最終巻まで読み終わって、また1巻に戻ってきました『ルパン全集』。

やはり途中からでは「全巻読破!」とは言えない。

何よりあれでルパンとお別れするのが寂しかった。

記念すべきルパン初登場『ルパン逮捕される』を含む短編9篇。

いきなり最初が「逮捕される」っていうの、すごいですよね。ルブランにシリーズ化の意図はなく、探偵小説を書くこと自体乗り気でなかったという話なのですが、結果的にはすごくエスプリの効いた登場になったなと。

すでにルパンの名は有名になっている。

どんなすごい盗みをして有名になったのか、どれくらいすごいのかさっぱりわからないまま突如「有名な怪盗」として目の前に現れ、その彼が捕まるのか捕まらないのか、「船の上」という外界から切り離された、逃げ場のない“密室”で、どうピンチを切り抜けるのか。

女の子の目を気にして、というところがまた、ルパンは最初からルパン。

そして最初は一人称なんですよね。ルパンが自分で語っている。

登場してすぐ逮捕されちゃったルパンは『獄中のアルセーヌ・ルパン』になり、『ルパンの脱獄』で自由の身に。この2作は3人称。

『ふしぎな旅行者』がまた1人称で、『女王の首飾り』はルパン6歳の時の初仕事を描き、当然3人称。

『ハートの7』は1人称ですが、ルパンではなく一連のルパンの「伝記」を書くことになった「ぼく」が語り手。なぜ「ぼく」がルパンと親しくなり、なぜその話を世間に向けて公表する役になったか。

トリックというか「事件」としては『ハートの7』が一番好きですね、この9篇の中では。

『アンベール夫人の金庫』は若き日のルパンの失敗談。『黒真珠』はピンチをチャンスにしてまんまと成功したお話。そして最後は『おそかりしシャーロック・ホームズ』。

どれも粋で楽しめますが、やはり手に汗握る長編をさんざん読んだ身にはちょっと物足りない。

子どもの時に一度読んで、大人になってからもハヤカワ文庫で読んで、今回で3回目。うろ覚えながらもなんとなく話の先が読めるので、それもワクワク感をそぐ要因だったかな。

『おそかりし~』では『逮捕される』のネリー嬢が再登場するのですが、かなり唐突な印象。なんで彼女が?と思ってしまいました。読者サービスと言えばそうなんでしょうけど…。



2巻目は本格的にホームズと対決です。

原作は「シャーロック・ホームズ」ではなく「エルロック・ショルメス」となっています。コナン・ドイルからのいちゃもんで「ホームズ」という名は使えなかったそうな。

まぁアナグラムなのでバレバレですけどね(笑)。ワトソン出てくるし。

原作ではワトソンも別の名前になってるのかしら。

『金髪の美女』と『ユダヤのランプ』の2話構成。うーん、どうなの? 『水晶の栓』や『虎の牙』を読んでしまった後で読むと、すごくワクワクするとは言い難い。

私がホームズにはあまり思い入れがないこともあるんだろうけどな。

ホームズにも花を持たせなきゃ、とルブランさんも気を遣っているから、ルパンファンとしては「もっとこてんぱんにやっつけちゃってよ!」と思っちゃう。

ホームズがやられない代わり、ワトソンが1話目では腕を折られ、2話目では胸を刺されて重傷。気の毒なワトソン……。

ルパン物って実はルパンが探偵役になっていることが多いけど、ホームズ相手ではどうしたってルパンが「捜査される側」「追われる側」になってしまって、それもドキドキ感が薄い要因ではないかと。「追い詰められる」のも確かにドキドキするけど、いつものルパンは「追い詰められながらも素晴らしい知力・体力で謎を解いて勝者になる」。

「謎を解く」楽しみを、今回はホームズが奪っていっちゃってるから。

ルブランさんはうまいので両雄はちゃんと並び立っているんだけど、だからこそルパンファンは物足りない……。

でも最後の方でホームズが言うセリフは心憎い。

「ルパン君、この世にはどんなことをしてもわたしが意外と思わない人間がふたりいる。第一はわたし。そしてそのつぎは、きみだ」