およそ8か月ぶりの橋本さんのご本です。新書で分量も少なく、対談――というかインタビュー形式の本なのでサクサクあっという間に読んじゃったのですがいかんせん感想を書く暇がなく、すでに読み終わってから1か月くらい経ってしまって……。

えーっと、何が書いてあったっけ(^^;)

「いつもの話」ではあるんですよね。橋本さんの本をたくさん読んできた人間にとってはさして目新しくもない。英国のEU離脱やトランプ大統領誕生という世相を扱ってはいても、それを見る橋本さんの視点、解説はこれまでにもさんざん語られてきたことで、「やっぱりそういうことだよね」と確認するにすぎない。

「そういうこと」がどういうことかっていうと、「もう経済は終わってる」とか「昭和が終わった時にそれまでの経済は終わったはずだったのに」とかいう話です。

『まえがき』には、

この『たとえ世界が終わっても』という本は、その『二十世紀』の完結篇みたいなものですが、 (P6)

と書いてあります。

『二十世紀』という本はなんと一年刻みで二十世紀100年を振り返るというすごい本で、昔書いた感想には「日本も大概だけど欧米もなー」みたいなことを書いています。世界はそんなにも美しくないと。

この『たとえ世界が終わっても』の中でも、橋本さんは大航海時代まで遡って、

一九世紀の押し売りっていうのは、後ろに軍艦連れていて、「あなた、買わないとどうなるか分かります?」って言う人たちがやるんだからさ、恐ろしい。 (P75)

なんておっしゃっています。「そんな押し売りをお茶出して迎えたのは日本だけ」とか、「貿易は西洋の陰謀」なんていう発言も。

私を含め、現代日本人はなんとなく「欧米のやり方が正しい」「資本主義以外のやり方はない」みたいに思ってるところがあると思うんですが、最初の「グローバル経済」は「軍艦引き連れての押し売り」だったわけだし、イギリスが中国に阿片売りつけてたのとか、まぁほんま「大概やな」と思うので、「本当にそれ以外の道はないのか?」を考えるのは重要で、資本主義をダメと言ったからって、「じゃあおまえは社会主義者なのか!」という話でもないだろうと。

関税撤廃で安い輸入品が手に入ることがメリットになるのは、その輸入されるものが国内にないか、あるいはすごく足りないって場合だけですよね。国内で同じものを作ってて、そこに安い輸入品がドドッと入って来たら、国内産業は壊滅状態になりますわね。 (P54)

自国を守るって、国家の基本的な役割だと思うのに、その国家が「保護主義」をやって国内の産業を守ることが、どうして悪いのか分かんないんですよ。 (P207)

本来なら「それって一体、なんのための、誰のための経済なのよ」って話にならなきゃ、おかしいと思うんだけどさ。 (P213)

引用しだすとキリがないんですけど、ねぇ、本当に、誰のための経済なんでしょうか。企業でしょうか。投資家でしょうか。企業が儲かればトリクルダウンが……って言って、でもそんな「おこぼれ」は来てないですよね。

物が行き渡ればそこで「新規需要」はストップして「買い替え需要」だけになる。国内の市場が飽和しても「まだ物が溢れていない発展途上国がある、彼らに買わせればいい」でよその国に売りつけに行って、でもやがてはそこも飽和してくる。

だいたいよその国にどんどんこっちのもの売りつけるって――「こんな便利なものがありますよ。欲しいでしょ」って、やっぱり押し売りで。

そのうちその国が発展してその国自身でその商品を作れるようになれば、その国にとってはその方がいい。でも押し売ってる方はそれじゃ困る。

日本は自分たちで色々高性能なものが作れるようになっちゃって、「じゃあその代わりオレンジや牛肉買えよ!売りつけるばっかりじゃなくてこっちのも買えよ!」って言われるわけで。

「貿易の自由」とは、貿易面での「戦争の自由」 (P53)

“売り手よし買い手よし世間よし”の近江商人みたいなこと、グローバル経済でありえるのかな。

書いてあることは橋本治ファンとしては「いつもの話」だけど、今回は「聞き手」のいる対談形式で、聞き手二人のうちの一人がまだ若い方で、「そんな、“終わってる”とか言われても」って反応してるのが面白かったです。

橋本さんは

私はさ、世の中の悪口を言ってるだけで、そこで生きてるあなたのことを、責めてるわけでもないし、けなしてるわけでもないの。自分とは違う「世の中のこと」なんだからさ、「へー」とか、「え、そうなんですか?」って言って、やり過ごせばいいじゃん。 (P198)

なんておっしゃってるけど、今の世の中を生きていかなきゃならない若者にしてみたら「否定されても困る」「でもこんないいところもある」みたいに反発したくなるのはよくわかる。世の中と自分はもちろんイコールじゃないけど、よその人に自分の住んでるところの悪口言われたらむっとするのとおんなじで。

「経済はもう終わってる」と言う橋本さんは、「だからこうしたらいい」と教えてくれるわけでもない。それどころか

私は個人的には、「世界が終わってもかまわない」と思ってはいます。なにしろ、私の残りの人生は「どうでもいい消化試合」ですから。 (P7)

と最初に言明してくれちゃってます。

「そりゃ年寄りは“終わってる”でいいかしんないけどさー」って思いますよね。「あとは君たち若いものが自分の頭で考えて住みよい世の中を作ってくれ」とか言われても、「こんな世の中にしたの誰だよ、あんた方世代じゃないの」とも思うし。

もはや私も“あんた方世代”なので、橋本さんに「どうしたらいいか教えて」って甘えるわけにもいきませんが……。

 

どうしたらいいか、橋本さんは言ってくれてるんですよ。

考えなさい、って。

個人の欲望から離れた、「損得に左右されない」論理で、世界や歴史を見つめ直すところからスタートし直すしかない。 (P220)