『天官賜福』第1巻をAmazonで購入

『天官賜福』の原作、日本語翻訳版です。
2021年7月~9月に放送されたアニメは楽しんで見ていましたが……って、え? アニメ放送もう2年前なの? マジで!? ついこないだ見たばかりの気がするのに。

この10月から再放送が始まり、来年1月からはアニメ2期の日本語版放送も始まるということで、原作を手に取るにはいいタイミングだったんですが。

買うつもりはまったくなかったんですよね。
日本語版出てることも知らなかったし。
たまたま大阪に出かけた時に、「たまには大きい本屋さんに」とジュンク堂大阪本店に立ち寄ったところ、「おすすめ本」コーナーに『魔道祖師』の原作が置いてあり。

『魔道祖師』があるということはもしかして『天官賜福』もある…?とそれっぽい棚を探しに行くと――あった!


1巻と2巻、どちらも1冊2,000円ぐらいするので一旦は棚に戻し、背を向けようとしたのですが、「せっかく大きい本屋さん来て実物を見たのに」と思い直してお買い上げ。
無職には思いがけない大出費でしたが、買って良かったです!
アニメではわからなかった細かい部分も確認できるし、1巻目の終盤からはアニメ1期の後、まだ知らない展開なのでドキドキしながら頁を繰っています。

惜しむらくは本文には挿絵が一切ないことで……挿絵欲しいぃぃ。この表紙だけでも眼福だけども。
表紙イラスト、アニメ第1話での「太子の嫁入り」シーン。もうね、ここがすべてですよね。800年以上想い続けた相手が花嫁衣装で自分の隣に立っている、その人の手を引いて歩く……。あああ、生きてて良かったね、花城(ホワチョン)! 「鬼」って死霊らしいし、「生きてる」と言っていいのかどうか微妙だけど。

最初にこの1話目を見た時は予備知識がなくて、太子殿下と花城の関係も、それぞれのキャラクターの設定もほとんどわかっていなかったんだけど、それでもこの「花嫁姿の太子殿下の手を取り歩いていく」シーンで「ぐわぁぁぁ」と心を揺さぶられてしまった。

とにかくこのシーンで流れる挿入歌『一花一劍』が良い!!!!!

2話目からも流れるかと期待していたら全然流れなくて、「あのシーンのためだけに作った曲なの!?良すぎない?もったいなすぎない!?」ってびっくりしたんですよね。最終回には流れるかと期待したのにそれもなく……。
この「1時間ひたすら『一花一劍』をリピートする動画」を見つけてしょっちゅう聞いているけど、何時間聞いても飽きないです。良すぎる。せつせつと胸に迫る。

正直2話目以降のストーリーは「めっちゃ面白い!」というほどでもなかったんだけど、この曲と1話目と最終回だけで泣けて、「印象に残る作品」でした。そして原作2巻目の序盤まで読み進んだ今では、文句なく「好き!!!」になってます。

主人公謝󠄃憐(シェリェン・表紙の右側の美青年)は天界の神官。17歳で飛昇して「神」の一員となったものの、二度地上に堕とされ、今回800年ぶりに天界に戻ってきた。彼が飛昇した衝撃で天界の屋敷などが壊れ、「弁償するには888万功徳が必要」と言われてしまう。
地上から神官として誰かやってくると地震みたいに天界に衝撃が起きる、っていうのがまず面白いけど、それって飛昇した本人のせいなの? 天界の設定ミスなのでは???

二度も地上に堕とされた謝󠄃憐を、他の神官は「三界の笑いもの」として侮っていて、彼が“通霊陣”というところで何か話しかけてもみんなあまり話を聞いてくれない。謝󠄃憐自身も800年も地上にいて天界の事情に疎く、神官たちの話についていけない。
本当は凄い人(?)っぽいのに飄々として、周囲からバカにされることなど何も気にしていない、喜んで「ガラクタの神」を名乗るような謝󠄃憐、なんとも味のあるキャラクターです。

謝󠄃憐はもともと仙楽国の太子(王子)で、そこから今でも「太子殿下」と呼ばれているのだけど、彼が最初に天界を逐われたのは、故国を助けようとしたからだった。
仙楽国に大乱が起き、彼は「衆生を救いたい」と地上に降りて、故国のために戦った。けれども彼が頑張れば頑張るほど、戦況は悪化していった。

