『狼少年のパラドクス』という本題だけではどーゆー内容なのかさっぱりわかりませんが、「ウチダ式教育再生論」という副題が示すとおり、内田先生がblogに書いた教育関係の記事をまとめた本です。

blog記事がそのまんま本になっちゃうなんて、羨ましいというかなんというか。

いいなぁ(笑)。

系統別に章分けされているけど、blog記事の寄せ集めなので(失礼な言い方ですいません)、まとまった「教育再生論」が書いてあるわけではありません。

むしろ、内田先生が日々実感なさっている大学の事務的諸問題の方が多いような。

それはそれで、「今、大学の入試ってこんなふうになってるんだ」「大学の自己評価制度ってこんななんだ」と、「大学の内実」が見えて面白いんだけど。

でももう自分は大学をとっくの昔に卒業しちゃったし、うちの息子が大学入試に向かうのはまだもうちょっと先だし、今目の前にある小学校や中学校の「授業が成り立たない」という問題についても、もっとつっこんだ話をしてほしいなぁ、とつい思ってしまう。

まぁ、即効性のある処方箋はないんだろうけど。

巻頭に置かれた、『「国民総六歳児」への道』という記事に、「なんでみんな学ばなくなったのか?」という答えは出ていて、それは「学習指導要領をいじる」とか「少人数学級を実現する」とかいう小手先のことではとうていひっくり返せない、ということもわかってしまう。

子どもが「学ばなくなった」のは、

「オレ的に面白いか、面白くないか」と「金になるかならないか」という二つの基準がいまの日本人たちの行動を決定するドミナントなモチベーションになっている。(P14)

から。

「子どもが」というより、大人の「生き方」がそうだから、子どももそれを手本として、「オレ的に面白くないから勉強しない」「得にならないことはしない」という「生き方」を小さい頃からする。

自分が勉強してレベルを上げるより、他人のレベルを下げる方が「簡単でリターンが大きい」から、「一生懸命授業妨害をする」ということが子ども達にとっては「努力」になる。

えーっっっっっ!!!!!

と思ってしまうんだけどね。あの、授業中立ち歩き、教師に罵声を浴びせる子ども達は、本当に「そんなこと」を考えてあーゆー行動をしているのか?

「面白くないことはしなくてもいい」「得にならないことはしなくてもいい」という「価値観」が蔓延しているのは確かだと思うけど、「授業を妨害することが自分の偏差値を上げることにつながる」とまでは……うーん。ホントに? 小学校低学年の子も、そんなこと考えて立ち歩いてるの???

たぶんいまの学校教育でいちばん言及されないことの一つが、「学ぶことそれ自体がもたらす快楽」だということである。(P43)

これはその通りだろうと思う。

何のために勉強するの?と聞かれたら、「いい高校に行って、いい大学に入って、いい会社に就職するため」ってつい言っちゃうもん。

これがつまり、「金になるかならないか」という価値観なんだよね。

何か金銭的に、数量的に明示できるような「得」がないと、行動できないという。

知らないことを知ったり、わからなかったことがわかるようになるのは、それだけで楽しいことで、「そうか、わかった!」っていうあの瞬間の快楽というのは十分「お得」だと思うんだけど、そういう快楽の数をいくら増やしても、残念ながら「お金」には直接結びつかない。

しかもその手の快楽は、「努力」と「結果」が正比例しない。

「より少ない投資でより多いリターン」を目指す価値観からすれば、「どれだけ努力すればどれだけの結果が出るか」がさっぱりわからないことに努力するのは、すごく無駄なことなんだ。

さっぱり結果の出ない「小説書き」を、「いいもん、楽しいから」で続けている私は、見事に「穀潰し」だったりはしますからね(涙)。

子どもに「学ぶ」という動機付けをするためには、社会全体を覆うこの「損得勘定だけ」な価値観をひっくり返さなきゃいけない。

どうやったらできるんだろ……。

あと、日本の教育は成功しすぎて、「均質化」と「他者志向」をもたらした、というお話。「みんながやるからやる」「みんなが欲しいものは自分も欲しい」「みんながやらないことは自分もやらない=みんなが勉強しないから自分も勉強しない」

これの処方箋は、

親や教育者自身が、「みんなと同じであること」にはたいした意味がない、ということを身を以て示すしかない。(P38)

あ、うちはこれ大丈夫。私が身を以て示してる(笑)。


最後の方に、内田先生の日比谷高校時代の話が出てきます。

日比谷高校というのは、当時「二人に一人は東大に入る」学校だったそうで。

ひょお~~~~~、やっぱり頭のデキが違うのねぇ~~~~~~。

今の「学力低下」した、「大学全入時代」ではない、高校出たら働くのが当たり前、大学に行くのはよっぽどの奴、だったであろう時代(たぶん)の話なんだから、「二人に一人は東大に入る高校に入る」ってだけで、もうすごい。

内田先生は結局日比谷高校を中退なさっているが、しかしやっぱり東大には入っていらっしゃる。

ある意味、普通に日比谷高校を卒業して東大に入るよりすごいよね。

橋本治さんも東大卒でいらっしゃるし……やっぱり皆さん頭のデキが若い頃から違う……。

日比谷高校の話は、ホントに「ひょえ~」と思います。

自分の高校生時代のことを振り返ると……あまりの違いにくらくらします。もちろん、大学時代のことも、振り返りたくありません(笑)。

今でも「エリート校」の高校生達ってこんななのかなぁ。

今のエリート高校生も政治のこととか哲学のこととか議論したりするのかしら。


それにしても。

「国民総六歳児化」。なんと怖い言葉でしょう。

子どもの「学力低下」っていうのは表層の問題でしかなくって、大人達の「生き方」が問われているのよね。