待望のカーラ教授の神官!いや、新刊!!!

もう本当に待って待って待ち焦がれてたよ~、わおーん!

前作『レナード現象には秘密がある』が刊行されたのは2006年の夏。



単行本『レナード現象』の最後には掲載誌『MELODY』の広告があって、「8月28日発売の10月号より川原泉が毎号連続読みきりで登場!第1弾は『その理屈には無理がある』」だと告知されている。

5年ぶりの新刊であるこの『コメットさんにも華がある』には前作同様4つのお話が収録。奥付を見ると

『その理屈には無理がある』→2006年メロディ10月号掲載(5年前の告知通り)

『その科白には嘘がある』→2006年メロディ12月号~2007年メロディ2月号(「毎号読みきりで!」という告知がさっさと反故になっている)

『グレシャムには罠がある』→2007年メロディ2月号~10月号(2月号には2作も載ったのか?)

『コメットさんにも華がある』→2007年メロディ12月号~2008年メロディ4月号、2011年メロディ4月号別冊ふろく(え、ふろく?)

2008年で止まっていたのが、やっと2011年に「ふろく」という形で完結したみたいですが……カーラ教授って具合悪かったんですか…? 怪我なさったんでしたっけ?

2009年6月の「ジャンプスクエア突撃インタビュー」に「去年ちょっとしたアクシデントで左ヒザと左肩を痛めて手術までしましたが、その後の辛く苦しいリハビリで経過は良好。」とありますね。それで3年近くマンガが描けなくなっておられたのかしら……。

ここに収められた作品はどれもそんなに長いものではないので、2号はともかく3号に渡る掲載ってどうなってるんだろう、しかも「ふろく」で完結って…?と思ったりしますが。

しかぁし!

カーラ教授の作品はやはり面白いのだった。

こうしてめでたく単行本になったことを言祝がずにはいられない。ああ、ありがたやありがたや。

さて。

『~がある』シリーズはすべて「県下でも指折りの、全国でも有数の超・進学校彰英高校」が舞台。どれくらい進学校かっていうと偏差値85超らしいんだけど、えーっとそれってもしかして灘高より上?

今「偏差値ランキング」っていうの見たら灘高が79で開成や東大寺学園が77と出ています……ってことは彰英高校は日本一ぶっちぎりで偏差値の高い高校、高校生クイズでは常に優勝していて間違いない!というわけですね。

そんなとんでもない高校に亘理(わたり)さんのようなへらへらウサギがいたり、きゅるる~んな「魔性の少年」花村くんがいたりするって、ちょっと信じがたいですが。

偏差値85以上で美形で運動神経も良くてしかも大病院の一人息子とか、偏差値85以上で高校生作家として活躍しているとか、偏差値85以上で有望な若手俳優とか、偏差値85以上で大企業の後継者候補とか、「無茶な設定にもほどがある」な男の子達続出(笑)。

『レナード現象』の感想にも書いたことですが、「今どきの普通の高校」を舞台にしたらもうとても「カーラ教授の世界」というのは成り立たないので、「あり得ないエリート達の集う高校」をファンタジーとして設定しているのだろうと。

今の普通の高校の女の子や男の子がどんな感じなのか私にはさっぱりわからないけど、「わからなくてもいいよ。だってここは“今どきの普通の高校”とはまったく違う異世界=あり得ないくらい偏差値の高い高校だからね」ってことになっているんだと思う。

まぁ「真の天才」はみんなガリ勉じゃないだろうから、成績がいいとはとても思えないへらへらした人とか、遊び人の人とか、いて不思議はないんだろーなー。

相変わらず前置きの長い感想で申し訳ありません。本題です。

まず『その理屈には無理がある』

前作『真面目な人には裏がある』で「魔性の少年」として出てきた1年生の花村くん再び。

と言っても花村くんが主役ではなく、花村くんと身長体重が同じで、ひょんなことから花村くんの制服を借りることになった水樹さんが生徒会長の不破さんに花村くんと間違われ、そのまま花村くんのフリして仲良くなって……というお話。

