(※以下ネタバレあります。これからご覧になる方はご注意ください。また記憶違い等多々あると思いますがご容赦を)


はい、観てきました、月組公演。
観たのは2023年2月20日。そしてこれを書きはじめた今日は3月6日。記憶が…、もう、記憶が……。

お芝居もショーもどちらも面白かった!という印象だけはしっかり残っているのですが、細部はすっかりあやふや、感想というほどのものを書ける気がしません(泣)。

そもそも月組さん、あまり観たことがなくてポスターに映ってるお三方以外ほとんどわからない。うう、ごめんなさい。
でもこのお三方の役がそれぞれ見事にハマっていて、とても良かったです。

『応天の門』、原作は灰原薬さんのコミック


評判が良いのは知っていましたが、読んだことはなく。
若き日の菅原道真がかの有名な色男、在原業平とタッグを組んで謎解きに挑む“平安朝クライム”。トップスター月城かなとさんが道真、2番手男役スター鳳月杏さんが在原業平、そして娘役トップスター海乃美月さんは唐出身の女店主・昭姫(しょうき)。

まず幕が開いてジャーンと流れてくる音楽が素晴らしい! これは母も言っていて、「あの幕開きの音楽で“これは期待できる”と思った」と。
道真や業平が活躍した時代は平安の初期。私たちが一般に「平安時代」として連想する藤原家全盛期よりも前で、まだ中国からの影響が強かったらしく、衣装も『源氏物語』のようなものとは雰囲気が違い、音楽にも「単純な“和風”“邦楽”じゃないよ!」という工夫がされていて、非常に格好良かった。

また冒頭のシーンがいいんですよね。
夜の京。
煌々と輝く満月のもと、女性のところから帰る途中の業平とその従者。
屋根の上にパッと現れる若き道真
絵面がとてもいいし、業平がどこから帰る途中なのか一瞬で言い当てる、賢くて生意気な道真と業平とのやりとりにぐいぐい引き込まれる。

月城さんの道真、とても美しいですし、「少年」とまでは行かないまでも、頭でっかちな「若造」の青さ、硬さがしっかり表現されていて、可愛さを感じさせる。
一方の鳳月さんは色気も余裕もある大人の男、業平が本当にぴったり。

『桜嵐記』の愛妻家正時もとても良かったし、『川霧の橋』の半次もめちゃめちゃ良くて、鳳月さんの業平が見たくてチケットを買ったと言っても過言ではありません。
正時とも半次とも違う人物像、平安貴族であり検非違使の長でありプレイボーイであり、その実、高子を深く想い続ける誠実さ、道真の将来を案じる優しさを持った男。

帝のもとへ上がるはずの藤原高子と駆け落ちして…という逸話は有名で、宝塚でも『花の業平~忍ぶの乱れ~』として舞台化されています。今作でも業平と高子の関係は非常に重要なモチーフとなっていて、高子にはしっかり見せ場もあるのですよね。

ところが。
業平と高子が絡む場面はない

回想シーンは「若き日の業平&高子」として別の人が演じていて、鳳月さん業平と天紫珠李さん高子は会うことができない。遠くから見ている、みたいな、同じ場面に登場していることはあった気がするけれど、言葉を交わすことも、まして抱き合うようなシーンはない。
なんか、この演出がすごい斬新でした。だって、夢の中とか、想像の中とか、それこそ回想シーンを鳳月さんと天紫さんの二人でやったっていいわけじゃないですか。それをあえてやらないことで、「引き裂かれている二人」が強調される。「一緒のシーンないの? ないまま終わっちゃうの?」とやきもきさせられてしまう。

二人の恋路は最終的に「いつか、必ず…」で終わるんだけど、劇中で二人が会えないことで、その「いつか」という想いが一層つのりました。

宝塚的には二番手男役さんと準ヒロインの絡み、がっつりあっておかしくないのに、ないんだもんなぁ。
まぁそれを言えばトップ男役とトップ娘役の関係性も、宝塚としてはかなり異色です。今作の道真は若き文章生、まだ十代の少年。対するヒロイン、昭姫は唐から流れてきて、唐渡りの品を手広く扱う店の女主人。大勢の使用人を使い、商売を切り盛りし、必要があればならず者たちに啖呵も切るような、「姐御肌」の年上美女です。

ひょんなことから道真と業平の“調査”に協力することになる昭姫、終始道真のことを「坊ちゃん」と言っていて、頑なな道真を「あなたは人の心がわかってない」とたしなめたり、「別の場所に行かなくても、今ここでできることは何か」と道標を与えたり。

惚れた腫れたの関係というより、まさに「姉と弟」という感じなんですよね。互いに異性としても憎からず思ってるのかな?という雰囲気もなくはないけど、それはまったくお話の主題ではない。
でもその関係性がすごくいいんですよ。「酸いも甘いもかみ分けた、異国の年上美女」という設定が、海乃さんの風貌にぴったりで、衣裳も非常によく似合っている。当たり役だと思います。

道真と業平が調査するのは、都を騒がす「百鬼夜行」の正体。「百鬼夜行」と言われるとつい「呪術廻戦」を思い出してしまいますが、京の町では「月の子(ね)の日」に鬼が現れ、その姿を見たものを取り殺すという怪事件が発生していました。検非違使の長たる業平は朝廷から「なんとかしろ!」とせっつかれ、偶然出会った道真に協力を頼むのです。

まだまだ「鬼」や「妖怪」が普通に信じられていた時代……というか、「実際に存在していた」と言ってもいいような時代、頭脳明晰で合理的な道真は「そんなもん、嘘に決まってるじゃないか。こうすれば青い炎なんて簡単に出せる」とからくりを看破。何か別の悪事を働くために、「鬼の仕業」と人々を脅かしているに過ぎないと。

