映画で描かれなかった部分は自分の妄想で補うのが楽しい、と思っていたので買わずにいたノベライズ、『核心』の著者高鳥都さんと、今回のノベライズの著者である近藤正岳プロデューサーとの対談を読んだら気になってしまって、今さら買いました。

うーん、「設定補完」としては面白かったけど、やっぱり「知らぬが花」というか、「全部説明しちゃったら野暮」だなぁ、と思う方が多かったですね。

冒頭、ニュージーランドでの「事件」がかなりしっかり描かれていて、そこで「男にとって娘というのはそんなに大事なものなのか?」って話が出てくるのはよくできてると思いました。
その事件で大金を得たからこそ、横浜帰ってきてあんないい事務所構えてBMWにも乗っていられる、ってわかったし。

あんなに薫に借金して、いつも「もう小銭しかない」みたいな生活をしてた二人がBMWのオープンカーだもんね。ニュージーランドでの探偵業、そんなに儲かったの?と思ってた。

「そんなに儲かった」ことがナカさんの「情報屋転職」にも絡んでいて、この辺の「設定補完」はなるほど~と思いました。

映画の冒頭で「ユージが警官殴るから」「タカが撃つから」って説明してたのよりだいぶ大がかりな事件だったなぁ。

1999年の事件のこともかなり詳しく書かれていて、タカさんが負傷したのは1999年のクリスマスの出来事。映画では「飛龍を庇って」って言ってた気がしたんだけど、ノベライズではがっつり夏子を守って撃たれています。
夏子とユージの話もしっかり。
なんか、ユージは優しすぎるなぁ、と感じました。優しすぎていつも損な役回りになってる気がする……。

『さらば』の夏海のことを気にするのもユージの方で。
「タカをこんなに早く横浜に帰してよかったのかな」とか考えてるユージほんと優しい。そんなユージの気持ちを知ってか知らずか、タカさんは夏子に「抱けばわかる」とか言ってるんですけども。

まぁ夏海絡みのタカさんの心情を事細かに書いちゃうとそれは本当に野暮だと思うので、ユージを介して言及するのがスマートですよね。

例の翡翠の指輪を売りに行くところで、映画では「5300円」だったと思ったけど、ノベライズでは「5800円」。
あと、薫の歌が「大都会」ではなく「喝采」になってました。断然「大都会」の方がいいなぁ。

1999年の事件のあと、深町課長の温情で二人は横浜を離れ、韓国へ潜入捜査に――と『まだまだ』冒頭に繋がる説明も。
そこが繋がるのはいいとして、“『まだまだ』ラストの二人は幽霊”っていうあのオチはどう覆すの???

海堂巧の経歴もだいぶ詳しく書かれていたけど、私が妄想したのとは違って、アメリカで何不自由なくエリート教育を受けて育ったようで……。米軍将校の養父のコネも最大限に使って今の会社ハイドニックを大きくしている。
じゃあ彼にとって「実の父親・前尾」ってどういう存在なんだろう。
「実の父を殺した刑事たち」なんて、ほんとのところ彼にとってはどうでもいい存在じゃないのかな。私の想像通り、父親の顔なんてまったく知らずに育って、銀星会とも無関係にアメリカで生活していたのに。
母親が前尾のことをどう語っていたか、が問題だけど、さすがにそこまでの記述はない。
映画にあった「俺は欲しいものは必ず手に入れる」とかって台詞はなくて、代わりに海堂は「我々は物語の中の住人にすぎない」と言ってて、「ああ、この人は現実感がないのか」とは思いました。もしかしたら母親に「物語」を吹きこまれすぎたのかもしれない。「おまえは銀星会会長の息子」という物語。アメリカで、日本のヤクザの話なんて「ファンタジー」だものねぇ。その父親を刑事が殺して、母は自分の才覚でアメリカに逃れ……っていう話を繰り返し聞かされたとしたら、それは「呪いの物語」のようなもの。
あるいは母親は別に「復讐しろ」なんて言わず、前尾のこともどうでもいいと思っていたかもしれないけど、「米軍将校の息子」だと思っていたら「ヤクザの息子」だった、しかも「刑事に殺されるようなチンケな男の息子」だったと知らされて、海堂巧にとってはそれが許しがたいことだったかもしれない。

自分はそんなチンピラではない。自分ならもっとうまくやる……。

単に、「そのような設定を与えられたのなら、俺は横浜を自分のものにすべきだろ?」ぐらいの感覚だったのかな。出自があまりにも「物語」で、「この世界は所詮……」みたいな感覚だったのか。

海堂のこと考えるの楽しいなぁ、ふはは。

最後、海堂との対決部分も映画とノベライズとではちょっと違っていて、ひとひねりあります。

映画の中でトオルが押収武器の棚を眺めて「うーん」となってるシーン、好きなんだけど、ノベライズには存在せず。レパードに積んで来た武器は『さらば』の時の、重要物保管倉庫の銃器ってことになってました。

トオルの心情部分の書き込み、ちょっと私は「違うなぁ」という気がしたんですが、レパード持って来たあとで先輩たちを見送るところはグッと来ました。
「鷹山と大下という「刑事」を見るのはこれで最後だろう」という感慨、私たちファン全員の感慨ですもんねぇ。

あの「DNA鑑定」の補足(?)もしっかりあります。ここはトオルの「そんなことをするのは野暮」に大賛成。うんうん、信じてたぞ、トオル。
でも瞳ちゃんが「どっちが父親トトカルチョ」に参加していたのはがっかり。瞳ちゃん、そんな子だったの……。

ファンそれぞれにタカさん大下さん、薫にトオル、瞳ちゃん、ナカさん、近藤課長……みんなの「思い出」と「イメージ」があり、スタッフさんにもそれぞれの思い入れやイメージがある。
映像ではなく文章だとどうしても「言葉で説明しなければいけない部分」が出てきて、それぞれの思い描くキャラクターとの「ズレ」が出ちゃうんだろうなぁ。

『さらば』の川澄や石黒の名前が出てきたり、「リターンズかよ」って台詞があったり、ファンには楽しい小ネタも色々。全体としては、買って損はなかったです。


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