私が初めて宝塚を見たのは小学校2年生の時。昭和の『ベルばら』の集大成とも言える『ベルサイユのばらⅢ』でした。

その後大学生の時に「平成のベルばら」として雪組、星組、花組、月組で再演され、ここから私の本格的宝塚通いが始まったわけです。この時は役代わりもほぼ網羅して見て、1公演3回ずつくらい見たので、もう私バスティーユが踊れるんじゃないかと思ったほどでした。

その後、2001年の星組版はみたものの、2006年の再演はスルー、昨年の月組版も「ちょっと見てみたいな」と思ったもののあっという間にチケット完売。

まぁ、もういいかなと思ってたんですよ、『ベルばら』は。お芝居とショーの2本立てこそ「宝塚」だと思ってるし、25年前にお腹いっぱいになるほど見たので。

今回の宙組『ベルサイユのばら オスカル編』も「あれ?前売り昨日だったっけ?」と思った時にはもう完売。見たいと思ってもそうそう見られないのが最近の『ベルばら』ではありました。

が。

ダメもとで申し込んでいたVISA貸切公演に当選し、13年ぶりに宝塚の『ベルばら』を観劇することができました。

いやー、なんか、くすぐったかったです。

「千の誓いが欲しいか万の誓いがいるのか!」とか「さらばもろもろの古きくびきよ、私の青春よ!」とか、やっぱり恥ずかしいですね(笑)。

昔はスターさんに夢中でお話の世界に入り込んで見てたから、アンドレ死ぬところとか「さようならベルサイユ、さようならパリ、さようならフランス!」のところとか泣いてましたけど(お友だちに『ベルばら』でそこまで泣く!?ってびっくりされるくらい泣いてた)、今回はかなり冷静に見ちゃって、泣くまでには至りませんでした。

凰稀さんのオスカルは、予想通り見た目もすごく綺麗で似合ってるし、お屋敷で母上に甘える可愛いところ、凛々しく熱い軍人のところ、「女でありながら軍神マルスの子として生きたオスカル」を非常に見事に演じていらっしゃいました。

うん、熱演だったなぁ。

ただ、歌がちょっと弱くて……。主題歌「我が名はオスカル」はもうカナメさん(涼風真世)バージョンが耳にしみついてしまってるから、「ああ~我が名は~♪」と来たとこでガクッてなっちゃうんですよね。カナメさんがうますぎたのであって、比べてはいけないのだけど、しかし歌になるとムズムズせずには……。

アンドレは緒月遠麻さんと朝夏まなとさんの役代わり。私が見た日は緒月さんアンドレでした。緒月さんのアンドレ似合いそうだなぁと楽しみにしていたので、あまり見せ場のないまま1幕目が終わった時は「ええっ、ちょっとどーゆーこと!」と思いました。せっかくの緒月さんアンドレなのにぃ!セリフなさすぎじゃないかぁ!きぃぃぃ!!!(笑)。

2幕目ではオスカルに毒を盛ったり、衛兵隊士に「俺もパリに連れていってくれ」と懇願したり、今宵一夜のラブシーンがあったり。

緒月さんの魅力は温かみのある明るさだと思ってるので、もうちょっと楽しいシーンもあると良かったなぁと思いますが、身分違いの愛に苦悩する暗めの緒月さんも素敵でした。

アンドレって、宝塚のスターさんにとってはけっこう難しい役どころじゃないかと思うんですよ。なんせ「影」でいなくちゃならないので。あまり目立ちすぎてもいけないし、かといってあのオスカル様に愛されるだけの器量は持ち合わせていなくてはいけない。

かつて日向薫さんや大浦みずきさんがアンドレをやったこともありましたが……あなた達目立ちすぎですから(笑)。華やかすぎ颯爽としすぎですから。

その点私はマリコさん(麻路さき)アンドレがお気に入りでした。なんか茫洋として地味なのに包容力を感じさせるアンドレ……。マリコさんのあの不思議な存在感(※褒めてます!)はアンドレに合ってたと思うのです。

あと朝香じゅんさんのアンドレも主張しすぎず影で支える感があって良かったですね。朝香さんは歌も素晴らしかったし。

公演の前半でアンドレを演じていた朝夏まなとさん、私が見た時はジェローデル役。

すっとした二枚目貴族が似合っていて、格好良かったです。なんか、脚本的に「ジェローデル推し」っぽくて、1幕目からオスカルとの絡みも多いし、国民議会のくだりでオスカルを助けるところとか、有名な「身を引くことが愛の証です」とか、「惚れてまうやろぉ~」って感じ。

アンドレよりジェローデルが目立つってどういうことなの!?(笑)

まぁ原作でもジェローデルはいい男なんですけどね。

今回ジャルジェ将軍もジェローデル推しで、「近衛隊では副隊長としてジェローデルがオスカルのそばについていてくれ…」みたいなセリフが。

え、「オスカルにはアンドレがついていてくれ…」じゃないの???

