1月に雪組公演を観劇してからおよそ5か月、久しぶりに大劇場に行ってきました!
6月14日の13時公演。



本当はGW明けの5月8日に花組さんを観るはずだったのですが……皆さんご存知の通り、緊急事態宣言のせいで4月26日から5月11日までの公演が中止になってしまいましてですね。

去年もGW明けに月組さんチケット取ってたの、中止になったんですよね……。なんか、もう5月は鬼門なのかしら。新型コロナウイルスのせいとはいえ、たびたび公演中止になる宝塚、観る方だけでなくジェンヌさん達も気の毒すぎる。

この月組公演の方は当初観る予定なかったんだけど、ちょうどその中止決定の日が一般前売り開始日だったこともあり、急遽チケット買っちゃいました。

そんな、棚ぼた的に観ることになった公演だったのですが。

良かったです!!!
『桜嵐記』、お芝居がすごく良かった。お話も、キャストの皆さんの熱演も、そして音楽も

音楽、この公演から生演奏が戻ってきてるんですよ! コロナ対策のためずっと録音で、オケピットは無人だったのが、ついに!!
とはいえオケピット、「蓋」がされてて、オーケストラの皆さんの姿は見えず。指揮者の先生は幕が上がる前に挨拶してくださいますが、すぐに地下に潜ってしまわれる。 

この写真、わかりますかね? 舞台と銀橋の間のオケピット、中央部だけを残してあとは蓋がされてる。


近づいて見たわけでもないので(もちろん今回もB席)、どういう「蓋」なのか、単に目の詰まった網とかなのか、もっとしっかりした「板」なのか、わかりませんけど、これまでとは違う空間での演奏、オケの皆さん、本当にありがとうございます

時代物なので笛や太鼓の音がふんだんに使われていて、特に終盤の合戦の際の音楽など格好良くて超私好み! サントラが欲しい(笑)
考えたら宝塚って、公演ごとに主題歌だけでなくBGMも全部作るんですから、すごいですよね。いや、まぁ、他の舞台でもそうでしょうけど、常打ちで、これだけオリジナル作品をやってる劇団って、そうはないでしょ?

コロナ禍ですっかりLIVE配信に慣れ、往復の時間と交通費を考えたらもう全部LIVE配信で良くない?って気にもなってたんですけど、やっぱり生はいい! 往復しんどくても、わざわざ滋賀から観に来た甲斐があった!と心から思える舞台でした。

『桜嵐記』は南北朝の動乱が舞台
最初にちゃんと「どうして南朝と北朝とに分かれたか」という時代背景の説明があって、大変わかりやすい。日本史の授業で一応知っているもののピンと来ていなかったのが、「そういうことなのか」って初めてわかった気になりました。

珠城りょうさん演じる主人公楠木正行(まさつら)は、かの有名な楠木正成の嫡男です。うん、楠木正成、名前は知ってる。
後醍醐天皇を助け、鎌倉幕府を滅ぼす立役者ともなった正成、しかしその後の北朝=足利尊氏との対立で戦死。後醍醐天皇も病死し、南朝は息子たちの代になっている。

南朝、吉野の宮におわすは後醍醐天皇の息子、後村上天皇。そして仕える武将は正成の遺児、正行、正時、正儀(まさのり)の三兄弟

まず、この三兄弟の性格付けがとても良い

長男正行は有能な武将でありながらとても生真面目、四角四面と言っていいぐらい。驕らず、偉ぶらず、敵の兵士(というか徴用された百姓たち)をも助け、できうることなら争いをやめ、北朝と和睦を結びたいと考えている。

鳳月杏さん扮する次男の正時は武芸よりも料理が好きな愛妻家。そして月城かなとさん演ずる末弟正儀は戦場を遊び場として育った、いわゆる「やんちゃ」さん。
正儀は河内弁なんだけど、それがまた良い。すごく良い!