考えてもみるがいい。人界では常に紛争が起き、人は皆自分の側に理があると思っている。もし神仙がそれに介入して、今日は誰かが自分の祖国の肩を持ち、明日は誰かが自分の子孫の復讐を手伝ったとしよう。ともすれば神仙同士が戦い、天地晦冥となってしまわないだろうか。 (P14)

うーん、そうだよね。太子として祖国を救いたい、人々を救いたいという謝󠄃憐の想いは尊いけど、すでに「神」となってしまった彼が地上の争いに首を突っ込むのは、正しくはなかった。

「すべての人間を救うことなどできないのだよ」「私はできます」 (P14)

わずか17歳で飛昇、仙楽国の大乱はその3年後らしいので、太子殿下はまだやっと二十歳。若気の至りといえばそうなのだろうけど、この「事件」で彼への信仰は文字通り“地に落ちて”しまう。

自分たちが神として信奉していた太子は、思っていたほど完璧でもなければ強くもなかった。悪く言えば、良くなるどころかかえって事を悪化させただけのただの役立たずじゃないのか!? (P15)
それ以来、平安を守る式神が一人消え、人々に災いをもたらす疫病神が一人誕生した。人が神だと崇めればそれは神となり、糞だと言えば次の瞬間に糞となる。人の価値や存在を決めるのは他人であり自分ではない。 (P15)

真理だよねぇ。そしてとてもアジア的な“神様”の考え方。人々に信仰されてこそ“神”、その信仰が“功徳”という法力になる。
3年の間隆盛を誇っていた「仙楽太子」を祀る宮はすぐに顧みられなくなり、信徒は一人もいなくなり、地に堕とされた謝󠄃憐は辛酸をなめることになる。
――あんなににこにこへらへらして、いつものほほんとして見えるのに、あの穏やかさは過去の艱難辛苦のたまものなのね、殿下……。

ともあれ「888万功徳」を集めて弁償しなければいけなくなった太子殿下、そのために「仕事」を請け負います。与君山というところで発生している謎の花嫁失踪事件。100年近くの間に17人の花嫁が姿を消し、その犯人はいつしか「鬼花婿」という悪鬼だということになっていた。
真相を確かめるため、謝󠄃憐自ら花嫁に扮して輿に乗り、与君山に「花嫁道中」することに。輿は案の定「鄙奴(ひど)」と呼ばれるあやかしと狼に襲われ、供を逃がした謝󠄃憐は輿の中に一人取り残される。

そこへ!
現れる!!
紅衣の美青年!!!

といってもこの時謝󠄃憐は相手の顔をしかと見てはいなくて、差し出された手の繊細な美しさや足もとしか目にしてないんだけども。

真っすぐに伸びた細く長い脛が見え、歩くさまは非常に美しい。 (P77)
今のこの状況は、得も言われぬほど怪しく奇異で、魅惑的だった。少年が片方の手で謝󠄃憐の手を引き、もう片方の手で傘を差してゆっくり歩を進めていく様子は、なぜだか妖艶で風月無辺、心の奥に切々と訴えかけてくるような深い愛惜を感じさせる。 (P78)

アニメを見てから読んでるので、この情景描写が非常によくわかって、映像と文章の相乗効果でますますたまらなくなる。はぁぁ、ほんともうこのシーンがこの物語の“すべて”な気がするわ。

謝󠄃憐を無事に案内した「謎の少年」は美しい無数の銀色の蝶となってパッと姿を消す。
で、「銀色の蝶」と聞いた助手の若者2人は「えええええええ!?」と驚愕、「それは四大害の一人、等級“絶”の鬼王、花城ですよ!」と。

神官たちから怖れられ、忌み嫌われる鬼王花城、またの名を「血雨探花」。一体何だってそんな奴が謝󠄃憐を助けたのか。

与君山の事件が解決したあと、謝󠄃憐の前に「三郎(サンラン)」と名乗る謎の少年が現れ、行動をともにするようになる。謝󠄃憐も、そして助手たちも「こいつどう考えても怪しいだろ?花城なんだろ!?」と思うんだけど、髪の一本一本に至るまで三郎の肉体は完璧で、“鬼”である証拠が掴めない。

