※ネタバレあります!これからご覧になる方はご注意ください!!!

2月11日、中日劇場まで行ってきました。

キリヤン(霧矢大夢)のトップお披露目となる公演、『紫子』。

1987年の星組による初演、残念ながら私は生で観ていないのですが、阪急友の会のご招待で母が観に行き、「すごく良かった!」と言って帰ってきた作品なのですよね。

もともと母は寿美花代さんのおっかけだったのだけど、結婚後は宝塚とは無縁(『ベルばら』だけは一緒に観に行ったけど)になっていた。それがこの作品を観て、宝塚熱に再度火が点き、娘ともども足繁く宝塚に通うことになったのです。

私もテレビでは観ています、峰さを理さん主演、ネッシーさん(日向薫)、シメさん(紫苑ゆう)が脇を固めた星組版。

原作は木原敏江さんの『とりかえばや異聞』


読んだことがあるようなないような(笑)。『大江山花伝』や『花伝ツァ』『摩利と真吾』は読んでたし、『夢の碑(とりかえばや異聞)』も読んだような気がするんだけど……どうだったかな。

中学生だもんね、木原敏江さん読んでたの。

23年ぶりの再演、良かったです。

「やっぱりいい話だなー。よくできてる」と思った。

キリヤンうまいし、すごく「合ってる」と思った。兄と妹の一人二役、しかも日本物、コミカルな技量も、シリアスに演じる技量も両方必要とされる作品。トップ披露にこの作品を持ってきたのはドンぴしゃだと思う。

大劇場じゃないのがすごくもったいない。

どうしてもセットが小ぶりというか、ちゃちになるし、銀橋もないし、音楽も録音だしね。

最後の「落城」のシーン、初演の時は「焼け落ちていく」セットの迫力がすごかったのに……と母。

プログラムに演出の大野先生が「上演上の諸条件、とりわけ、バブル期とデフレ期の経済的落差には何とも言い難いものがあります」と書いてらっしゃるので、もしかしたら大劇場でやっていてもセットにはお金がかけられなかったかもしれないんだけど。

世知辛い世の中だ(笑)。

さて。

お話は、戦国時代。安芸の小国佐伯家の領主碧生(みどりお)が病に倒れ、生き別れていた双子の妹紫子(ゆかりこ)が替え玉を務めることになる。

この紫子、跡取りのいない武家で「男の子として育てられた」、いわば「戦国のオスカル様」。凛々しく明るく、さっぱりと竹を割ったような性格で、養父に死なれ、遊女屋でバイト(?)をすることになっても、「本当はどーゆー仕事なのか」今いちピンと来ずに、あっけらかんとしている。

そこへ来た初めての客、風吹。以前に街角ですれ違っていた彼と彼女は、一瞬にして惹かれあい、「恋人同士」になるのだけど、紫子は急遽佐伯家に呼び戻されることになり、実は「忍び」の風吹も仕事で佐伯家に潜り込むことになる。

兄・碧生の病が癒えるまで、「領主」として国を支える紫子。

紫子ってすごいよね。いきなり「おまえの本当の親は誰それだ」って言われるだけでもショックなのに、「領主の身代わりをやってくれ」って言われて、「はい、そうですか」って言えないよ、普通。いくら「男の子として、武家の跡取りとして育てられた」って言っても、女の身で、突如「一国の主」として振る舞わなきゃいけないんだよ。

立派に勤めあげる紫子、偉すぎる。

そして、一旦は病が癒えかけた碧生の急死。…この死がちょっと、理解できないくらいの急死なんだけど、まぁ物語的に死んでもらわないと困るし…(笑)。誰か毒殺したのかなぁ。風吹もそもそもは「碧生を殺せ」と言われて佐伯家に潜り込んでるし、家老の一人が毛利と通じた悪者なので…。でないとあの急死はいくらなんでも。

碧生の死は、毛利の姫がお輿入れする直前で、しょうがない、紫子は「碧生」の振りをし通して婚礼を挙げる。でも「夜のお勤め」はさすがに無理だから、風吹に代役を頼む。

「どこの世界に恋人を別の女にあてがう女がいるんだ?」と言いつつ、苦境に立たされた紫子を救うためと代役を引き受ける風吹。

……一応お姫様にも侍女にも眠り薬を仕込んであったんだから、「お勤め」しなくてもよかったんじゃないの、って気もしなくはないんだけど……律儀な人達ってゆーか……結局はバレるだろ、ってゆーか……。

国を守るためとはいえ、愛しい風吹が別の女を抱いていることが耐えられない紫子。この「嫉妬」のシーンの演出、見応えあります。「女としての紫子」の見せ場だもんね。

その後、織田に攻められ、なんとか退けたものの、今度は毛利に攻められ、家老はいよいよ佐伯を裏切り、「領主は女だ!」と家臣達にばらす。

悪びれず、正直に「佐伯を守りたい。兄の遺志を守りたい」という紫子に、家臣達は逆に結束を高めるものの、結局佐伯は負ける。

家臣達には「生きろ」と言っても、領主たる紫子は「城を枕に討ち死に」の覚悟。

まず、毛利と通じてた方じゃない、いい方の家老夫婦が「いい一生でした」と言って炎の海に身を投げる。

紫子のそばにずっと仕えていた定嗣も「あなたの風吹への想いは知っているけれど、それでもあなたをお慕いしています。お供させてください」と言うんだけど、最後の最後に風吹が現れてしまうので、しょうがない、「紫子様をしっかり守ってくれ!」と言い捨て、一人炎の中に消えていく。

