7月9日、びわ湖ホールに野村萬斎様版『マクベス』を観に行ってきました♪

もちろん戯曲を読んだこともなければ他の『マクベス』を観たこともなく、「なんかマクベス夫人が悪いんだよね?」ぐらいの知識しかなかったので、観劇前にお勉強。

シェークスピアの戯曲を読みました。

日本語訳は岩波文庫版と新潮文庫版が有名かと思いますが、読んだのは角川文庫版


もともと萬斎さん演出の「世田谷パブリックシアター ドラマ・リーディング」のためになされた翻訳だそうで、今回の舞台もこの河合祥一郎さんの訳が使われています。

うん、本当にそのままだった。場面が割愛されたり、話者が変わったりしてるとこがあるけど、言葉は基本この角川版のままです。

もとの原文は韻を踏んでいたりして、日本語訳もリズムとか色々考えて訳されていると思うのですが、自分で読むと「うーん、なんかリズムが取れない。読みにくい」感じだったのですよね。

それが萬斎様のお口にかかると流れるようにすらすらと美しくリズムが刻まれて。

ふおーっ、と思いました。

他の出演者の方もそうですが、そもまず、よくこれだけのセリフを覚えられるなぁ、と。

他のお芝居でも思うこととはいえ、今回出演者はたった5人で、マクベス(萬斎様)とマクベス夫人(鈴木砂羽さん)以外の役はすべて3人で回すんですよね。魔女だったかと思えばバンクォーになりダンカン王になりまた魔女になり……。

入れ代わり立ち代わり。

1時間半、暗転も幕もなくひたすら出ずっぱりで、よく間違えないなーと本当に感心。

私が観た夜の回は萬斎様によるアフタートークがあって、演出の裏話など聞かせてくださったのですが、なんでマクベス夫妻以外は3人だけかというと、結局全部「魔女=運命」だから、ということだそう。

最初に舞台に広げられる大きな布。魔女が敷いたその布の上で踊らされるマクベス。

すべては魔女が変化した姿……と思えば、「自分は今、何の役」と混乱することもない……のかな???

マクベスの人生を春夏秋冬になぞらえたり、舞台装置として「ゴミの山」があって魔女がそこから登場したり。

アフタートークでは原発のことにも触れていらっしゃいました。

「マクベス」の中の有名なセリフ「きれいはきたない、きたないはきれい」(このセリフ『夏の夜の夢』を下敷きにした宝塚の『PUCK』でも使われてましたが)。物事には表と裏、二つの側面がある、という意味に取れますが、「きたないもの」と言えば例えばゴミ。

「ゴミを出すのは人間だけ」と萬斎さん。

夢のエネルギーだった原子力。確かにすごい技術ではあるんだけれど、たとえ事故がなくても「核のゴミ」は出る。日本では、まだその処分方法が決まっていないゴミ。世界的に見ても、「固い岩盤に守られた地下」に埋めるしか安全そうな廃棄方法はないようで。

人間の欲望、野心。

それが人間を進化向上させるのも事実で、でもその欲望が他者をふみにじり、自然を破壊することもある。

自分自身を破滅させてしまうことも。

魔女の予言とマクベス夫人の叱咤にそそのかされてダンカン王を殺害し、王位を奪うマクベス。

けれども結局マクベスは自分のしたことに怯えて眠れなくなるし、疑心暗鬼になってバンクォーをも殺し、マクダフに討たれることになる。

やった後に眠れなくなっちゃうんだから、マクベスも根っから悪い人じゃないんだよなー。親族でもある王をだまし討ちにしたのはそりゃ悪いけど、いわゆる「敵」はこれまでにもいっぱい殺してるんだし、時代状況を考えればマクベスだけが極悪人、ってこともない。

「すんごい悪女」だと思っていたマクベス夫人も精神を病んで亡くなっちゃうし、本読んだ時に「え?マクベス夫人この程度なの?たいしたことないやん…」と思ってしまいました。

どんなとんでもない悪女を期待していたんだ俺(´・ω・`)

だって「やる前は威勢がいいけどやった後はやっぱりくよくよしちゃう」ってすごい普通じゃないですか、マクベスもマクベス夫人も。

お芝居でも鈴木砂羽さんは可愛い雰囲気があって、そんなに悪女って感じはなかったです。彼女だって、「魔女の予言」がなければ――ダンカン王が自分ちに泊まったりしなければ――あそこまで夫を焚きつけたりしなかったんじゃないかなぁ。

「頑張って出世しなさいよ!それでも男なの!」「○○さんに負けてもいいの!」とサラリーマン亭主の尻叩いてる奥さんとか昭和にはいっぱいいたような気がするし。

それがマクベス夫妻の場合はたまたま「王位」で「王殺し」になっちゃっただけ……みたいな。

最後、マクダフ軍と対峙する前に有名な「Tomorrow Speech」というのがあって、

「明日、また明日、そしてまた明日と、
記録される人生最後の瞬間を目指して、
時はとぼとぼと毎日歩みを刻んで行く。」
 (角川文庫版P140)

云々とマクベスが言うんですが、その続きだったかちょっと後の場面でだったか、

「俺は人間だ!
明日を諦めないぞ!」


というセリフがあるんですね。

アフタートークによると、このセリフだけ萬斎さんのオリジナルだそうです。

「運命=自然=世界」に翻弄されながらも明日を想うマクベス。

「明日を想うのは人間だけ」と、萬斎さんおっしゃっていました。

明日を想うからこそ野心も抱く。

きれいはきたない、きたないはきれい。

人生の春夏秋冬を意識した演出、最後マクベスは真っ白な雪原に倒れて、そしてそこから花が咲くんですよね。

漱石の「100年目に合う」(『夢十夜』)を思い出したし、「それでも希望はある」というふうにも思えました。

運命の前に敗北しても、そこから芽を出し花を咲かせる何かはある――。



音楽が邦楽で、尺八、和太鼓、津軽三味線の生演奏というのも素敵でした。好みすぎる~~~♪

舞台の両袖にモニターがあって英語字幕が流れていたのも面白かった。「英語ではこう言うのか~」と。まぁそっちばっかり見てたら肝心の萬斎様が見られないので時々しか見てませんけど。

あの場所、あの字の小ささで後ろの席の人は見えるのかな、とちょっと思いました。(私は5列目上手端だったのでよく見えました) 後ろには後ろで別にモニターがあったのでしょうか。

あと、戯曲は読んでいった方がわかりやすい気がします。息つく間もなくノンストップで1時間半お芝居が続くし、皆さんセリフはとても聞き取りやすいけど独特の言葉使いもあるので。

最後の「森が動く」「女から生まれた者には負けない」って話も、事前に注釈を読んでる方が分かりやすいんじゃないかな。

知らないなら知らないで自分なりに受け止められていいのかもしれないけど。


萬斎様はじめ出演者、スタッフの皆さん、びわ湖ホールでの公演ありがとうございました。(びわ湖ホールでなかったら行けてない(^^;))


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