いくら花村くんが「おホモだち」な上級生に取り合いされるほどの「きゅるる~ん」な魔少年と聞いていたからって、不破さんも男か女かぐらい見抜けよー、と思ったりしますが。

でも品行方正・カタブツぽいけどゲームオタク、ニセ花村くん(=水樹さん)を下僕にして楽しんでる不破さん、けっこう好み(笑)。最後自分から歩み寄っていくところなど素敵ですわ♪

また水樹さんがすっかり詰襟に慣れ親しんで、「卒業するまで借りてていい?」なんて“男の子”ごっこ楽しんでるところも親近感。

私も10代の頃は憧れてたんですよ、詰め襟。弟のを借りて写真撮ったりしてた(←バカ)。“男の子”になりたいって思ってたからなー。

まぁ水樹さんは別に男の子になりたかったわけではなく、たまたまそれで趣味合いまくりの不破さんと仲良くなれちゃって、「ニセ花村だってばれたら不破さんもう仲良くしてくれないよねー」っていう、そーゆーことだと思うのだけど。

最後のコマの「幸せなセバスチャン」いいなー、うぷぷ。こんな高校生活送ってみたかった(笑)。

次、『その科白には嘘がある』

ひょんなことから「霊視」ができるようになってしまった水音(みなと)さんが主人公。ある日水音さんの隣にとてつもなく神々しい背後霊を背負った男の人が引っ越してくる。実は彼、神城先生は彰英高校のOBで、このたび臨時教師として赴任してきた。水音さんのクラスの副担任。

新城先生はどうも料理が苦手らしくやたらに焦がすので、仕方なく水音さんは毎晩のように新城先生に夕飯をご馳走することになるのですが、しかしカーラ教授の描く女の子はみんな料理がうまいというか家事ができてすごいな。

男の子はセレブな坊ちゃんの多い彰英高校だけど、女の子は庶民派で家事ができて「いいお嫁さん」になれそうな子が多い。ニセ花村くんの水樹さんも不破さん家でちゃちゃっとたらこスパゲティ作って「こんなの料理のうちに入りませんよ」って言ってるし。

15歳でアパートひとり暮らしできるだけでもすごいよなー、考えたら。

霊視できるようになっても慌てず騒がず地縛霊と友達になっちゃうのもすごいけど、「吉野鳥のすまし汁」とか「ゆでイカのマリネ」とか作れる高校3年生女子、しかも偏差値85以上、って方がすごいと思う、水音さん。

途中新城先生が大学院で研究していた「ペプチド」について熱く語るところとか、大変カーラ教授ぽい大量知的ネームで楽しいです。

超進学校だから時々出て来る授業の内容も高度やねん。うっかり黒板の問題に取り組もうとして「うわー、何だっけ、全然わからん」みたいな。

「彰英高校は真の意味での超進学校なので未履修問題なんか存在しない 受験に必要ない選択科目だけ…などとゆー半端な真似はしないのだ」というネームも。2006年から2007年にかけてって、そーゆー時期でしたっけね。

ちなみに水樹さんは3年A組。『レナード現象には理由がある』の蕨さん達と同じクラスです。一つの高校が舞台って、こーゆーとこも楽しいね♪

続く『グレシャムには罠がある』は3年E組が舞台。3-Eといえば例のへらへらウサギ亘理さんに友成くん、保科くんのいるクラスだぞえ。

個性派揃いの3-Eには、大企業グループオーナーの孫で「36億円くらいならポケットマネーで払える」という超セレブなお坊ちゃん陣内くんがいる。

かたや入学早々親の会社が倒産、両親は夜逃げ、自分はなんとか奨学金を得て彰英高校に……という超貧乏な山吹さん。

明日の米どころか今日の米にも事欠く山吹さんに豪華ステーキ弁当を差し出し、いきなり「部下になれ!」と言う陣内くん。

なんじゃそりゃ。

しかも契約成立後どう見ても陣内くんの方が山吹さんのパシリになっているという。

このすっとぼけ感というか「ズレ感」が楽しいですな。実際ホントに頭のいい人ってこういうすっとぼけたことになっていそうだ(←単なる想像)。

しかし本当に、親が夜逃げしちゃって「社長令嬢」から一転貧乏のどん底に陥り、たった一人で生活していかなくちゃならなくなった中、「文系で常にトップ10に入り続け(それが奨学金の条件)」3年間がんばってきたってすごすぎないか、山吹さん。

