先日、LIVE配信で月城かなとさん主演の『川霧の橋』を楽しみました。

『川霧の橋』といえばウタコさん(剣幸)ミミちゃん(こだま愛)のサヨナラ公演。併演のショー『ル・ポアゾン~愛の媚薬~』も今年雪組さんで再演
1990年の公演が今になって両方再演されるとはなぁ。

感慨深いので、再演を見る前に初演のビデオを見てしまいました。『ル・ポアゾン』の方はけっこうよく見返してるんだけど、『川霧の橋』の方は久しく見ていなかったので、「どんなだったっけ?」と。

そうしたら、のっけからウタコさん達男役陣がいなせに祭り太鼓叩いてて格好いい!
太鼓とか和楽器とか大好きだけど、かなりの長尺でびっくり。ほんとにタカラジェンヌはなんでもやらされるなぁ。

ウタコさん演じる幸次郎、カナメさん(涼風真世)演じる半次、ユリちゃん(天海祐希)演じる清吉の3人は同じ組に属する大工職人。
次の棟梁に幸次郎が指名されたことから運命が狂い始めます。幸次郎の棟梁就任を快く思わない清吉は、幼なじみのお光に「俺の帰りを待っていてくれ」と言い残して上方へ。

で、このヒロインお光がミミちゃん(こだま愛)なんだけど、刃物研ぎ職人源六の孫娘であるお光は幸次郎の幼なじみでもあって、幸次郎もお光に惚れてるんだよね。
それをわかった上で、清吉は先にお光に「唾をつけて」上方へ発つのです。
幸次郎が親方夫妻を通じて正式にお光に結婚を申し込んだ時にはすでにお光は清吉と約束を交わしてしまっていて、しかも源六と親方夫妻の間には過去の因縁もあって、縁談はあえなく断られる。

断られた後で幸次郎はお光に自分の想いを告白。「おまえはどう思ってるんだ、おまえの気持ちを聞きたい」つって。
まぁ江戸時代のお話だし、本人たちの意向はむしろ後回しなのが普通だったんだろうけど、幸次郎も清吉も、お光に対して「俺の気持ちはわかってるだろう?わかってたはずだ、幼なじみなんだから」という迫り方をするのが怖い

江戸時代だし仕方ないけど、今男性が女性にこういう迫り方したらストーカーじゃない? 勝手に自分の気持ちを押しつけて、「おまえだってその気がねぇわけじゃないだろ」的な迫り方をするの。

30年前に生で観劇した時はこの場面どう思ったのかな、私。なんとも思わなかったのかもしれない。時代が変わって、私の感じ方も変わったのかも。

お光はお光で、最初に迫ってきた清吉の方にほだされ、「待ってる」って答えちゃって、その約束にずっと縛られてしまう。なんであそこで「うん」って言っちゃうんだ、お光ぅぅぅ。

そんなこんながあった後、江戸は大火事に襲われ、お光の家にも火の手が迫り、幸次郎はお光と源六を助けに駆けつける。実はその前に「もううちに出入りしないでくれ」と源六から言われていたんだけど、幸次郎、矢も楯もたまらなかったのだ。

この、2人を火の海から逃がそうとするくだりが幸次郎の最大の見せ場。「来ないでくれと言われてとても苦しかった」と改めてお光への思いを口にし、見返りを求めるわけではなくただ必死に愛するお光と源六を助けようとする。

でも結局源六は持病もあって途中で息を引き取り、お光と幸次郎もはぐれてしまって、お光は一時的な記憶喪失になり行方知れずに。

2か月だかが経って、幸次郎にはよっちゃん(麻乃佳世)扮するおよしとの縁談が持ち上がる。この辺がまた江戸時代で、組の棟梁として所帯を持たないわけにいかないのよねぇ。自分の意志ではなく、「家」の都合で結婚しなくちゃいけない。

一方、記憶を取り戻したお光は上方から戻ってきた清吉と所帯を持つんだけど、清吉はすっかりヤクザ者になってしまってて、お光の生活はとても苦しい。

すっかりやつれたお光と、羽振りのいい「若棟梁夫妻」(幸次郎&およし)がばったり出くわす場面、芸妓役のとんちゃん(紫とも)が「大変な場面よ、とてもここにはいられないわ」と言ってそそくさと逃げていくのが非常に印象的。

