2016年5月27日金曜日

『はまぐりの草紙』/橋本治・文,樋上公実子・絵



講談社の「現代版 絵本御伽草子」全6冊中の1冊です。他の5冊は読んでいないのでどんな感じなのかわかりませんが、この『はまぐりの草紙』は「さすが橋本さん!」でした。

このシリーズ、「御伽草子に想を得て、現代の人気作家たちが新たな物語を描き出しました!」というコンセプトなので、必ずしもただの「現代語訳」ではないようです。橋本さんの場合「現代から見たツッコミ入りの現代語訳」になっていて、読みながらにやにやさせられっぱなしでした。

巻末には『蛤の草紙』原典も収録されていて、たまたま私は先にそちらに目を通したのですが。

うん、正解でしたね、先に原典読んどいて。

原典を知ってから読んだ方が橋本さんの「ツッコミ」をより楽しめると思います。古文だけど「御伽草子」なのでそんなに難しくありません。辞書とか見なくてもだいたいわかります。

で、まず原典を読んで、自分でツッコムわけですよ。

「え? 60歳の母親の面倒を見なくちゃいけないから結婚できない40歳の男って何? それも母親が病気だからとかじゃなくて“嫁なんかもらったら嫁にかまけて母ちゃんの面倒なんか見たくなくなるから”ってどーゆー理由よ」

母親の足をおでこに載せて寝る……? 室町時代の人(というかお話の舞台は天竺のどこかだったりするけど)ってそんなことしてたの?」

などなど。

お話としては浦島太郎と鶴の恩返しがごちゃごちゃになったような感じ。40歳独身で60歳の母親の面倒を見ている貧乏な主人公シジラは、ある時魚釣りに行って蛤を釣り上げます。当時の天竺の人は蛤なんか食べなかったらしく、シジラは「こんなもの持って帰っても仕方ない」と海に返すのですが、釣りの場所を変えてもまた同じ蛤がかかってしまい、とうとう三度目にシジラは諦めて舟の上に上げます。

するとどうでしょう。蛤はみるみる大きくなり、その中からそれはそれは美しい若い娘が出てきたのです。しかもその美女は「おまえの家に連れていってくれ」とシジラに頼むのですね。

親孝行な40歳独身男にやっと春が来るか、と思うのですが美女はシジラの家で機を織って、出来上がった布を売ってこいと言います。

このあたり、「鶴の恩返し」ぽいです。

シジラはその布を金貨三千貫で売ることに成功し、さらに買ってくれた人の御殿でお酒をよばれ帰ってきます。実はその御殿は観音浄土で、よばれたお酒は長寿の酒。一杯で齢千年、七杯飲んだシジラはなんと七千年の長命を得たことに。

この辺はちょっと浦島太郎ぽいような。いや、浄土で七千年経ったわけじゃないからだいぶ違うか。

ともあれたぐいまれな長命と大量の金貨を賜ったシジラ、「親孝行するとこんなにいいことがある。みんなこの話を読み聞かせ広めなさい」と御伽草子は言うのですが。

えーっと、ちょっと待って。

独身40男にやっと春が来たと思ったのにきれいなお姉ちゃんは帰っていっちゃったよ? 60歳の母親の面倒はやっぱりシジラがずっと一人で見るわけ?

しかもシジラ、ただ七千年の寿命を得ただけじゃなく、「食べなくても大丈夫、服を着なくても寒くない」特別な体になってしまっていてですね。

「三千貫の金貨」なんか手に入ったらどんなご馳走を食べよう、どんな豪華な服を誂えよう、どんな快適な住まいを……と人間思うと思うんですが、シジラにはもう食べ物も衣服も何にも必要ないわけです。

つまりそのお金は全部母親のために使えと……?

きれいなお姉ちゃんが一緒にいてくれるならお姉ちゃんを食べさせ着飾らせ、ということもできるけど、「私はただの観音の使いです」でさっさと帰っちゃった。

そこのところを橋本さんは

「別に食いたいものもなし、嫁さんになる女もいなくて、後五千年も生きるってどういうことだ?」とシジラはぼやいていますが(後略) (P26)

とツッコミます。(七千年の寿命を得たシジラは当然現在も生きているはずで、天竺時代からおよそ二千年が経った現在、シジラの余命はまだ五千年も残っているのです。だから“後五千年も生きる”)

いやほんとそうだよね。不老長寿(“不老”かどうかについては言及ないけど)はいいとして、なんでわざわざ「お腹空かない」みたいな体にしてくれちゃったのか。そんな仙人みたいな状況でお金たくさんもらっても……ねぇ。

昔の人にとってはこれが「ありがたい話」だったのかと思うとなんか感慨深いです。親孝行してればきれいな嫁さんが来てくれるって話じゃないのかーと。

まぁそれが「現実」と言えばそうなのかもしれなくて、「ありがたい話」と「夢のある話」は違うのでしょう。

橋本さんのツッコミは他にも色々あって、ほんとに読みながらにやにや笑いっぱなし。樋上さんのイラストもとても魅力的です。

あっという間に読める短い作品。ぜひお手にとってお楽しみください。

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