(※以下ネタバレあります。これからご覧になる方はご注意ください。)


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公開4日目、11月10日に観てまいりました。例によって例のごとく観てからずいぶん日が経ってしまったので、記憶違い等はご容赦くださいませ。

映画1作目はTVでしか観ていないので、今作もどうしようかなと思っていたのですが、10月から始まったTV版『羅小黒戦記』がとても楽しく可愛く、合間に流れる映画のCMに洗脳されてしまいました。特に、本編中の「ムゲン様が黒板を使って小黒に文字を教える」映像を使って「1」「1」「7」「全国公開」ってやるCMが可愛くて。

(↓この公開中予告に出てくる黒板シーン)


いやー、映画すごく良かったです! 小黒は可愛いし、アクションシーンの描写はとんでもないし、ムゲン様は相変わらずチート。やわらかい色調と美しい風景描写、その中で活き活きと動くキャラクターたち。可愛い絵柄なのに描かれるテーマはとてもシリアス、お話の重さと、くすっと笑えるユーモアとのバランスも本当に見事でした。

親子で安心して観られる映画……と言いたいところですが、冒頭の映像はかなりショッキング。妖精の館が人間たちに襲撃され、次々と殺されていく。妖精同士がその能力でバトルするのとは違って、軍服にヘルメットという人間の「軍隊」にライフルのようなものでほぼ一方的に撃ち殺されていく光景、すごく胸が痛かった。「もうやめてぇぇぇ」ってなりました。

つらい映像の後は打って変わって楽しく可愛いムゲン様と小黒の日常。厳しい訓練だけでなく、文字を教わったり、一緒に映画を観に行ったり、ファストフードを食べたり。ムゲン様、能力で勝手に包丁に大根切らせられるのすごい羨ましい。色々同時進行で料理できるの便利よねぇ。

映画1作目の2年後という設定で、こんな日々を二人は2年間過ごしてきたんだなぁ、とほっこりする間もあらばこそ、ムゲン様に降りかかる妖精襲撃容疑。

そう、冒頭の、人間たちによる妖精館襲撃。あれを手引きしたのはムゲンではないか、と長老たちから疑いをかけられるのです。人間たちの使った銃弾には妖精の霊力を破れる特殊な加工がされていた。そしてその加工に必要なナントカいう金属(じゃないかもしれない、ちょっとよく覚えてない)が襲撃によって館から奪われた。人間だけの力でそんなことができるはずがない。妖精側の誰かが協力しなければ――。

というわけで「人間」であるムゲンに疑いがかかったんだけど、単に「疑い」ではなく、その場の映像にもムゲンの姿が映っていて、「潔白が証明されるまでとりあえず拘束」されることになる。動けないムゲンの代わりに真相究明に乗り出すのはムゲンの弟子、ルーイエと小黒。

「真犯人は誰か?」という謎解きのスリリングさ、そして初対面のルーイエと小黒が次第に心を通わせていく様子がとてもいいんですよねぇ。

またルーイエが格好いいんだ、これが。ビジュアルも良いし、悠木碧さんの声とお芝居がさすが。小黒が「ルーイエ、師匠に似てる。第一印象最悪な、いい人」って言うんですが、ムゲン同様口数が少なく、無愛想で、最初は小黒のこともよけいなお荷物と思ってるふしがある。「私が最後の弟子だったのでは?」とムゲンに言っていたりもして、ムゲンが自分よりも後にまた弟子を取って、とても可愛がっているふうなのをちょっと妬いていたのかも。

真犯人が残した霊力の痕跡。それを追う能力は「私が最強だ」と言ってのけるところもすごく格好いい。

豪華なホテルに泊まって目をキラキラさせる小黒ほんとに可愛いし、ご馳走食べさせてもらって「ルーイエ大好き!」と手のひらを返したようになる現金なところも楽しい。「真犯人を見つける」という緊張感と、この「クスッと笑える」部分のバランスが本当に巧い。

妖精の長老衆はおおむね「ムゲン冤罪説」なのですが、諏訪部順一さん吹き替えのチーネンだけはムゲンをまったく信用しておらず、手下の甲と乙を使ってルーイエたちの動向を探らせています。

