2016年4月15日金曜日

『チャイナ蜜柑の秘密』/エラリー・クイーン


国名シリーズのえーっと、8作目かな?

間にウールリッチや国名シリーズ以外の作品を挟んだせいでもう何作目なのかわからなくなってます(^^;)

7作目『シャム双子の秘密』を読んだのが昨年の9月頭ですから、7か月ぶりの国名シリーズ。

いやぁ、ウールリッチを読んでからクイーンに戻ってくると、そのサスペンスのなさに「ほげぇ」となりますね(笑)。せつなさとか胸苦しさとか何にもない(爆)。

「謎解きなんかどうでもいい」ウールリッチと、「謎解きしかない」と言っても過言ではないクイーン。

ハラハラしすぎて読み進むのがつらい時もあるウールリッチと違い、安心して気楽にさくさく読めちゃいます。一口にミステリと言っても――古典ミステリと言っても、色々あるんですよねぇ。

この『チャイナ蜜柑の秘密』は1934年の作品。その年のうちに日本でも翻訳紹介されていたそうで、すごいなぁと思います。しかも文芸誌ではなく映画誌である『スタア』で紹介されたというのが面白い。

1934年というのはウールリッチがミステリの短編を発表し始める年でもあります。

で。

今回の事件は、「逆向き殺人事件」とでも言うべきもの。

発見された死体が下着から何からすべて逆向きに(後ろ前に)服を着せられており、部屋の書棚も常とは逆向きに動かされている。テーブルの上の果物の入ったボウルも逆さにされ、そこにはチャイナ蜜柑――タンジェリンが――。

Wikipediaによると

“マンダリンとタンジェリン(英: Tangerine)は植物学上は同一分類のCitrus reticulata種に属し、成熟した果実の果皮の色が黄色~橙色のものをマンダリン、橙色~赤色のものをタンジェリンと呼ぶ。”

“Mandarinマンダリンは中国清朝の官吏のこと。彼らが身につけていた服の色による。Tangerineはタンジール(Tangier)人、つまりモロッコ人のことである。”

とありますね。マンダリンが中国経由で日本に伝わったものが温州蜜柑、とも。

「フランス白粉」と言いながらフランスぽいのは百貨店の名前だけだったり、タイトルの国名に意味がありそうでないことが多い(笑)このシリーズ、今回は中国のお話がけっこうたくさん出て来ます。うん、事件の真相にちゃんと中国が絡んでる。

「何もかもが逆向き」な事件現場を見て、「逆向き」に関することに過剰反応するエラリー。現場の関係者に中国帰りの女性がいて、彼女と「中国は“逆向き”の国だ」「ヘブライ語を除けば、中国語は“逆向き”に印刷される世界で唯一に近い言語だ」などと話し合います。

縦書きの場合は日本語も“逆向き”ですよね。あれ、アラビア語も逆(右から左)じゃなかったっけ?

まぁ、諸々の“逆向き”に関することは事件とは無関係な“めくらまし”も多いので、どの手がかりが重要でどの手がかりが不要なのか、事件関係者の怪しい言動や隠し事を一つずつ検証しつつ、事件現場の「逆向き」の本当の意味をエラリーとともに探っていくのがこの作品の醍醐味です。

いつもながら「挑戦状」のところまで来てもさっぱり真相がわからないわたくし。

最後、種明かしの少し前にようやく「あー、犯人はあの人か」と思い至りましたが我ながら気がつくの遅すぎ(^^;)

服が全部逆向きになっていたことは被害者の職業と関係があるんですが、日本人にはまったくピンと来ないことだったりするんですよね。「へぇー、そういう風習があるのか」と思いましたですよ。

今回被害者の身元がまったくわからないことも一つ大きなポイントで、「名前は判明しませんでしたが、それは重要ではありません」とエラリーに言われて最後まで名前を明らかにしてもらえない被害者。考えてみれば気の毒です。殺されてる時点で気の毒どころではないけど、「名無しのごんべ」として死んでいくなんて。「重要ではありません」なんて……。

さくさく読めたしもったいぶったエラリーのスカした態度は楽しくて、

「西洋の人は、女をおだてるとなると、想像力があまり働きませんから」
「それはわかりかねます」エラリーは言った。「何しろぼくは女ぎらいなもので」
 (P145)

なんてやりとりや、美貌の女詐欺師に向かって

「頼むから、そんなに近づかないでくれないか。ぼくもときには強い自制心を働かせられるんだが、いまはむずかしいんでね。ぼくだって人間だ。午前二時には、ぼくの道徳的抵抗力もいちばん弱まっている」 (P282)

と言うシーンなどうぷぷとほくそ笑んでしまいます。

若き万能執事ジューナくんにまだちゃんと出番があるのも嬉しい。

でも。

うーん、このトリックはどうなの? 「逆向き」の演出、そして「逆密室」とでも言うべき状況、最後にすべてがぴたりとはまって、「チャイナ蜜柑=タンジェリン」が見事な「オチ」になる――実にクイーンらしい、パズルミステリとしてよくできた、合理的な殺人事件なんだけど。

犯人考えすぎっちゅうか、本当にそんな面倒くさいことやるのか?っていう。いくら事前に計画していたとしたって、解説で「図解」してもらわないと状況が呑み込めないぐらい面倒くさい(笑)。死体を使ってあんなことを……。そんなごちゃごちゃ細工してる間に第三者に気付かれちゃうかもしれないのになぁ。



さて、いよいよ次の『スペイン岬の秘密』で国名シリーズはおしまいです。

ああ、読むのがもったいない。



【※これまでの国名シリーズ、その他クイーン作品についての感想はこちらから】

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