その努力が陣内くんという「打ち出の小槌」、いや玉の輿先を引き寄せてくれたのだと。

最後のコマを見ると「君たちそんなんでグループ総帥とかやっていけるのか、大丈夫か」という気もするが(笑)。

陣内くんのいとこの“まろ”&山下くんがきっとサポートしてくれるね。“まろ”&山下くんの学園生活というのもちょいと覗いてみたい(爆)。

そして表題作『コメットさんにも華がある』

この作品の主人公の一人彬良(あきら)くんは有名な映画監督の父と、女優の母と姉を持つ芸能界のサラブレッド、自身も若手俳優として活躍中という男の子なんだがしかし、そんな芸能活動してて偏差値85超の彰英高校に入ってついていけるって、ホントにどんだけすごいんでしょうか。

天は二物も三物も与えすぎやっちゅうねん。

はたから見ればそんな羨ましいにもほどがあるな彬良くんなんだけども、彼は自分が役者としていまいち地味なことを気にしている。華がない、オーラがない、「演技力のある実力派若手」とは言われても「スター」ではない……。

要は真面目すぎるんだと思うけど。

「演劇論」読んだりシェークスピア原語で読んだりね(←さすが偏差値高い)。

そんな彬良くんの後ろの席になったのが真島さん。長いストレートな黒髪とその無表情で「エジプトの壁画の女」とか「お菊」とかあまり嬉しくないあだ名をつけられている。

で、自分が無愛想で無表情で、っていうことを真島さんはやっぱりちょっと気にしている。中学の時にはそれでイジメにも遭っていたし。

表現力が勝負の俳優彬良くんと無表情な真島さんがboy meets girlするとさて――。

最後に彬良くんが主演するハリウッドB級ホラー映画『ZOMBIE BLUE』のポスターと特別鑑賞券の絵があって、単行本の表紙もそのポスターバックの2人の絵なんだけど、これがとてもいい感じで「うわー、その映画見たい!」って思ってしまう。あらすじも面白そうだしなー。

まぁ実際はゾンビとかホラーとか苦手やねんけど(^^;)

あ、ちなみに彬良くんと真島さんも3年E組で、『グレシャム』の山吹さんが真島さんと仲の良いクラスメイトとして出てきます。山吹さんがまだ生活費に困っているところを見ると、陣内くんの部下になる以前の話なんかな。

『グレシャム』では家庭教師のバイトをしていた山吹さん、他にもバイトしてるみたいで「バイト先に真島さんと同じ中学の人がいて」とか言ってるし。

家庭教師先に真島さんと同じ中学出身のお姉ちゃんとかがいたのかもしれんが。

そういえば『グレシャム』では「彰英高校の購買部はちょっとしたコンビニ並みの品揃え」と書いてあるんだけど、『レナード現象』読み返したらジャム買いに外のコンビニまでひとっ走り行ったりしてた。ええ、重箱の隅ですね、すいません(笑)。

彰英高校シリーズ1作目の『レナード現象』は2003年1月号掲載なんだもんなー。8年以上前!

そう考えると長いシリーズだよね。途中空白3年あるとはいえ、現在も『MELODY』誌で『バーナム効果であるあるがある』が連載されているし。

シリーズ全編通して彰英高校生徒の憩いの場所、中庭(?)の謎の噴水が今度のテーマらしい。

謎の、ってゆーか、リトル・グレイでしょ、あれ(笑)。(リトル・グレイがわからない人は『ブレーメンⅡ』を読もう)

順調に連載されて、順調に単行本1冊分原稿たまって、順調に来年また新刊が出るといいなぁ。わくわく。