2016年2月29日月曜日

『砂糖とダイヤモンド~コーネル・ウールリッチ傑作短編集1』/白亜書房



シリーズの2冊目『踊り子探偵』が面白かったので、最寄りの図書館になかった他の巻もお取り寄せしました。

この短編集は発表年順に編まれていて、第1巻はミステリ作家としてのデビュー作『診察室の罠』から始まります。

大学在学中の1926年にデビューして「フィッツジェラルドの後継者」とも騒がれたウールリッチ、けれどもその後低迷し、1934年に『診察室の罠』でミステリ作家として再出発したそう。

舞台は歯医者、診察室で患者を毒殺したと疑われている親友のために、主人公が体を張って真相を究明する話です。毒殺のトリック自体はすぐピンと来るのですが、同じ方法を自分に実験させる主人公の無鉄砲さ、それによるハラハラ感、「友人のためには命さえ惜しまないというのに、ただの歯医者のドリルには顔も向けられないんだ!」という主人公の粋なキャラクター。

うん、ウールリッチって短編でも登場人物に奥行きというか雰囲気があって素敵。

では残り8篇も一つずつ見ていきましょう。

【死体を運ぶ若者】

タイトル通り若者が死体を運びます。父が犯した殺人を隠蔽するために。

これも父と若者の関係性がいいです。妹や義母、義母の愛人を含めた家族の関係性。短編なのにすっかり若者に感情移入して、「バレませんように。うまく死体を隠せますように!」と祈りながら読んじゃう。いくら孝行息子と言ってもそれ犯罪なんだけどねー。犯罪者の方に感情移入しちゃうの。

だから結末には「よっしゃー!」って思っちゃうんだけど、優秀な警察なら若者の不審な行動に気付いて再捜査とかしちゃいそう。警察が動かなくても、彼の行動の意味に気付いた誰かがゆすってくるとか……。

【踊り続ける死】

これは冒頭の警察署内でのやりとりが楽しかった。署長と刑事たちとのやりとりが港署捜査課での課長と鷹山さん達のやりとりに脳内変換されちゃって(どうしようもない『あぶ刑事』脳)。

先輩刑事達の謀略(?)で署長に無理矢理現場に行かされることになった新米刑事くん。行った先は「マラソンダンス」の会場。当時アメリカでは「どれだけ踊り続けられるか」を競う大会が流行っていたそう。なんと百二十日も続いた大会もあったのだとか。

当然参加者は踊り疲れてへろへろ、意識さえ混濁……ついには死んでしまっていて。

でもそれは事故死や病死ではなく殺人だった! 

お話自体はそんなに面白くないけど、世間で流行っているものをうまく取り込んでいるところはさすがです。

【モントリオールの一夜】

知りあいが一人もいない外国の街、ポケットには小銭だけ(わずか75セント)、それで一週間うまくやってみろ、という友人との賭けに乗ってモントリオールにやってきた主人公。75セントしかないのに町一番のホテルに泊まり、劇場の2列目のチケットを2枚も取って、見ず知らずの女を引っかけ、挙げ句事件に巻き込まれ――。

主人公の度胸というか胆力というか、普通に考えたら絶体絶命のピンチなのに飄々と乗り切って最後には見事賭けに勝っちゃうタフさに痺れます。

うん、できすぎなんだけどねー。「こんなにうまく行くわけないじゃん!」なんだけど、そこが醍醐味。フィクションの楽しさ。

お気に入りの一篇。

【七人目のアリバイ】

犯罪者のアリバイ作りを生業にする男、フェイドのもとへやってきたブレインズ。何度も人を殺し、そのたびフェイドにアリバイを用意してもらっていた彼。今度も余裕で“仕事”を終えられるはずだったのだけど……。

結末は予想できるとはいえ、ブレインズを襲った皮肉な運命ににやりとさせられる一篇。

【夜はあばく】

妻は実は放火魔かもしれない……という疑念に駆られた男の追跡劇。ひたひたと迫ってくる破局の予感がなんともウールリッチ。

最後のオチも哀しい。

【高架鉄道の殺人】

これもお気に入りの一篇。主人公のステップ・ライヴリー刑事の造型がすごくいい。「ステップ・ライヴリー(軽やかに歩く)」という仇名とは正反対にスローモーションのようにゆっくりとしか動かない男。けれどもそれは「太っているから」ではなく、むしろ彼は痩せ形。その肉体の動きに反して頭の回転は速く、警察が手を焼く指名手配犯を何人も捕まえてきた優勝な刑事。

そんな彼がたまたま高架鉄道で遭遇した殺人。今はもうないマンハッタンの高架鉄道の描写も面白く、魅力的な作品です。ライヴリー刑事、この作品にしか登場しないのだとしたらもったいない。シリーズ化希望(笑)。

【砂糖とダイヤモンド】

文無しの男がカフェの砂糖壺の中からうっかりダイヤモンドを拾い上げてしまったら。

幸運?

まさか! それはとんでもない不運の始まり。

たとえゴルコンダの富をすべて手に入れたとしても、人はそれまでと変わらずなお無一文のホームレスでいられることを、彼は初めて知った。 (P233)

ダイヤモンドの本来の持ち主――というか盗んだダイヤを砂糖壺に隠していた凶悪犯罪者に追われ、逃げ回る主人公。彼のような人間が持っているはずのないダイヤモンド、せっかく手に入れても金に換えることもできず、警察に届けても「偶然見つけた」などと信じてもらえるわけもなく……。

ハラハラさせるのがほんと巧いです、ウールリッチ。

【深夜の約束】

初期のロマンス短編。少しミステリぽい雰囲気もあって、小粋な一篇。



ハラハラ感と詩情を兼ね備えつつ少しずつ風味が違って、飽きずに読み進められます。
さ、次は第3巻を読むぞ♪

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