2015年12月2日水曜日

『黄色い部屋の秘密』(新訳版)/ガストン・ルルー



密室モノの古典中の古典、『黄色い部屋の秘密』の新訳版が出ました。

つい買ってしまいました。

小学校の図書室にあった「世界のミステリ傑作選」みたいな選集に入っていて読んだ記憶があります。A.A.ミルンの『赤い家の秘密』なんかと一緒に棚に並んでいました。

ミルンはご存知『くまのプーさん』の作者であり、ガストン・ルルーは『オペラ座の怪人』の作者です。もちろん小学生の頃は『オペラ座の怪人』なんて知りませんでしたし、その「ルルー」とこの「ルルー」が同じ人だと理解したのはずいぶん後になってからです。

ン十年前に一度読んだきり、しかもおそらくはジュブナイル向けの抄訳を読んだだけなので、まったくお話を覚えていませんでした(笑)。かろうじて探偵役ルールタビーユの名に聞き覚えがあったものの、どういう密室だったのか、犯人は誰か等読んでいても何も思い出さない(笑)。初めて読むのと同じ新鮮な気持ちで最後まで読み進みました。

本の帯には「乱歩選出ベスト2位」とか「密室ミステリの最高傑作」とかいう煽り文句が並んでいて、それは嘘ではないんだけれども、何せ発表されたのが1907年と古いので、今読むと「うーん」となってしまうところがあります。

面白くないわけじゃないけど、ミステリというよりはゴシックロマン的な雰囲気が強くて、「謎解き」自体は論理的なのかもしれないけど、道具立てが大仰で、必ずしも読者に「フェア」には書かれていない。

まぁ、私はそれほどミステリの「フェア」「アンフェア」は気にしないんですけど。読者にも必ず推理できるよう手がかりがきちんと描かれている「フェア」な作品であっても、どっちみち全然真犯人を当てられなかったりするので(笑)。

1907年って日本だと明治40年ですからね。その時代の新聞連載小説。読者の期待を煽る大仰な文章、設定になっていても無理はありません。というより、そうであればこそ当時の読者は夢中になって読んだのでしょう。

ちなみにアルセーヌ・ルパンの初登場は1905年。第一短編集が刊行されたのがこの『黄色い部屋の秘密』が連載されていたのと同じ1907年だそう。ルパン物の中にはミステリ風なのもあるけど、基本冒険譚。同じフランスの作品ではあるし、少し似た香りがします。

うん、ルパン物の初長編『奇巌城』でも探偵役は高校生のボートルレ。そしてこの『黄色い部屋の秘密』の探偵役ルールタビーユ君もまだ18歳。学生ではなく新聞記者だけど。追い詰める真犯人が「有名な悪党」っていうところも似ている。

解説によると、この作品の大悪党バルメイエもルパンも、同じ実在の人物をモデルにしているらしいです。「脱獄のプロにして変装の名人。しかものちにパリ警察の密偵になったことを足がかりに警察に所属し……」って、本当にそんな人おったんか。すごいな、フランス。
(ちなみにそれはヴィドックという人)

えー、それで肝心の物語なんですが。

人里離れたグランディエ城。科学者スタンガーソン博士とその令嬢マチルドは、城の離れに作った実験室で日夜研究を続けていた。ところがある夜、その離れの一角にある「黄色い部屋」で令嬢が襲われる。鉄格子のついた窓も、実験室につながる唯一の扉もかたく施錠された「完全なる密室」であるにもかからわず、博士達が扉を押し破って部屋に入った時、そこに犯人の姿はなかった。離れが無人になったわずかな時間をついて「黄色い部屋」に侵入することはできたとしても、令嬢を襲った後犯人は一体どこへ消えてしまったのか……。

ルールタビーユとその友人サンクレールは事件後すぐにグランディエ城に向かい、捜査を始めます。犯人は再びマチルド嬢を襲いにグランディエ城に現れ、ルールタビーユ達に三方から追い詰められるのですがまたもや忽然と姿を消してしまいます。どこにも逃げ場はなかったはずなのに。

果たして犯人は透明人間なのか? 壁をすり抜けることができるとでもいうのか?

もちろんそんな超自然なお話ではなく、種明かしをされてみれば「なぁーんだ」という真相だったりはします。二度目の襲撃の際の「廊下で消える犯人」の方は「もしかしてこういうこと?」と思ったりもしましたが、「黄色い部屋の謎」の方は全然思いつきもしなかったので、「なぁーんだ」だけど「なるほどなぁ」でした。

友人のサンクレールが「15年前には令嬢の名誉のためすべてを明らかにすることはできなかったが今なら」というわけで語り始めるこの作品。冒頭で

私は〈謎〉という点において、この〈黄色い部屋の謎〉に匹敵するものを知らない。それはあのエドガー・アラン・ポーの『モルグ街の殺人』の中にも見られないものだ。ましてや、ポーに追随した、ほかのつまらない作家の作品や、謎のつくりとしては大雑把すぎるコナン・ドイルの作品には決して見られるはずがないものである。 (P9)

などと言っちゃっています。

大丈夫か(笑)。

シャーロキアン敵に回したらかなりヤバいと思うんですが。

それに、「謎解き」の部分はともかくとして、探偵役ルールタビーユ君が生意気で自信過剰なガキで(笑)、正直あんまり好きになれるタイプじゃない。裁判が始まって、ギリギリにルールタビーユが現れるっていうのもいくら新聞連載とはいえ、あまりにもあまりにもな感じ。

しかもそのルールタビーユ君の、事件にも絡む「出生の秘密」が最後にほのめかされて、「ええええーっ」。ルルー君、いくらなんでもやりすぎだよ。

と言いつつその「出生の秘密」に向き合うらしい続編『黒衣夫人の香り』をちょっと読んでみたいと思ってしまう活字中毒者。


Amazonレビューではあまり評価は高くないようですが、それがかえって私の読書欲をそそったりして。

ルールタビーユが最初から自分の父親のことを知っていたのかどうなのか、その辺が気になるんですよね~。母親のことは知っていたみたいだけど、そう思って物語を振り返ると「好きになれないタイプ」とはいえ気の毒にもなってきます。

でも残念ながら近所の図書館にないので、続編は読めないまま終わりそうです。他にもたくさん読みたい本・すでに買っている本がありますしね。

ルールタビーユものは全部で8作書かれたそうなのですが、残念ながら現在邦訳が読めるのはこの2冊だけのよう。生意気な18歳の新聞記者もシリーズ後半では少し丸くなってきたりしていたのかしら……。



今読んで面白いかというと微妙でしたが、古典を読む楽しみはありました。子どもの頃読んだはずの作品ではあるし。

この新訳版では原著ではつじつまの合わない箇所をちゃんと「つじつまが合う」ように調整して訳してあるそうです。「原文とは違う情報が含まれたり、原文にはない情報が補足されている」と訳者さんがことわってらっしゃいます。

その「つじつまの合わない箇所」にツッコミを入れたかった気もしますが、そんな「論理のほころび」には気づかず読んでしまいそう(^^;) 原著に忠実な訳を読みたい方は他の訳書を手に取った方が良いかもしれません。

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