2014年8月23日土曜日

『私のプリニウス』/澁澤龍彦



とり・マリさんの『プリニウス』を読んで、プリニウスの書いたという『博物誌』が気になり、これを手に取ってみました。

『博物誌』全巻の邦訳も出ているようですが、決して一般人には入手しやすくも読みやすくもないと思われますし、河出書房さんがコミックの帯をつけて宣伝してくださっているので(笑)。

出版社違うのにこんなことできるんですねー。


澁澤さんがご自分の好きな個所を抜き出して適宜解説やコメントをつけてくれるエッセイ形式で、読みやすくわかりやすいです。でももとが「博物誌」ですから、ずらずらと人名や物の名前が列挙されたりするのが平気でないと、途中で寝てしまうかも。

ええ、すいません、読んでると眠くなる個所もいくつかありました(^^;)

面白いところももちろんありましたが。

「アネモネとサフラン」「スカラベと蝉」「誕生と死」とかが面白かったですね。

サフランとクロッカスが同じ種類の花だと初めて知りました。我ながら花の名前にものすごく疎い……。

「スカラベ」と言うとあの古代エジプトの……と思いますが、プリニウスは広く甲虫全般を指して「スカラベ」と言っているらしく、クワガタムシやゴキブリも同じ「スカラベ」。

「ぶんぶんきいきい鳴きながら飛び回るスカラベ」はそう、「ぶいぶい」ですね!

澁澤さんは「コフキコガネあるいはセンチコガネの仲間であろう」とおっしゃってます。「カナブン」じゃないんだなー、みたいな。

「誕生と死」では

私たちがどんな運命の下にあったにせよ、自然が私たちにめぐんでくれる生命ははかなく、一時的なものでしかない。永遠の時間を考えるならば、運命の寵児にとってさえ、人生などというものはむなしく短いものだ。 (P159)

という言が格好いい。

とり・マリ『プリニウス』で雷雨に怯える従者たちに「どんな風に死のうが運命というものはしょせんそんなものなのだ…死ぬ時は死ぬ!」と一喝する場面がありますが、あれはこの「誕生と死」で引用された辺りが下敷きになっているのでしょうか。

澁澤さんは「こんなに好奇心旺盛な、こんなに逸話好きな、こんなに勤勉な文筆家が、どうしてペシミスティックな思想の持ち主だったのかと、ふしぎな気がするくらいである」(P160)と書かれているけど、「人生などむなしいものだ」というのは別にペシミスティックなのではなく、「所詮そんなものだ」という、コミックで描かれたような「覚悟」なんじゃないかなぁ。

「短いものだ」と言って嘆いているのでなく、「それがどうした」というような。

もっとも

このようなプリニウスの人間に対するペシミスティックな見解は、当時のストア哲学風の常套句だったとも言えるわけで (P162)

という記述があり、どこまでが本当にプリニウスの心情で、どこまでが「一般的なことを書いた」のかはわからない部分も。

『博物誌』自体、アリストテレスの受け売りとか他の人が書いたもの(当時知られていたこと)をそのまま引き写した部分も多いそう。そして他人の受け売りでない、プリニウスが自説を披露した部分にはホラも多いとか。

はははは。

『博物誌』に取り上げられているこの生き物は何のことだ?と真剣に議論した人もいっぱいいたようなのですが、今となっては「それは架空の生き物だろう」で落ち着いているものが多いようで。

まぁプリニウスが意識的に「ホラを吹いた」のか、当時はそういう生き物や現象が信じられていたのか、はたまた書いてるうちに興が乗ってついつい「話を盛って」しまっただけなのか、そこのところはわかりません。

例を挙げているうちに夢中になってあることないことどんどん書いちゃう、みたいなところがあったみたいですが、その気持ちはわかるし、コミックを読んだあとなので「ホラ」も好意的に受け取ってしまいます。

たとえ受け売りやホラが多かったとしても、全37巻という大部の書を書き残したというのは大変な偉業ですよね。おかげで当時の人のものの見方がわかるわけですし、こうして2000年近くを経た今もその内容が伝わり、マンガにまでなっちゃうんですから。

インドでさえ「夢想の地」であったらしいプリニウス。インドよりさらに東の、辺境の島国で、2000年の時を経て自分がマンガになっているなんて……。さしものホラ吹きも想像できなかったのじゃないかしら。

「書物」というものの持つ力を改めて思い知らされます。

で。

読んでると澁澤さんの博識ぶりにも驚かされます。

「お名前はかねがね…」だけど、著作はまったく読んだことなかったんですよね。『博物誌』を引用しながら「こういうことは○○も書いている」とかさらさらっと言及しておられてすごいなーと。

そもそも『博物誌』も邦訳本からコピペしているのではなく、フランス語訳からご自分で日本語に移し替えてらっしゃるんですよね。

底本として用いたのは、ラテン語の原文と対訳になっているフランス語版と英語版である。 (あとがき)

フランス語や英語で書かれたものをぱらぱらめくって「ここ面白いなー」と抜き出せるとか語学力皆無の私には想像もできない……。

文中、「○○については以前にも書いたので割愛する」みたいな個所がけっこうあり、「え、重複してもいいから教えてくださいよー」という気分になったのですが。

河出書房さん、ちゃんと他の著作からプリニウスがらみのお話を抜き出したアンソロジーを出してくださいました。

『プリニウスと怪物たち』(河出文庫、8月6日発売)
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いや、商売上手ですねー、河出さん。

私はまだ買ってないしこれから買うかもわかりませんが(笑)、サラマンドラや大山猫といった幻の怪獣好きな人にはこちらの方がお勧めかも。

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