長老たちが「人間と共存すべきかどうか」と話しあうシーンは本当に考えさせられます。これまでは妖精たちの方が能力が「上」だったけれど、科学技術の進歩で人間も妖精たちに立ち向かえるようになってきた。その結果が冒頭の襲撃であり、人間たちがいつまでも大人しく妖精の言うことを聞いているとは限らない。そうなる前に先にこちらから叩いておくべきだ――。

これ、「妖精」と「人間」の関係に限らない話ですよねぇ。異なる国、異なる種族や部族、あらゆる関係にあてはまってしまう話。弱者は強者に従うしかなく、強者の言う「共存」は弱者にとっては往々にして「隷属」でしかない。その関係をひっくり返すために弱者は「力」を求め、ひっくり返されないために強者は先手を打って抑えつけ……。

映画の冒頭、襲撃シーンに入る前にトンボがカマキリか何かに捕食されるカットがあって、あれ、弱肉強食の象徴だったのかな、って。美しい山野の風景、そこにトンボがいて、パクッと食われる、それも込みの「美しい自然」を描いてから、生々しい銃撃シーンが始まる。なんという演出

仲良く同じ街で暮らしていた妖精と人間の間にも襲撃事件が影を落とし、「人間が俺たちを攻撃してきたんじゃないか!」と一触即発の事態。「それはこの人間たちですか?違うでしょう?今あなた方がやっていることは、館を襲撃した人間たちと変わりませんよ」と長老・シームーズが冷静にたしなめてどうにかその場は収まります。

シームーズ、声が石田彰さんなんですけど、ビジュアルも性格もめっちゃ石田さんに合ってて(というか石田さんがそのように演じてらっしゃるんだろうけど)、見せ場は多くないながら、とてもいいキャラでした。好き。「襲撃したのはこの人間たちじゃないでしょう?」っていうのも、「あああ、それはそうなんですけどぉ」ってなるし。

個々の関係では恨みも何もないはずなのに、相手の「属性」だけで「敵」になってしまう。

小黒とルーイエの乗った飛行機が襲撃され、ものすごいアクション(本当にすごかった!)と小黒たちのがんばり(これも本当にすごい!)でどうにか乗客全員無事に不時着させるんですけど、ルーイエが「敵をおびき出すためにわざと飛行機に乗った」ことに気づいた小黒、ルーイエを責めるんです。「もしも人間たちが死んだらどうするつもりだったの!?それは悪いことだよ!」って。

あああああ、なんてまっすぐなんだ、小黒。

結果的には誰も死ななかったし、死なせないためにルーイエもめちゃめちゃ頑張ったわけで、「師匠を救うため、人間と妖精の戦争を起こさせないため、やむを得ない手段だった」わけです。「ためらっていたら何も救えない」「人間と妖精の戦争になったら私は妖精の側につく」。

真犯人の痕跡を追って一人去って行くルーイエ。「一緒には行けない」とその場に残る小黒。でもそこで、甲と乙がルーイエの“過去”を話して聞かせてくれる。ムゲンの弟子になる前、ルーイエには別の師匠がいた。でも人間の戦争に巻きこまれ、当時の師匠も、家族も友人も、みんな殺されてしまった。ルーイエが人間を守ろうと思えなくても仕方がない、と。

甲乙、ただのコミックリリーフみたいな役どころかと思ったら飛行機不時着させるためにめっちゃ頑張ったし、ここでこんな重要な話を聞かせてくれるし、いい仕事するわぁ。

そうして小黒はルーイエを追いかけるのですが、一方その頃ムゲン様は、ナタ様のお屋敷でゲームに興じています。可愛い見た目だけど実は齢3000年を超え、その実力は妖精界最強のナタ様。なので「私が目を光らせてりゃいいだろ?」とムゲンを軟禁する役を買って出てくれたのです。――ってゆーかナタ様、ムゲンとゲームしたかっただけでは???

