『赤い館の秘密』『四日間の不思議』が面白かったので、ミルンさんの短編ミステリが収録されたおそらく唯一のアンソロジーを手に取ってみました。

ミルンさんの作品『昔、ある殺人者が……』、うん、面白かったです。『四日間の不思議』はミステリというよりコメディだったけど、この短編はちゃんとミステリ。謎解きです。

探偵小説家の“私”のもとを訪れていた友人モーティマー警視が始めた昔語り。警視が昔取り扱った、ワインによる毒殺事件。警視がどのようにその犯人を推理し、追い詰めたか。「犯人は捜査陣に“そう思わせようとしている”のだ」「手がかりをもっとストレートにそのまま解釈すれば……」という推理じたいなかなか面白いのですが、最後のどんでん返しというかオチがまた見事で、すべての真相を聞かされた“私”がこの後どうなるのか、気になってしまいます。

ミルンさんミステリ作家としてもイケてますよね~、ほんと。

他の12編の作品もそれぞれ味わいが違って楽しめました。最愛の父を女に取られた青年の悲劇、おとなしく目立たない男が地元の酒のことではキレてしまう話、グルメな真犯人を見つけるために利き酒が用いられる話……。お酒をモチーフにしていることもあり、また、編者が小鷹さんということもあってか、粋で余韻のある終わり方をする作品が多かった印象。

短編ですから、オチが命、ということもありますね。

中には「これがミステリ?ん?」というのもありましたけど、一つ一つが短いので隙間時間に読むにもぴったり、各編の冒頭には登場するお酒に関する豆知識もついていて、「へぇー」と思います。ほとんどお酒が飲めない私でも十分楽しめるアンソロジーでした。

しかしみんなほんとにお酒好きだなぁ。


※収録作品一覧
「冷えたギムレットのように」フランク・シスク
「憎悪の報酬」フレッド・ルヴォン
「ナツメグの味」ジョン・コリア
「最後の一壜」スタンリー・エリン
「おごりの一杯」コリー・フォード
「二人のウィムジイ卿」ドロシー・L・セイヤーズ
「バーテンダーの死」デニス・リンズ
「爪楊枝」ジェイムズ・ホールディング
「ピエトロの友だち」ジェイムズ・A・カーチ
「昔、ある殺人者が……」A・A・ミルン
「ノー・ストーリイ」ドナルド・E・ウエストレイク
「赤ワイン」ローレンス・G・ブロックマン
「二本目の瓶」ジェイムズ・ロナルド