天皇はじめ公家の人たちは「あらしゃります~」的な言葉だし、尊氏たちも標準語というか「坂東武者」の言葉遣いで、まぁ普通こういう時代物の時って、たとえ京都や吉野が舞台でもあんまり関西弁は使われないと思うんだけど、千早赤阪村育ちの楠木正儀、ちゃんと関西弁で喋ってくれる。
大阪人には嬉しい設定ですよね。しゅっとした美形の月城さんが関西弁っていうギャップもいいですし。

でもなぜか主人公正行は標準語で、百姓のジンベエに「なんで正行はんは言葉がちゃうんでっか?」といじられる場面も。正儀は「ああ、兄貴は格好つけてるんだ」とかって答えるんですけどね。そしてそのあと正行、「ほな、行きまひょか」と一言だけ関西弁を使うの。
こういうちょっとしたやり取りも楽しいんだよなぁ。よくできてる。

千海華蘭さん演じる百姓ジンベエがまた良くってねぇ。さっきから「良い」しか言ってないけど。こちらは百姓なのでバリバリ河内弁で…千海さん大阪出身でらっしゃるし、巧いよね。

正行がヒロイン弁内侍を助けるところに居合わせる――というか、雇われて彼女の乗った輿を運んでいた人足の一人がジンベエなんだけど、北朝方の手の者に襲われた弁内侍を放っておけず、助けようとしてくれて。
それで正行に「この者は百姓だが、困っている者を助けようという気持ちに貴賤の別はない」とか言われるの。

弁内侍はお公家さんで、最初、百姓や武士にちょっと偏見を持ってるヤな女なんですよ。まぁ親兄弟を北朝方の武士に殺されているってこともあるんだけど。
助けてくれた正行にさえ最初は良い顔をしない。
正行が「百姓だって」と諭すところ、敵兵を助けるシーンとともに彼のひととなりを巧く見せててとても良い。

公家が武士を軽んじてるのは弁内侍だけの話じゃなくって、南朝のお公家さんたちはみんな、正行たち武士を「下」に見ている。彼らの働きに感謝しないどころか、その言葉に耳を傾けようともしない。
「武士は朝廷に仕えてなんぼ」、頭(ず)が高い、ひかえおろぉ~~~。

個別の戦いでは正行の才のおかげで勝ってはいる、でも軍勢の規模を考えれば、この先南朝に勝ち目はない。
だから正行は「北朝と和睦すべき」と進言するのだけど。そして後村上天皇も、あたら無駄な命を失いたくないと思ってはいるのだけど。

出て来る後醍醐天皇の怨霊。

後醍醐天皇は大好きな一樹千尋お姉様が演じてらっしゃるんですが。
怖かった!
めっちゃ怖かった!!!

まさに怨念なんですよ……。決して諦めない、何が何でも都を――王朝を自分の手に取り戻すのだと。これまでに死んで行った者達の無念を、犠牲を、おまえたちは無駄にするのかと。

「始めた戦はやめられない」

なんか、時節柄オリンピックのことを思わずにはいられませんでしたね。ここまでつぎ込んできた金と労力を、無駄にはできないだろう、という呪い
「なぜ日本は戦争をしてはいけないか、それは始めたら終われないからだ」、みたいな話をTwitterで見かけた気がするけど、「負ける」とか「和睦しよう」とかいうことを誰かが言い出しても、「縁起でもない」で議論すらしないし、「勝てるようになんとかするのがおまえたち現場の役目だろ」って上はただ命令するだけ、丸投げするだけ。

南朝の宮に侍るお貴族様たち、「和睦?冗談じゃない」と言いながら自分たちは戦場になんか一切出ないんだからなぁ。

いや、もう、ほんとに。ほんとに、日本……。

先帝の遺志とか、死んでいったものが浮かばれないとか、そんなもののために今生きている人間がまたどんどん殺されていくんですよ。そしてどんどん浮かばれない魂が再生産され続ける。

「呪いで縛る」とはよく言ったものだよなぁ。

正儀は「負けるとわかっていてなぜ戦わなきゃいけないんだ!」と反発するし、足利尊氏は「こっちに寝返らないか?」と誘ってくる。
正時の妻、百合の父親も北朝方に寝返り、仲睦まじい夫婦だった二人は引き裂かれる。正時と百合のエピソードも、ほんといいんだよなぁ。

何のために戦うのか、自問する正行。

忠義ではなく、出世でもなく、「大きな流れ」に従うのだ、と言って正行は合戦に赴いていく。
弁内侍と結婚してはどうか、という後村上天皇の勧めも断って。

この、弁内侍とのエピソード、宝塚オリジナルではなく伝説として存在するそうで、「とても世に ながらふべくも あらぬ身の かりの契を いかでむすばん」というその時の「断りの歌」もWikiにちゃんと載ってて「おおお」と思っちゃいました。