アンドレ無視されすぎじゃないの!?

だってね、子どもの時のオスカルの剣の相手、アンドレじゃないんだよ。お父さん(ジャルジェ将軍)なんだよ。アンドレが子どもの時からずっとオスカルのそばにいたんだっていう描写がないの。「はかなかった、俺の青春」の名台詞ががが(あれは未だかつて宝塚では採用されたことがなかったろうか。覚えてない)。

涼風真世バージョンと同じ「オスカル編」と銘打たれているものの、植田先生が大きく脚本を書き直してまったく新しい作品になっていて、ジャルジェ将軍の出番多いです。

オスカルが生まれるところから始まって、男の子として育てて剣の相手をして……。1幕目では狂言回しの役目も負って、色々説明してくれます。「神よ」と神様に向かって「オスカルを男として育てたこと」について言い訳がましいことを言ったりしていて、じゃあ最後にオスカルがあんな死に方をしたことについてジャルジェ将軍は神様にどう申し開きするんだろうと思いつつ見てました。

最後――何もなかった。

うん。

1幕目であれだけ「神よ」とオスカルの人生を説明するのなら、最後にも何か言ってほしかったなぁ。

パリ出動の前に、ジャルジェ夫人や娘達とともにオスカルを見送るところで心情は述べられているけど。

ジャルジェ将軍は汝鳥伶さん。涼風真世さんトップ時代の月組組長さんです。頑張っていてくださって嬉しい。でも少し太りすぎかしら……。今ちょっとググってみたらすでに定年を迎えていらっしゃるけど延長在籍なさっているみたい。そうよねぇ、長いわよねぇ。

芸達者な専科さん続々と辞めていかれて、この先「専科」がどうなるのか、脇で芝居を支えてくれる人材が……と、もう10年くらいずーっと心配しています。

今回マロン・グラッセ(アンドレの祖母)役で出ていた専科の一原けいさんも退団されるそうで。

千秋楽近かったせいか、一原さん声が枯れてらして……聞き苦しかった……。2001年星組版の時もマロングラッセやってらしたのね。全然覚えてない。私の中の「マロングラッセ」は葉山三千子さんなので、一原さんだと細すぎてちょっとイメージが……。

えーっとそして。

トップ娘役実咲さんはロザリー役。涼風真世さんバージョンではトップ娘役麻乃佳世ちゃんがディアンヌという「そこ持ってくる!?」な脚本でしたが、今回はディアンヌはまったく出て来ない。

ディアンヌよりはロザリーの方が「ヒロイン」として正しいだろうと思うけど、でも「オスカル編」のロザリーはパリの様子を知らせるだけの説明役で。

無理矢理ジャルジェ家に押しかけてくる感じでした。

トップ娘役だからなんとか出番&オスカル凰稀さんと絡まないと!っていうのはわかるんだけど、アンドレとオスカルの「今宵一夜」の名場面の前にロザリーがオスカル様の部屋に侵入してきたのにはびっくり。

「オスカル様に知らせに行かなくちゃ!」とロザリーとベルナールが話し合って、次のシーンがオスカル様の部屋で、「あれ?これってもう“今宵一夜”の場面だよね?まさかロザリー、ここへ来るの…?」と恐れていたら。

ロザリーキタ━(゚∀゚)━!!!

しかもテラスの窓からキタ━(゚∀゚)━!!!

オスカルの部屋って1階なのか…? 「怪我しなかったか?このおてんば娘」みたいにオスカルが言ってたから、あそこから入ってくるのは危険なのに違いない。

そんでロザリーを帰らせたあと、おもむろにオスカル様は「アンドレ!アンドレ!」ってアンドレを呼び出して「私を抱け!」って言うんですけど。

オスカル様切り替え早い。

そもそもアンドレはいつもどこにいるんだろう、アンドレの部屋はオスカル様のお部屋のすぐ隣なのか?とか、ロザリー家宅侵入事件で狼狽した頭はよけいなことを考えてしまいましたよ。

あそこでロザリーは来なくていいと思う。

それでなくてもみんな(オスカルのお姉ちゃん達とか)「パリに行ったらオスカル死んじゃう!」ってフラグ立てまくってて、いい加減くどい。

なので実咲さん自身の演技がどうとかいう印象は全然残りませんでした。実咲さんの顔覚えられないし。

プログラム見ると「ロザリー:ジャルジェ家に縁のある娘」とか「かつてジャルジェ家で小間使いをしていたロザリー」とか書いてあって、「え、ロザリーってそういう子だったの」と苦笑。

