「痛快世界の冒険文学」シリーズ中の一巻。
前回、『真田十勇士』の時に、図書館では
「翻案した作家のところではなく、原作者
のところに並んでいるので、超探しにくい」
と書いた。
『真田…』は日本の作品のせいか、翻案
した後藤さんの棚にあったので、『笛吹』
も橋本さんのところにあると思っていたら。

なかった。

原作者が北村寿夫さんなので、
「カ行の作家」のところにあったのである。
わからへん、っちゅうねん。

だって表紙には橋本さんの名前がでっかく
書かれてて、北村さんの名前は数段ちっちゃ
いんだよ。どうかと思うなぁ。
『真田…』だけはもとが講談で、はっきりと
した原作者がわからないから、後藤さんの棚
に入っていたらしい。

まぁ、あんまり「橋本治さんの本!」と
言って探す子どももいないとは思うが、
北村さんだってラジオドラマの脚本家で、
他に児童書の著作があるわけじゃないん
だしね。
やっぱ「世界の冒険文学」シリーズを
かためてどーんと置いとくのが一番いいと
思う。

そーいえばこの間梅田の紀伊国屋に行ったら
絵本が出版社別に並んでて、「それはない
やろ〜」と思った。
そんなんわからへんって!
「こどものとも」が福音館ってぐらいしか
覚えてへんで。

ま、それはともかく『笛吹童子』。
面白かった。
ヒャラリヒャラリコ♪という歌は知ってる
けど、テレビや映画は見たことがなく、
もちろんもともとのラジオ放送なんか
まったく知らない。
だって1953年だもんね。昭和28年
「新諸国物語」と銘打たれた7作のうち
の2作目。3作目の『紅孔雀』も有名
なので、名前だけは聞いたことがある、
という人もいるでしょう。

タイトルが笛吹童子で、その役を若き日
の萬屋錦之介がやったぐらいだから、
さぞかし活躍するんだろうと思っていたら、
意外と彼(本名:菊丸)の出番は少なかった。
少なかったけど、「剣を持って戦わない
ヒーロー」
、優しい笛の音と、正義の面
を打つことで悪を滅ぼす菊丸は、主役を
張るに値する素敵な少年だった。

ちょっとネタバレになってしまうけど、
悪の象徴である呪われた「されこうべ
の面」を倒すために菊丸は正義の面、
「白鳥の面」を作る。
どうすれば悪に勝つ強い面を作れるのかと
悩んだ菊丸は、最後にこう悟るのだ。
「すさんでしまった人の心をさらに
責めて、いじめたら、その人はもっと
もっと悲しくおそろしいものになって
しまう。たおそうと思うのではなく、
ゆるすことこそが必要なんだ」
と。

聞いてるか、ブッシュ。

解説で橋本さんが力説しているように、
「正義の力が悪を倒す、でもその戦いは
暴力の戦いではない」のだ。

あ〜、最後のところはほんと、じんと来た。
もちろん途中も面白かったし、古来より
延々と続く「白鳥の玉」と「されこうべ
の玉」の争い、という物語設定も素敵だ。
善の心を助ける「白鳥の玉」と、悪の力を
助長する「されこうべの玉」。
時代を変え国を変え、7作にもわたって
語られる壮大なファンタジー。

すごい。

「指輪物語」に負けないスペクタクル
ロマンだと思うが、北村さんご本人が
書かれた原作本は現在入手不能。
県立図書館などで探すしかないのは
実にもったいない話だと思う。
読みたいぞ、「白鳥の騎士」。

ちなみに息子にも勧めてみたが、
岡田さんの流麗なイラストが子どもには
おどろおどろしく見えるらしく(実際
されこうべの面は非常に怖い)、
ぱらぱらっとめくったものの未だ読んで
くれていない。
もうちょっと大きくなってからかな。