まぁ三郎=花城なんですけどね。

登場人物たちも読者及び視聴者もみんな「こいつ花城だよな」って思ってるのになかなかはっきりさせない、じらし方がこう、たまらないです。
花城の正体――なぜ彼が謝󠄃憐を助けるのか、その理由も、「そういうことだよね?」と匂わせるだけで、結局アニメ1期最終回でも言わない、原作1巻目終わっても言わない。

謝󠄃憐がまだ仙楽国の太子だった17歳の頃、上元の祭りで「悦神武者」を務めた。黄金の仮面をつけ、華麗な衣装に身を包んだ祭りの花形、若き太子のその美しさに観衆が熱狂しているさなか、城壁の上から子どもが一人転落した。
さっと身を翻した太子はその子を見事受け止め、事なきを得た。

アニメではその子は顔に包帯を巻いていて、与君山で出会った男の子にとても似ている。
原作ではその子の見た目の描写は何もないんだけど、でもその子が花城なんでしょ?と思うわけよ。美しい太子に助けられ、言葉をかけられた少年が、ただひたすら太子殿下に人生を捧げるようになる。
太子に対する人々の信仰が失われても、ただ一人彼を祀り、供物を供え、おそらくは彼と対等になるために――彼を助けられるだけの力をつけるために刻苦し、“鬼王”と呼ばれるまでになった。

と、勝手に思ってるんだけど、まだそこは明かされてない。明かされてないけど、半月国のエピソードで蠍尾蛇に噛まれた謝󠄃憐の毒血をサッと吸い出して処置するところとか、死霊たちを一瞬で葬って、その死体が累々だから抱きかかえた謝󠄃憐を降ろさない、「汚れる」と一言だけ言うシーンとか、「うぉ、うぉ、うぉ!」ってなる(表現力の限界)。

謝󠄃憐に対する三郎の愛の深さがそこここに散りばめられてて、ほんとにたまらんのよね。
「汚れる」とだけ言われて不思議な気持ちになる謝󠄃憐、「胸が微かに熱くなっているような」気がしたりして、うぷぷぷぷぷ。

この「大勢の死霊たちを一瞬で倒し、かつ謝󠄃憐を抱きかかえたまま余裕で戦える」シーンで、いよいよ謝󠄃憐も「三郎=花城」だと確信せざるをえないんだけど、でも口に出しては問わない。それどころか、

「あのね三郎、もしまたこんな坑を見かけても、次はくれぐれもむやみに飛びおりたりしないように。止めても聞かないし、どうすればいいのかわからないじゃないか」 (P268)

などと言っちゃう。三郎を“鬼王”と思っていてなお、「勝手に飛び降りたりしないで、心配だから」と言える謝󠄃憐、本当に人がいいというか、常識はずれというか。
三郎も当惑して、「もっと他に聞くことないの?例えば僕が人間かどうかとか」と自分から話を振ってくれるのに、「そんなの、別に聞く必要なんてないと思うけど」と答える謝󠄃憐。

「人とつき合う上で大事なのは、気が合うかどうか、相性がどうかだろう。別に身分で判断するわけじゃない。君のことが好きだったら、たとえ物乞いだとしても好きだよ。嫌いなら、たとえ皇帝だとしても嫌いだ。そういうふうであるべきじゃないのかな? 簡単な理屈だよ。だから聞く必要なんかない」 (P269)

人間ができすぎてるというか、そんな謝󠄃憐だからこそ、ますます三郎としても「あなたのために生きよう」って思っちゃうよねぇ。たまんないよねぇ。

半月国から帰ってきて、謝󠄃憐はさりげなく三郎に「花城」と呼びかける。三郎は否定せず、「“三郎”と呼ばれる方が好きだ」と答え、これまでずっと「兄さん」と呼んできた謝󠄃憐のことを「太子殿下」と呼ぶ。

だが、花城が「殿下」と呼ぶ時のその二文字は、この上なく大切にされているように思えた。 (P321)

ふふふふふ。
「ぼくがどうしてあなたに近づいたのか聞かないの?」と三郎に言われても、「君が言いたくないことなら聞いたって無駄だろう」と何も尋ねない謝󠄃憐。

いや、そこ、聞いてあげて! 思いの丈を話させてあげてよ!!!!! 太子殿下が聞いてくれないから!読者も!!なかなか花城の真の正体を知ることができないんだよっ!!!

