マンガ・アニメ
『銀の船と青い海』/萩尾望都
ハッピーさんの『原発収束日記』と同日発売だったこの『銀の船と青い海』。河出文庫、幅広いなぁ~。
原発のお話だけでは気が重くなりそうだったので、バランスを取るためにセット買いしました。
萩尾望都さんの大ファンというわけではないのですが、『ポーの一族』や『トーマの心臓』はお友だちに借りて読みましたし、『マージナル』は自分で買いましたし、光瀬龍さんとの合作である『宇宙叙事詩』も大事に持ってます。
文庫ですが美麗なカラーイラスト50点が収められ、見応えたっぷり。前半はカラーイラストに詩のような短いお話がついた「詩画集」の趣き、そして後半は文章によるおとぎ話です。
うん、この、「文章」の部分がすごく良かった。
それぞれ7~8ページくらいの短い作品なのですが、なんというか、子どもの頃に読んだ壺井栄さんの『私の花物語』みたいな、ノスタルジックで懐かしい雰囲気なんですよねぇ。
1日が地球での5年に当たる宇宙人の訪問とか、地上が汚染されて住めなくなって地下に生きる人間達、それゆえ「動物」をほとんど知らない子ども達の話とか、SF的な味付けのものもあれば、ファンタジーと思わせて最後が一転ホラーなお話、かと思うと幼い従姉妹との死別を描いた純文学的なものもあり。
バラエティーに富んだ12編。
中でも『賞子の作文』という1編にじーん。
夏休みの間に、クラスメイトのおおとり君が不慮の事故で亡くなって、賞子ちゃんは作文におおとり君のことを書いたのですね。特に仲が良かったわけではないけど、それでもやっぱり色々なことを感じて、考えたから。
それで、その作文が「よく書けてる」とコンクールに出されることになって、いくつか先生が赤ペンを入れるのです。「こういうふうに直して清書しなさい」と。
おおとり君は、決して成績の良い子じゃなかった。だから賞子ちゃんはちょっと気を遣って、「勉強もそうわるくありませんでした」と書いたんだけど、そこを先生は「勉強もよくできる子でした」って赤で直してきたのです。
――先生、それはあかん。
あかんやつや。
賞子ちゃんは当然疑問に思い、先生に「おおとり君はそんな子じゃなかった」と言うのですが、先生はもちろん「だってコンクールに出せば大勢の人が読むんだから、その方がおおとり君もおおとり君のお母さんも喜ぶでしょ」としゃらっと答える。
――あかん! それほんまあかん!
他にも赤ペンはあって、「おおとり君の席は寂しそうでした」とだけ書いたものが「おおとり君の席はいつまでも空いたままでした」と直されていました。
賞子ちゃんは「これはへんだ」と思います。実際は、2学期が始まってすぐ席替えが行われ、おおとり君の「席」だったものはあっさり片付けられてしまっていたからです。
「これじゃまるで、成績のいい子でなけりゃ、堀で死んではいけないみたいだ。(中略)そして、勉強のできる子が死んで、いつでも教室はそのいい子の死をいたんで、空の席を見てみんなで悲しまなけりゃいけないみたいだ」 (P112)
賞子ちゃんが書きたかったのはそんなことじゃないし、うまく言葉にできなかった寂しさ・つらさはそんなことでは全然なかった。
でも賞子ちゃんは先生の赤ペンの通りに清書して、そしてその「嘘の作文」はコンクールで佳作をとってしまうのですけど……。
もうね、ホントにね、すごくよくわかる。賞子ちゃんのもやもや。そしてあまりにもありがちな日本の作文教育。
そりゃあ、他の子のこと、それも亡くなってしまった子のことをそう悪く書くわけにはいかないけど、賞子ちゃんはちゃんとそれも考えて「そう悪くなかった」と書いたのに。
先生の作文が佳作になってもしょうがないだろうという。
最後に賞子ちゃんが「自分がほんとに悲しかったのはこういうことだったんな」って感じるくだりもすごくよくわかります。初めて身近に「死」を経験して、「死ぬ」ってどういうことか、「もし自分が死んだら……」と実感を持って想像するその、なんともいえないせつなさ。
胸に迫る素敵なお話です。
この『賞子の作文』を含め、文章12編のうち11編は「小三教育技術」という雑誌に掲載されたもの。
そう、先生向けの雑誌です。現在も刊行されています。
萩尾さんのイラスト入り童話が載ってるなんてレベル高いな「小三教育技術」、と思うわけですが。
先生が読むためのものなのか、クラスで子ども達に読み聞かせてあげる教材として使うものとして掲載されていたのか……きっと両方なのでしょうけど。
こんなお話を読み聞かせてもらえた子ども達、羨ましいな。
掲載は1974年から1976年にかけて。もう40年も前の作品なのですねぇ。カラーイラストも70年代のものが多いです。ノスタルジックだけど、決して古びてはいなくて、今見ても本当に綺麗。
しかし先生が読む雑誌に『賞子の作文』を書いちゃうって、萩尾先生もやっぱり作文に嫌な思い出がおありだったのかしら(笑)。
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