ゲームでもチートなムゲン様、初めて遊ぶのにあっという間に上達して「覚えが早いな」とナタ様を唸らさせる。ルーイエ&小黒ルートのシリアスさとの落差がすごい。和むw

あまりにのんびりしてるので、もしかして今回ムゲン様の出番(戦闘シーン)なし?と思ったけど、まぁそんなはずないですよね。ルーイエとは別ルートで、盗まれたナントカの行方を突きとめた妖精たち、ナントカが保管されている人間たちの軍事基地に攻め込もう、「戦争が避けられないならそれは今だ!」と盛り上がっている。

そこへ割って入るムゲン様。「その役目は私に」

人間であるムゲンに、人間を攻めることができるのか。力ずくでもムゲンを止めるvs力ずくでも私が行く――ナタ様まで加わって妖精界大乱戦。

最終的にムゲン様が軍事基地に赴くことになるんですが、これが本当にチートで。基地がいくら攻撃してきても全然なんともないし、人間たち、なんか衛星兵器まで使っちゃうんですけど、そんなのものともしない。あっさり基地内に侵入され、降伏するしかない人間たち。もちろんムゲン様は人間に対してひとつも攻撃なんかせず、ただ銃弾その他全部受け流して敵の本丸に入っていっちゃうのです。

悠然と空から降りてきたムゲン様に向かって、基地の司令官らしき人が「これが妖精界最強の、ナタ――!」って言うのがまた。ムゲン様、ナタ様のTシャツ着てたんだよー。胸にナタって書いてあったんだよー。またナタ様の伝説が増えちゃったwww

それにしても、「妖精」のこんなとんでもない能力を見せつけられたら、人間側、「なんとしても妖精をやっつけられる力を」って思っちゃうの無理ないよねぇ。どんな防衛システムを敷いても無意味な圧倒的な戦力差。どれほど妖精側が友好的だったとしても、「いつでも人間を根絶やしにできるのでは?」という潜在的な恐怖感が拭えないよね。

妖精側は妖精側で、「人間」のムゲンがこれほどの力を獲得できるの、やっぱり“恐怖”なんじゃないかな。もしも人間たちの間に複数の「ムゲン」が出現して、妖精側に対抗してきたら。チーネンがムゲンにいちいちつっかるのも、そういう“落ち着かなさ”が根底にあるんじゃ。

「共存」って難しいよね……。

人間側の基地の方はナタ様ことムゲン様が片を付けてくれて、妖精側の裏切り者の方はルーイエが突きとめるのですが、4対1ぐらいの戦いになってしまって圧倒的にルーイエが不利。ルーイエ大ピンチ。早く!早く来て、小黒!!!

キタ━(゚∀゚)━!!!

小黒まじヒーロー。超カッコいい。ルーイエのアクションも、小黒のアクションも本当にすごくて、何がどうなってるのか目が追いつかない。いつもは封印されてる空間系能力も全解放、本気の小黒が強い!

……事件は一応の解決を見て、ムゲン様と小黒は村(?)に帰っていく。その前にルーイエと3人で街を歩いて、アイスクリームをねだる小黒の姿に、幼い自分を重ねるルーイエ。ムゲンと出逢った日のこと、その後のムゲンとの修行の日々。死んでしまったかつての師匠との日々のことも思い起こされ――。うあああああ、頑張ったね、ルーイエ、ムゲン様に出逢えて良かったね、ルーイエ、ああああああ(滂沱)。

ルーイエの弟子である“隊長”というキャラクターがいて、人間の基地探索に活躍してたんだけど(声は小林親弘さん!)、その“隊長”がルーイエと初めて会った場面も回想されるんです。「あれ、この子どもはもしかして…!」

ムゲンのもとを離れ、独立して、自分も“師匠”と呼ばれる立場になったルーイエ。でも彼女の中には、小黒に自分を重ねる幼い少女もちゃんといて。あああああああ、思い出しただけで泣けてくるわ。

エンドクレジットにはTVシリーズのアゲン兄ちゃんたちも出てきて、甲乙の次に「丙」と名付けられそうになってるシーンとか、最後まで可愛すぎる、良すぎる。

映画館まで足を運んで、ほんとに良かったです。