折しも朝廷では藤原良相の娘・多美子の入内を巡って水面下で激しい政争が繰り広げられていました。時の帝は清和帝。わずか9歳で即位していて、劇中でもまだあどけない少年。なので朝廷の実権は母方の祖父である藤原良房が握っている。良房は姪である高子を養女にして、彼女を清和帝に嫁がせ、自らの地位を盤石のものにしようとしていた――のですが、高子と業平とのスキャンダルがあって、入内は先延ばし。

その間に良房の弟良相の娘・多美子の入内が決まり、良房とその養嗣子基経は面白くない。なんとか多美子の入内を阻めないものかと策を練っている。
ちなみに基経と高子は実の兄妹で、二人にはさらに国経、遠経という兄がいます。
この兄弟たち、高子と業平との因縁だけでなく、道真とも因縁があるのです。

貴族でありながら「貴族なんか嫌い」という道真。特に藤原の一族は嫌い、勉強だけしていたい、それもめんどくさい学寮などに通わず1人で書物を読んでいる方がよほど役に立つ、と公言してはばからない“人嫌い”な道真、その根っこには大好きな兄の死がありました。
道真と同じように学問に優れていた兄・吉祥丸。将来のためにと藤原の屋敷に通わされていた彼は、国経&遠経にいじめられ、犬をけしかけられて全身を噛まれ、それがもとで若くして亡くなったのです。

藤原と菅原。同じ貴族と言ってもその差は歴然。その狼藉を訴えるどころか変わらず藤原に仕えるしかない父に反発する道真。「百鬼夜行」の裏に良房&基経がいると気づいた業平が「この件はもう終わりだ、おまえはもう関わるな」と言った時も、「あんたも他の貴族と同じか。恋人を奪われても、藤原には楯突けないのか!」となじります。

そこで昭姫に「あなたは人の心がわかってない」と言われるのですけどね~。
そんな、少し青くさい道真が可愛らしい。

後半は多美子に対する直接的な攻撃もあり、それを止めるために道真が昭姫たちとともに踊りの一座に加わったり。「敵はわかっているけど、どううまく決着をつけるのか」と最後まで面白く見られました。

一件落着かと思ったらなんか最後不穏だったし、基経との戦いも「まだまだこれからだ」という感じで。
「もうこれで、坊ちゃんとお会いすることもありませんね」と少し寂しそうにする昭姫に向かって、「何を言う、これからもますます働いてもらうぞ!」と返す道真。がっつりLOVEな関係性じゃないところがほんとにいいし、「続いていく」終わり方が良い。原作続いてるし、宝塚でも「続き」を見たくなります。

月組さん、組子がほとんどわからないのですが、道真の侍女白梅役の彩みちるさんが可愛かった。侍女というより幼なじみのおてんば少女という感じで、「この時代だと貴族の使用人もまだこんな感じなの?」と少しびっくりしたりして。

三番手男役スター、風間柚乃さんは藤原基経役。しゅっとして大人っぽい風貌の方だなぁ、と思いました。基経は「敵」だけどわかりやすい悪役ではなく、謀略を巡らせるタイプの知的な「ワル」で、風間さんのビジュアルがうまくハマっていました。良房の養嗣子となったことへの葛藤も持っているけっこう難しい役をしっかりこなしてらした。
道真の兄、吉祥丸との間に縁もあり、この先の道真との絡みが楽しみになるキャラでしたね。やっぱり続編……。

ショー『Deep Sea~海神たちのカルナバル~』も幕開きからすごい
「深海」ということで濃い青色の、神秘的な色の照明から始まるのですが、「Dive!」という月城さんの掛け声とともにパッと幕が上がるとそこは極彩色のラテンな世界。日本物の「チョンパ」のように華やかな衣裳をつけた出演者がずらりと板付きになっていて、「わぁ!」と思わず声が出る。

『応天の門』ともども、「掴みはOK」すぎる!

「ラテングルーヴ」と銘打たれていることをちゃんと把握していなかったので、こんなに熱いショーだとは予想しておらず、嬉しい誤算。衣裳も非常に良いし、ラテンのリズムも心地よく、「深海のカーニバル」ということで舞台装置は少しファンタジックで、いつもの「ラテンショー」とはまた違った趣き。
途中、クラゲの映像が映し出されたりして、「宝塚の舞台にクラゲ!?」と面白く。

群舞多くて皆さんめちゃくちゃ踊らされていたし(2回公演キツそう~!)、真っ赤な衣裳の男役さんがずらりと銀橋に並んだり、振付も格好良くて。

第7場「Sanctuary(秘密の花園)」という場面では鳳月さんが女役で月城さんと絡む。歌は風間さんという男役スター3人の見せ場。
女役の鳳月さんも素敵だったなぁ。鳳月さん、歌もお芝居も良くて、ちょっとタータン(香寿たつき)を彷彿とさせる。
月城さんはなんか、ショーの間ずっとソルーナさん(磯野千尋)に似てるなぁと思って見てました。母は「ネッシーさん(日向薫)に似てる」と言っていたような。背が高くてシュッとした美形で、歌もさらに磨きがかかってらして、また月組公演観に来たいな、と思わされました。

フィナーレもベサメ・ムーチョからシボネー、チゴイネルワイゼン(タンゴ)と鉄板。本当にボリュームたっぷりのショーで楽しかった♪
NHKさん、録画中継してくれるといいなぁ。お芝居もショーももう1回見たい。