劇中で正儀が槍で戦ってるのも、史実らしいんですよね。「槍を用いた戦術を普及させ」とWikiにある。お芝居ではやんちゃな三男っぷりに焦点が当てられていたけど、Wiki見ると正儀もなかなかの人物で、その生涯をもっと知りたくなります。

で、「四條畷の合戦」で正時と正行は討ち死にしてしまうんですけど、正儀だけは生き残る。正行に「この先平和な世を作れ」「おまえがやれ!」と託されて。

正儀がその後、南北朝和平に尽力するのも史実なんだけど、正行(珠城さん)が正儀(月城さん)に「おまえがやれ!」と後を託すの、サヨナラ公演としてめちゃめちゃよくできてますよね

年老いた正儀が弁内侍のもとを訪れ、思い出話をする、という構造になっていて、最後ジンベエが健在なのも嬉しいし、一旦そうやって「40年後」のシーンになった後、改めて「満開の桜の下での出陣式(四條畷合戦への出陣式)」に戻り、珠城さんが「皆様、お別れです!」と出立していく構成も本当に見事。

はぁー、上田久美子先生すご

配役も適材適所で素晴らしいし、これぞ座付作者よねぇ。『星逢一夜』も、ついこないだの『fff』も良かったしなぁ。

この前日に配信で『ヴェネチアの紋章』見たばかりだったので、「イタリア男は愛と野心のために破滅への道を進み、日本の男は“無能なお上”のせいで死地に赴くんだなぁ」とその違いもまた、胸に迫りましたね。
まぁアルヴィーゼは「負ける」と思ってたわけじゃないんだけども、ヴェネチア側の承認を得ずに突っ走って、それは一人の女への愛のためだったわけで。
「戦場で死ぬ身だから契りなんて結べない」と縁談を断る正行との差が激しい。

正行が殉じた「大きな流れ」とは何だったのか。何を想い、何のために彼は死んだのか。

生真面目な彼が、ただ己の利のために北朝へ寝返れないのはわかる。和睦の進言を受け容れてもらえるなら、それが一番良かった。武士の命も、戦に巻き込まれる百姓の命も、正行はこれ以上無駄にしたくなかった。

負けるために出陣したのかなぁ。

自分一人が舞台を降りても、兵士達は南朝の命令によって戦わされる。殺される。それなら、自分が率いて、少しでも、救えるものを救って――。
南朝一の武将である自分が斃れれば、その時こそ愚かな「お上」も和睦を考えるかもしれない、そんなふうに考えたのか。

南北朝のお話だけど、決してただの昔話じゃない、2021年に上演する作品として、メッセージがあるなぁ、と思いました。

はぁー、ほんと良かった。
珠城さんも月城さんも鳳月さんも、三兄弟みんな素晴らしかった。

JR宝塚駅にはこんな手作りのポスターも。

ちょっと足跡たどりたくなりますわ、うん。

で。
ショー『Dream Chaser』。こちらも楽しかったです!
この公演から組子が分かれることなくフルメンバーで出演ということもあってか、群舞に気合いが入ってる気が(群舞好き)。

第3章の「ミロンガ」はヤンさん(安寿ミラ)の振付でめちゃめちゃ格好良かったし(そしてめちゃめちゃ難しそうだった)、中詰め第5章「Dawn」は和楽器をフィーチャーした音楽がとても私好み。音楽には和テイストが入ってるけど、衣裳は普通に洋装で、「和の場面」ではない、そのバランスというか組みあわせが面白かったです。振付に少し演武っぽいところがあったような気もするけど。

フィナーレ、男役燕尾の大階段も格好良かった♡
珠城さんが光月組長はじめ7人の男役陣と一人ずつ挨拶を交わしていく感じのフィナーレFも心憎い。(光月さん、ポケットチーフで珠城さんの汗拭ってはった)
あっという間の55分でした。

お芝居では後村上天皇を演じた暁千星さん、歌もなかなかうまくて良かったです。月組男役陣、皆さん歌がうまかった印象。
月城さんはほんとシュッとして美しいしなぁ(実は月城さんばかり見てた)。

ほんと、観に行って良かったです。