いい奴だなぁ、定嗣。

婚礼の夜以来、風吹は紫子の前に姿を現していなくて、「薄情者!」って紫子が罵るんだけど、「織田・毛利との闘いの間、風吹はずっと紫子様を影でお守りしてきたのです」と恋敵に塩を送る定嗣。

ほんと、いい奴だなぁ。

やっと二人きりになれた紫子と風吹は互いの首を斬り合って、炎の中、城と一緒に死んでいく。

ええ話や……。

「死」を美化するのはよくないと思うんだけど、でもやっぱり感動してしまう。それぞれに精一杯力を尽くして、家老夫婦は「いい人生だった」と言って死んでいくし、定嗣は恋しい人の最後の幸せをお膳立てして死んでいく。

「短い人生だったが、面白かった」という紫子。「私の終わりに、風吹がいてくれてよかった」

紫子と風吹は、遊女屋での出逢いの後、「恋人」らしい逢瀬など持てずに過ごす。それでも紫子は風吹を慕い、「おまえを信じているから」と言い、風吹は風吹で、「碧生として国を背負う」紫子の身の安全を影ながら守り続ける。

いちゃいちゃするだけが愛じゃないのよねー。

哀しくも美しいおとぎ話。

好きだなー。

毛利から輿入れした舞鶴姫が城を去る時、「ここを出れば、私はまたどこかへ嫁がされるのだ」と言う。

夫が「女」であることに気づきながら、その秘密を自分の胸に納め続けた舞鶴姫。

佐伯の嫁となるために、父の手で恋人を殺された彼女と、兄の身代わりとして戦い続けなければならなかった紫子。戦国の世に「武将の姫」として生まれた哀しみ。

二度と会うことはない、と言って去っていく舞鶴姫。

ここも泣けたなー。

短いけれども愛しい男とめぐりあい、最後の時を過ごすことができた紫子。生きながらえても、自分の意志で“愛しい男”を選び取ることなどできぬ舞鶴姫。

どちらが幸せなのか……。

舞鶴姫はキリヤンと同時に娘役トップになった蒼乃夕妃ちゃん。ルックスもキュートで、なかなか滑舌もよく、ショーではダンスが見事で、これからの活躍が非常に期待できる♪

すごく「おいしい役」風吹を演じたのは青樹泉さん。顔が好みじゃないんだけど、芝居は悪くなかった。

定嗣役は明日海りおさん。顔が好み(笑)。

実は月組公演を見るのはものすごく久しぶりで、正直知ってる人がキリヤンと専科の邦なつきさん(ああ、ミス・ハヴィシャム!)しかいない!!!

ウタコさん(剣幸)、カナメさん(涼風真世)、ゆりちゃん(天海祐希)、ノンちゃん(久世星佳)、マミちゃん(真琴つばさ)までは大好きで全部見てたのに。リカちゃん(紫吹淳)もけっこう見た。

そして、そこで終わりだった。

リカちゃん辞めたのっていつ? もう5~6年経つよね。

本当に、組子に知っている人がいない。

「もしかしたらもうトップになれないのではないか」と思っていたキリヤンが、1994年入団で、彼女より上級生は越野さんしかいなくって(そういえば彼女の名前は聞き覚えが)、ってことは越野さんが組長さんなのかな?

風吹役の青樹さん、すごく若く思えたんだけど、彼女も1999年入団で、上から8人目。ひえー。

ショーの時に、キリヤンと他のメンバーの実力差がすごくて、バウ組と分かれて人数が減ってるせいもあるけど、一人でキリヤンががんばってるふうに見えたんだよね。

中堅どころがいなくて、みんな若すぎる。

もちろん「うまさ」と「年数」は必ずしも比例しないんだけど、でもみんな歌が弱いし、何より「色気」がない。

キリヤンがうまいから、よけいにね……。トウコちゃんがトップだった時も、組子との差が激しかったけど……。二人とも、一番の成績で音楽学校卒業して、でもトップになるまでに時間がかかって……。

うーん、でも宙組のユウヒくんは1992年入団なのか!キリヤンよりまだ上級生。

どこの組も中堅どころが少ない、と思ったけど、2000年入団ならもう今年研10。立派に中堅だな……。

いやー、なんか。

私がおばさんになっただけなのかなー。なんか、みんなホントに色気がなくて、下手くそに思えるんだけど……。

よく知ってた専科さんもどんどんお辞めになっていかれるし、「大丈夫なのかなぁ」ってつい思っちゃうんだけど、よけいな心配なのかしら。ただ単に「昔はよかった」と思っているだけなのかな。

昔だって、宝塚と劇団四季を比べたら、技術的には四季の方がよほどうまかったろう。でも宝塚には技術を補って余りある「華」だとか「魅惑」だとか、「色気」があったのよねぇ。

少なくとも、歌うまい人が少なくなったのは事実じゃないかな。ただ楽譜通り歌ってもしかたないからね、宝塚は。

「色気」よ。「色気」!!!


宝塚大劇場でのお披露目はなんと「スカーレット・ピンパーネル」をやるということで。

トウコちゃんが素晴らしかったあの作品。もう再演か。

もちろんキリヤンなら不安はないし、ヒロインの蒼乃さんもなかなか素敵な娘役さんで、期待できる。

困ったな、観に行かなきゃいけないじゃん。


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