とんちゃんは他の場面もすごく素敵なのよね~。粋なのよ~。

そしてミミちゃんも前半のおきゃんで幸せな少女時代と、後半の耐える人妻、どっちもすごく巧くて

最終的におよしは病気で亡くなり、その四十九日が終わったぐらいの時にうまい具合に清吉の死の知らせも来て、幸次郎とお光は互いの気持ちを改めて確かめ合い、ハッピーエンド。
「もう、どこへも行くな!」とお光の襟元をぐいっと引き寄せるウタコさんが格好良い。

でも冷静に見ると「嫁の四十九日済んですぐお光のとこ飛んでくるのどうなの」と思ってしまって、幸次郎という「キャラクター」自体が格好いいのかどうかはちょっと微妙。
生きてる間はおよしちゃんのこと大事に気遣ってたし、情熱を胸にしまいこんで棟梁として組を背負ってきた、「いい男」には違いないのでしょう。自分がおよしの立場だったら……とさえ考えなければ。

ウタコさん幸次郎は安定したお芝居で、きっぷのいい江戸の職人、大人の男がよくハマってた。
月城さんは大工の棟梁にしては少しイケメンすぎるだろうと思ったけど、お芝居良かったですね~。『桜嵐記』の時もすごく良かったし、和物も意外に合うなぁと。

お光の海乃さんは……前日にミミちゃんお光を見ていたせいもあって、町娘が似合わない感が……。海乃さん、背が高く、手足もすらりと長く、大人っぽい顔だちなので、特に前半の「まだ恋の意味も知らないおきゃんな少女」のところが、幼く見えなくてつらかった(^_^;)

お芝居自体はしっかりしているので、劇場で観てるんだったらそんなに気にならなかったのかもしれないんだけど、ライブ配信だとアップで見えすぎてしまうので、見た目の違和感がダイレクトに……。背が高いので小さく見せるため(?)前屈みになってるふうにも見えた。
ショーではすらりとした長身が生きて、男役でも格好いいのでは?と思ったぐらいだったけど、『川霧の橋』では終始ムズムズしてしまった。

ミミちゃんが完璧すぎるんだよなぁ。歌もお芝居も見た目のキュートさも。

で。
お話の主人公は幸次郎&お光なんだけど、初演でも今回の再演でも「キャラとして格好いい」と感じたのは断然半次

半次は大店のお嬢さんお組さんに惚れている。でも「自分なんかにはとても」という感じで、彼女とどうこうなろうなどとは思わず、ただ愛しく見守ってるという感じなのだ。
もうこの時点で「俺の気持ちはわかってるはずだ」とお光に迫る幸次郎や清吉よりずっとポイント高いんだけど、火事の時もお嬢さんを守ろうと追いかけていくし、その後もずっと彼女を見守り続ける。

お光と同じように、お嬢さんも火事のあと行方がわからなくなってしまうんだよね。親元の「大店」も焼け落ち、両親も亡くなり、行くあてをなくした女の行き着く先は……。
そう、お嬢さんは「夜鷹」になってしまうのだ。よその女のシマを荒らして揉めているところへ半次が行き会い、「お組さん!?お組さんでしょう!?」と。

でももちろん彼女の方は「そうだ」とは言わない。「知らないね」とけんもほろろ。そりゃあね、会いたくないよね、自分が「お嬢さん」だった時代を知っている相手には。
半次は「声でわかる」って言うんだけど。

これ、初演のお組がりんりん(朝凪鈴)だったからこそ生きたセリフだったな、と再演を観て思いました。りんりんってほんとに独特の声してて、目をつぶっててもわかる感じだったから、どんなにやつれて見た目が変わっても、「まさかお嬢さんがこんな暮らしを」と思っても、「声でわかる」。

で。
半次の話ですよ。
幸次郎と棟梁の座を争うぐらい腕ききの大工だった半次、お嬢さんを探すため火事のあとは組に戻らず、「流しの大工」になってる。惚れた女のために人生棒に振ってるんだよね。お嬢さんが身を落としたことを知っても彼女への想いは変わらず、最後まで彼は人のために生きる。