まぁロザリーの件は話せば長いからねぇ。

かつてカリンチョさん(杜けあき)版「オスカルとアンドレ編」ではシャルロットまで出て来てロザリーの件をしっかり描いていましたが。

トップ娘役鮎ちゃんがロザリーだったからこその「準ロザリー編」。

ひとくちに宝塚の「ベルばら」と言ってもことほどさように色々なバージョンがあるので、どれを見るかによって印象がずいぶん違うと思います。

昨年「オスカルとアンドレ編」「フェルゼン編」やって、この後中日劇場と全国ツアーで「フェルゼンとマリーアントワネット編」があるので、その辺のバランス的にもこの「オスカル編」は本当に「オスカル編」で、アンドレの影がいつも以上に薄かったのかも……。

最後、「バスティーユに白旗がぁ~!」でオスカル様が死んじゃったあと、「白薔薇の花園で天使たちに囲まれたオスカルが宙へと還っていく」って場面があって。

アンドレがガラスの馬車で迎えに来ると思って期待していたのに来なかった。

オスカル様一人で天国行っちゃった。

「ガラスの馬車」演出はなくていいけど、迎えに来るのは「天使」じゃなくてアンドレじゃないの? せめてアンドレの声だけでも。

せめてオスカル様に「アンドレ!」と言わせるだけでも。

「この戦闘が終わったら結婚式だ!」のはずだったんだし、一人で歌って昇天って……。

「オスカルとアンドレ編」じゃなくて「オスカル編」だから仕方ないかと思いはするものの、それならもうあのシーンなしでいきなりフィナーレに行ってくれた方が、「嗚呼、オスカル…!」という余韻に浸れた気がします。

まぁ、要するに、「緒月さんアンドレの出番少ないだろうがよっ!なんでここで出さねぇんだよ!」ってことです。

朝夏さんアンドレを見たファンもきっと同じ思いだったんじゃないかと……。

あと。

1幕目の最後の肖像画が原作のあの、「少年時代(ほんとは少女だけど)のオスカルが軍神マルスってる絵」になってて、すごく懐かしかった。

涼風真世さんバージョンでは「愛の肖像~」ってドレス姿の本物のオスカル様が登場したよね、確か。

凰稀さんバージョンでは軍神オスカルの肖像画が飛ぶとペガサスにまたがった凰稀オスカル様が登場し、「我が名はオスカル」を熱唱。

張りぼてっていうか、メリーゴーランドの馬の上等なやつみたいなペガサス。翼は折りたたみ式。天馬だから地に足ついてなくて上空に上がっていったりする。あれに跨がりつつ素知らぬ顔で歌うのけっこう大変なんじゃないかしら。

昔もフェルゼンが張りぼての馬に跨がって歌うシーンとかあったし、涼風真世さんの時の「映像での乗馬」よりはいいかな。子どもには受けそう。

 
どうしても「原作ではこう」とか「昔はこう」とかいうよけいなことを考えて観てしまって、「ああ、もっとまっさらな気持ちで観たい」と自分でも思います(笑)。

原作知らないで観たらどんなふうに思うのかなぁ。オスカルとアンドレの関係とか、ロザリーの立ち位置とか……。

みりおたん(明日海りお)の「フェルゼンとマリーアントワネット編」も観てみたかった。お話としては「フェルゼンとマリーアントワネット編」が一番素直にまとまってると思うのです。初めて見たのが「ベルサイユのばらⅢ」で、オスカル様死ぬところより王妃様が決然と断頭台に向かっていくところに大感動してしまったせいもあるけれど。

初風諄さんのアントワネット様は本当に見事な女王様で……。

だから涼風さんのオスカルも、「オスカル編」じゃなく星組版(「フェルゼンとアントワネット編」)に特出した時の方が好きです。

東京公演のみだったシメさん(紫苑ゆう)オスカルは劇団も映像を持っていないとかで……歌劇団馬鹿なの!?死ぬの!?

今だと役代わり分もそこだけ抜粋してDVDになるけど、当時はまだ「実況CD」の時代でしたからね。テレビは宝塚での大輝ゆうちゃん版を放送したし、実況CDは涼風さんだし(これは持ってる)。

劇画から抜け出したようなのは確かに涼風さんだったけど、原作の凛々しく熱いオスカルに一番近かったのはシメさんだったと私は思ってます。

袖から戻ってきてまでアンドレに怒鳴るとことかめっちゃ「オスカル」やった。もちろん立ち姿の美しさは絶品だし。

3階の後ろの方の席しか手に入らず(それでも入手できただけ幸いだったけど)、「見ろ、スターが豆粒のようだ!」状態でしたが、あの麗しいお姿は今も私の胸の中に――。

タイムスリップしてもう一度シメさんオスカルを生で観たいものです。もっといい席で……。