昔語りの中で謝󠄃憐、かつて「もう生きていけない、何のために生きるのかわからない」と言ってきた相手に対して

「何のために生きればいいかわからないなら、私のために生きなさい。生きる意味がわからないなら、ひとまず私が君の生きる意味で、私が君の人生を支える柱だと思ってみて」 (P334)

と答えた話をして、「なんであんなことが言えたのかわからない、若かったんだ」と言うんだけど、それ!それ言った相手、目の前にいる!!!――んだよね? そうなんでしょ、作者さぁーん!!!

アニメのこのシーン、せつなくて涙出てきちゃったんだけど、ここまでほのめかして実は全然三郎と関係ない話だったらどうしよう。その言葉があったから、その言葉だけを心の支えに、長い長い、800年以上の年月を生きてきた三郎、と思っているんだけど。

「誓うよ。天上天下、僕より誠意のある奴はいない」 (P337)

翌朝、三郎は姿を消してしまっている。形見(?)の美しい指輪を一つ残して。

アニメ1期はここまで。
原作1巻はまだ続いて、謝󠄃憐が天帝・君吾(ジュンウー)に呼び出され、新たな任務を与えられて、鬼市で三郎=花城と再会するところまで描いている。
天界第一の武神君吾、めちゃめちゃ謝󠄃憐のことを買っているようで、彼のために新しい壮麗な仙楽宮を建ててくれたりもしてる。

花城の縄張りである鬼市での任務、場合によっては花城と敵対しなければならないかもしれない、諸々鑑みて「もし困るようなら辞退していい」とも言ってくれる。
君吾、いい人すぎない? 人じゃないけど、人格素晴らしすぎない??
普通なら「神官が鬼王と親しくしているなんて!」となりそうなところ、糾弾するどころか気遣ってくれる。さすが「天帝」とまで呼ばれるお方は出来が違う。

「本来なら君の交友関係について私が口出しすべきではないのだが、それでも一言言わせてもらう。花城には気をつけなさい」  (P359)

「気をつけろ」と言われて素直に「はい」と言えない謝󠄃憐の複雑な胸の裡。三郎が自分を傷つけることなんてないと思ってるもんね、「気をつける」必要なんてないと。ふふ。

そうして、鬼市でめでたく三郎=花城と再会する太子殿下。彼の主催する賭場で、彼に手づから壷の振り方を教えてもらう羽目に。もう、三郎ったら、読んでてにやにやしちゃうじゃない!

賭場を離れたあと、鬼市の中で「顔を覆ったガキはどこだ!」という騒ぎに遭遇したところで1巻はおしまい。
「顔を覆ったガキ」……そう、もう2巻目を読んでいる私はそれが「与君山で出会った少年」のことだと知っています。てか読む前から「顔を覆った」ということろでピンと来ていたわけですが。

あの少年、花城の分身なのではないかとも思っていたんだけど――人面疫に襲われ、包帯の下はひどい有り様でろくに口も利けない彼こそが、仙楽太子が祭の日に助けた子ども、「私のために生きなさい」と言葉をかけた子どもなのでは。

はぁぁ、気になる気になる。2巻目も早く読み進めないと!

読んでて「アニメはかなり忠実だったんだな、台詞も」と思ったんですが、よく考えたらこの日本語版1巻は2022年7月の刊行。アニメの方が先なので、むしろ登場人物の台詞、口調についてはアニメを踏襲した、ということなのかもしれません。
アニメの日本語訳は本多由枝さん、小説版の訳は鄭穎馨さん。

原著は全6巻のようなんだけど、果たして日本語版は全何巻になるのか。9月に出るはずだった3巻目が来年4月発売に延期になっているので、日本語で最後まで読めるのはかなり先のことになりそうです。
翻訳大変だろうけど、4巻5巻同時刊行!とかにならないかな…。

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