胸を病んだお嬢さん、最後はお光のところに厄介になって、昔のほんわかした喋りで「ありがとう、私は幸せね、お友だちにこうして見守られながら死ねるのね。あっちに行ったら私、おみっちゃんのこと見守ってるわね」って息を引き取る。
その場に半次も駆けつけてるんだけど、決して彼女のそばに近づいて「俺です!半次です!」なんて言わないんだよ! 手を握ることも、想いを打ち明けることもなく、ただ部屋の隅で彼女の最期を見守ってる。

お光が「半次さんも来てくれてるのよ」って言って、お嬢さんは「半次さん……優しい人だったわ……」って。
もうこのシーンは何度観ても泣いてしまう。初演と再演、2日連続で観て2日連続で泣いた

しかも。

「およしも死に、清吉の訃報も届き、幸次郎とお光は晴れてハッピーエンド」になると書いたけど、実は清吉、その時点では死んでない。

島流しになってた清吉、島抜けして、別人を殺して自分の身代わりにしてたんだよね。まんまと騙されたお役人は「清吉が死んだ」ってお光や幸次郎に知らせた。
清吉は江戸を離れるつもりで、「夫婦ものの方が道中怪しまれない」というそのためだけに(愛してるからとかでなく)お光が必要で、半次に「お光を連れてきてくれ」って頼むの。

一旦は了承する半次、でも「お光さんは幸せになるべき人だ、おまえは俺が――」と懐のドス(匕首?)をキラリとさせて去って行く。
お光にも幸次郎にも何も言わず、ただただ二人の幸せを願って汚れ仕事を自分が請け負うんだよ!!!

最高だよね。
こんないい男いないよ。

初演でご贔屓のカナメさんが演じてたからというのをさっぴいても、私は断然幸次郎より半次派だなぁ。
再演の鳳月さんがまた良くてね
カナメさんとは柄がまったく違うけど、そのまま「鬼平犯科帳」とかに出られるのではと思うほど時代物の格好がよく似合ってて、特に後半の流れ者風情でありながら秘めた想いを抱えて……っていうのがハマってて格好良かった。色気があって。

ひとでなしの清吉は初演ではゆりちゃん(天海祐希)。再演は暁千星さん。初演の時は破竹の勢い&どちらかというと可愛い系爽やか系明るい系のゆりちゃんがこんな悪役を、と思ったんだけど、今回も可愛い系の暁さんが清吉を。

ほんとにお光より可愛いぐらいなんだけど、でも良かったです。
可愛くないと悪くなりすぎて宝塚的にoutなのかもしれない。ヒロインが一度は心を許してしまう相手だしなぁ。
三番手でこういう色悪な役をやるのって芝居の幅が広がっていいよね。トップになっちゃったらもうこんなのできないし。

月城さんの幸次郎、鳳月さんの半次、暁さんの清吉、三人のバランスとても良いな~と感じました。
一方娘役さんの方は誰が誰やら…だったのですが、お甲姐さん役の麗千里さんがきれいで印象に残りました。お甲姐さん、初演は舞希彩さん。舞希さんも特徴のあるお声で、しかもとても美しい方で、好きな娘役さんだったんですよね。我が青春の月組は本当に充実していた……。

そうそう、初演でお常を演じた京三紗さんが今回も扇寿恵役で出てて、「京さんまだ在団してらしたんだ!」ってなりました。専科のお姉様方もずいぶん寂しくなられてるから…。30年の時を経て同じ作品に出るって、京さんも感慨深かったのでは。


ちなみに原作は山本周五郎の『柳橋物語』と『ひとでなし』。

同じ山本周五郎の『深川安楽亭』をもとにしたバウ公演『紫陽花の花しずく』もほんとに良かったんですよねぇ。あれも月組、主演はみつえちゃん(若央りさ)

ついつい昔の話ばっかりしちゃうけど、再演『川霧の橋』も良かったし、今の月組さんもまた観劇したいと思いました。鳳月さんの半次良かった、うん(くどい)。