そんなわけで、見てまいりました。
美輪さんの舞台『黒蜥蜴』。
でも写真は映画版『黒蜥蜴』です。
今の方のポスターは、検索すればどこかで見られるのじゃないかと思うんですが、「絶頂の美」を封じ込めた映画版『黒蜥蜴』の写真というのは、なかなか見られないと思うので、昨年滋賀会館で公開された時のチラシをスキャンしてみました。

麗しいでしょ〜。
もうこれだけでやられるでしょ〜(笑)。
ああ、眼福眼福(爆)。

さて。
2008年の、舞台版『黒蜥蜴』です。4月に東京から始まって、大阪は1週間ほどの公演。昨日は大阪での「千秋楽」でした。まだ広島と福岡が残っています。

梅田芸術劇場に着いてまず驚いたのが。
その公演時間。
14:30開演だったので、私は「休憩30分、公演2時間として17時くらいには終わるかな」と思っていたのですが。
劇場内に貼ってある時間割には、「3幕で、間の休憩が15分ずつ。終演予定時刻は18:25」と書いてある。

え〜〜〜っ、そんな長いの?

そういえば、映画も意外と長かったような……。
でも宝塚版の『黒蜥蜴』なんて1時間35分しかなかったよ。
終演18時半ってことは、休憩の30分を抜いてお話自体が3時間半もあるってことですよね。

この大阪公演、18:30開演の日もあったんですけど……それじゃあ私は滋賀県に帰れません(笑)。

そしてもう一つ驚いたのが注意書き。
「公演中はケータイの電源をお切り下さい」というのは、まぁどこでも見かけることですが。
さらに続きがある。
「くしゃみや咳をなさる場合はハンカチ等を口にあてて、他のお客さまの迷惑にならないようにしてください」
……そ、そこまで。
なぜかというと、「このお芝居は、台詞が大変に重要だから」なのです。
くしゃみや咳で台詞が聞こえないと「台無し」になっちゃうからだそうです。

『黒蜥蜴』は、原作が言わずと知れた江戸川乱歩で、脚本が三島由紀夫。
幕が開けば、「くしゃみや咳」への注意も納得がいきます。
本当に、台詞劇なのよね。
いや、まぁ、お芝居なんだから、「地の文」はなくて「台詞」だけで全部進んでいくのは当たり前なわけだけど、ミュージカルなら歌やダンスを楽しみ、普通の演劇なら役者の生の動きや表情も重要な要素でしょう。

もちろんこの『黒蜥蜴』も、美輪さんの美しさ、衣装や装置の絢爛さ、見所は色々あるんだけど、台詞が三島由紀夫の言葉なんだもの。
美しい日本語の応酬を楽しむお芝居でもあるのね。
まったく視覚的要素がなくて、ラジオドラマでもその「言葉」だけで酔えるのではないかという……。

公演時間が長いのも、じっくりと台詞の応酬をやってるからだなぁ、と思った。
今どきのスピーディーな展開に慣れた人には、少々たるく感じられるかもしれない。3時間半座ってると、お尻も痛くなるし。
でも1幕1幕は1時間ずつぐらいだし、ものすごく緊張感のあるお芝居なので、お尻は痛いしお腹も空いてきたけど(笑)、私は「長いな〜」というふうには感じませんでした。

私は2階席4列目の中央に座っていて、当然役者の顔なんかはっきり見えません。でもだからこそ、73歳の美輪さんが「30歳の黒蜥蜴」を演じて変じゃない。
双眼鏡で見れば、そりゃやっぱり上の映画のポスターのようにはいきません。いかないけれど、でもね。

やっぱり、綺麗なのよ。

そのたたずまいが、なんとも美しいの。
一緒に行ったうちの母が、「なんで70でこんな色っぽいの?」って言ってたけど、ホントにね。
表情なんかろくに見えないんだよ。
でも美しいの。
色っぽいの。
「美しい」とか「色気」っていうのは、「顔」じゃないんだよねぇ。
全身からあふれ出る情感というのかしら。

もちろん、あの声と台詞まわしがなんとも素晴らしいし。
70歳超えてあれだけの長大な台詞をしゃべって、3時間半もの舞台を務めるって、体力的に相当きついと思う。
明智役の高島政宏さんとかに比べたら、やっぱり少し声量が足りないかな、という部分もあって、だからこそ「咳やくしゃみ」に厳重注意が求められるんだろうと思ったけど、その声の使い方はやっぱり素晴らしい。

パンフレット(1500円もした……)の対談の中で美輪さんが、「音域も、私の場合は二オクターブ半ぐらい出るわけですけど、その中から台詞に応じて必要なものを出して、オペラやオペレッタみたいに歌ったりする」とおっしゃってるんだけど、まさにそうなのね。
すごく色々な声色があって、言葉の表情がものすごく豊かなの。
舞台って、遠い席からはホントに表情なんか見えないから、「声の表情」がすごく重要になる。

明智役の高島さんや雨宮役の木村さんなんかも、かなり色々なトーンを使い分けてましたね。
映画の木村功の明智小五郎はなんか、地味ぃで目立たない感じだったんだけど(笑)、高島さんの明智はコミカルなところもあって、快活で爽やかかと思うと凄みを効かせたり、非常に「くっきりと」した感じでした。

明智小五郎って、実はどーゆー人なのかよくわからない。頭が良くて、大胆不敵で、「日本一の名探偵」なんだけど、どーゆー性格なのかは今一つよくわからない。
でもあの黒蜥蜴が「初めて恋に落ちる」相手で、美輪さんの黒蜥蜴と丁々発止やり合わなきゃならないんだから、そりゃ相当に「くっきり」してないと「お話にならない」でしょう。

大変な役だよな、と思うと同時に、ちゃんと負けてない高島さんはすごいな、と思いました。

長くなるので、明日に続きます。



【※黒蜥蜴関連の他の記事はこちらから→『黒蜥蜴』あれこれ