

ホタルの研究のところでも、「血税を、ホタル研究に投入するなどというのは、どう見ても得策とは言えまい」という某議員の言葉が紹介されています。

最初から「役に立つ」とわかっているものにばかりお金をつぎ込んでもブレイクスルーは起きないと思うんですが、さりとて予算には限度があり……。難しいところですよねぇ。