『ファウンデーションの誕生』で胸いっぱいになってしまって、次に何を読もうか、すぐには他のを読む気がしないけど、でも何か読む本が手もとにないと落ち着かないし……。

ということで、6月に読んだ『日本庭園の秘密』以来のクイーンです。

『日本庭園~』の次に書かれた1938年の作品で、ハリウッドものの1作目。

実際にこの頃クイーンは脚本家としてハリウッドに招かれていて、その待遇に対する不満を作中でエラリイに吐露させています。

解説によると、ハリウッドでのクイーンは

かなりたくさんのシナリオをものしたにもかかわらず、クレジットの入った映画は一本も作られなかったという、決して恵まれたとはいえない状態 (P319)

だったそう。

作中のエラリイ・クイーンも「脚本を書け!」とハリウッドに半ば無理矢理、拉致られるように連れてこられた(※本人談)のに、いざ来てみると部屋をあてがわれただけで仕事の話はさっぱり来ない。

彼を呼び寄せた大物天才プロデューサー・ブッチャー氏に連絡を取ろうと何度電話をかけても本人とは話ができず、会うこともできない。

それでエラリイ、だいぶブチ切れています(^^;)

本業が開店休業状態なので仕方ない、探偵するしかありません(エラリイの本業が小説家だって、私はほとんど忘れてましたけども(笑))。

折しもハリウッドでは大富豪ソリー・スペース氏が殺され、巷の話題をさらっていました。会社を倒産させ、投資家たちに大損させながらも自分の金はしっかり確保。世間の非難を浴びている中での殺害だったのです。

容疑者として逮捕されたのは共同経営者だったリース・ジャーディン。スペース氏が富豪のままだったのと対照的に、ジャーディンは倒産で無一文になってしまっていました。動機は十分、しかも事件の直前に敷地内に入る姿を門番に見られている。

でも実は、門番が見たのは彼のオーバーコートだけ。その特徴からジャーディンのものと断定されたものの、実は着ていたのはスペース氏の息子ウォルターなのです。ウォルターとジャーディンの娘ヴァレリーは恋人同士で、事件の日、ジャーディン家を訪れていたウォルターはオーバーを間違えて出ていったのです。

スペース氏の死体が発見された時、ウォルターは敷地内で何者かに殴打され倒れていて、ジャーディンとヴァレリーがオーバーの件を証言すれば殺人容疑は俄然ウォルターにかかることになる。

父のやり方に反発し、直前に遺産相続人からはずされていたウォルターにも、スペース氏を殺す動機が十分にあるのです。

オーバーの件と父のアリバイを証言すれば恋人ウォルターに嫌疑が、けれど証言しなければ父が犯人として起訴されてしまう。

「お父様か、ウォルターか」。ヴァレリーはたびたびそう言ってこの板挟みに苦しみます。

で。

どちらも救うためには真犯人を突きとめるしかない!と新聞社に行ったヴァレリーは、「一緒に事件を調べる記者」としてエラリイを紹介されるのですね。派手なジャケットにサングラスで変装し、「キング」と名を変えたエラリイを。

クイーンだからキング。

わ か り や す す ぎ る だ ろ う !

まぁ、バレずに捜査を進めるんですけどね。

ジャーディンとヴァレリーはウォルターをかばい、ウォルターの方もジャーディンをかばうために口をつぐんでいて、双方が正直に知っていることを話していればもっと早く事件は解決したのでは……と思うのですが(エラリイも「君たちが黙っているから苦労した」みたいに言ってます)、まぁ状況証拠的には二人以外の真犯人を指し示すのが難しく、「事実を述べた」としても警察が信じてくれたかどうかはわからない。

エラリイの観察と推理力がなければ――。

事件解決のご褒美に警察が「知事でも大統領でも誰にでも会わせてやる」と言うと、エラリイはもちろん「ブッチャーに会わせてくれ!」。

うぷぷ。

大統領よりも会うのが難しいブッチャー氏。
エラリイのハリウッドに対する文句と、正体を隠しての行動を楽しむ作品ですね。

あと、途中で「日本の将軍のような性格」といった比喩が出てきたり、「十四世紀の日本のもの」という矢じりが出てきたのが日本人としては面白かった。


果たしてエラリイはブッチャー氏に会うことができるのか!?
その答えは次の作品『ハートの4』の中に。