(※以下ネタバレあります。これからお読みになる方はご注意ください。3巻までの感想記事へは末尾のリンクから


待望の第4巻、2025年3月26日発売で、数日後にはGetしていたのに、またしても読むのが遅くなってしまいました。読み始めたら早いんですけどね~。どんどんと頁を繰らされてしまう。何しろ今回も怒濤の展開で……。

表紙のイラストは昨年4月に出た第3巻のラスト、太子殿下と花城が「一戦交えた」時の様子ですが、直後に銅炉山が開き、二人は一旦離ればなれに。

あまたの妖魔奇怪が集い、殺し合いをした挙げ句、勝ち残って銅炉山を出てきたものが「絶」と呼ばれる「鬼王」となる。花城もそのようにして「絶境鬼王」となったのですが、天界は新たな鬼王の誕生を阻むべく、そもまず妖魔が銅炉山に集まらないよう手を尽くします。

で、謝憐も「錦衣仙」という妖魔を探して捕縛する任務を与えられます。その名の通り、「衣服」のバケモノ。数百年の昔、とある勇猛な青年が恋した女性に騙され、ただの袋のような服を贈られて、「腕が出ない」「腕を斬ればよい」「足が出ない」「足を斬ればよい」「首も出ない」「首も斬り落とせ」と言われて素直に従い、死んでしまった。その時の「袋のような服」が青年の一途な想いと血によって「妖魔」となったのが「錦衣仙」。

西方を守護する武神・権一真とともに「錦衣仙」の行方を追うことになった謝憐。しかし実は、天界に封じられていた「錦衣仙」を盗み出したのは霊文で、そもそも霊文こそが「錦衣仙」を生み出した張本人だったのです。

えええええええ、あの霊文が!?

謝憐も

誰も彼もがガラクタ仙人と嘲っていた時も、霊文に冷たくあしらわれたことなど一度もなく、むしろ非常によく面倒を見てくれた。 (P51)

と思い返して「あの霊文が」と驚いているのですが、本当に読者もびっくり。1巻の最初から有能な第一文官として、数少ない謝憐の味方(少なくとも敵ではない)として描かれていたのに。

あの霊文が、「じゃあ腕を斬れば」と、自分に恋している青年を罠に嵌めて殺したなんて。しかもそれ、飛昇して神官になった後の話らしく……。3巻での風師のエピソードにも驚いたけど、あれは風師自身に罪はない感じでしたからねぇ。今回は霊文自身の罪な上に、霊文、「錦衣仙」を着て逃げてしまうんだもん。勇猛な武将だった青年の魂が籠もってるので、「錦衣仙」を着た霊文は武神並の強さを発揮、そう簡単には捕まらない。

さらに、「霊文が天界を放り出して逃げるとどうなる?」「天界はめちゃくちゃになる」なのです。1巻から親しんできたあの「通霊陣」、地上にいても天界と通信できる、わざわざ一堂に会さなくても「通霊」で会議ができるアレも、霊文がいないとあっさり瓦解。あの通霊陣は霊文が構築したもので、お尋ねものになってしまった霊文がそれを「壊して」逃げるのは理の当然。しかも霊文が一手に担っていた天界の事務処理も滞り、もはや天界は役立たずの無秩序状態。

「普段はどいつもこいつも自分の方が十倍上手くやれるだとか熱心に霊文殿を罵ってたくせに、いざ事が起きて引き継ぐことになったら三割の仕事すらまともに任せられない」 (P108)

あるあるすぎますね。
てか、いつもながら神官の皆さん、人間くさすぎ。全然超越してなくて笑っちゃう。

さらに蘭昌と胎霊の件で拘禁されていた慕情も逃げ出して行方不明。天界これからどうなっちゃうの~!

蘭昌は実は「剣蘭」という美女で、かつては仙楽太子の妻にとさえ目されていた良家の子女。太子殿下の従者だった風信(現在の南陽将軍)と慕情(現在の玄真将軍)が彼女と関わりがあったのも道理で、「胎霊の父親は風信では?」「剣蘭の腹を裂いて胎児を取り出し子鬼にしたのは慕情では?」という話に……。いやだからほんと、天界どうなってるん。もしかして脛に傷を持たない神官、一人もいないの???

慕情の部下である扶揺が

「太子殿下、お伺いしますが、あなたが上天庭に戻ってから何人の神官を調べたか覚えていますか? あなたに調べられたあと、地位を追われなかった神官がいますか?」 (P113)

って言うんだけど、それ殿下のせいじゃないから。あんた達がみんな悪いことしてるだけだから!

えーっと、それで、冒頭に「二人は離ればなれ」と書きましたが、実は花城、全然離れていません。郎蛍のふりをして菩薺観にいたのです。途中で殿下もそうと気づくんですが、気づいたあとでも「あの赤い服のお兄さんのこと好き?」などとからかって喜んでたりして。さらに花城だと互いに了解したあとでも「ほっぺたぐに~」とかして、「だって可愛いんだもん」とかやってます。あー、はいはい、見てる方が恥ずかしいですよ、はいはい。

花城が子どもの姿になっているのは銅炉山が開いた影響から逃れるため、というちゃんとした理由があるんですが、ローティーンの子ども姿の可愛い花城、ちっちゃいので抱っこしたり膝に乗せたりできちゃうんです。なんといういい設定だ。

でも花城自身は決してそれを喜んではいない。むしろ忸怩たる想いでいる。

「今の……この姿が一番嫌だ!」
「こんな役立たずな姿をあなたに見せたくないし、その上あなたに守ってもらわないといけないなんてもっと嫌だ!」 (P80)

花城の正体が本当にあの、「落ちてきた少年」で、謝憐が仙楽国を救えなかったあの時、そばにいた少年だったのなら、「何もできない」を噛みしめるしかなかった12~13歳当時の姿でいることには疎ましさしかないでしょう。

霊文がいなくなったことで天界はてんやわんや、妖魔奇怪を阻止するどころではなく、「かくなる上は私自ら銅炉山に乗りこもうと思う」とわざわざ君吾が謝憐に言いに来ます。

花城が、

「わかってたことだけど、あいつがあなたに用事があるって言う時はいつもろくでもない仕事の話だ」 (P140)

と言うとおり、銅炉山には謝憐と花城が行くことになります。わざわざ旅先の謝憐のところに姿を現すところからして「はなから自分で行く気ねぇだろ」って感じなんですが(表向きは「私が銅炉山に行ってる間、私の代理として天界の面倒を見てくれ」ではあった)、君吾の真意、気になりますよねぇ。これまでの「調査」も全部わかっていて謝憐にやらせてる感じがあるし、謝憐の味方なのかどうなのか……。二度目の飛昇の時だったかに謝憐が君吾を刺したという話もまだ詳しく描かれていませんし、二人の間の因縁はいったい。

ともあれ仲良く手を繋いで銅炉山に向かう謝憐と花城。銅炉山にはなぜか裴茗(明光将軍)もいて、謝憐が呼んだせいで半月と裴宿も落っこちてきて、逃げてる霊文もめちゃめちゃ鬼たちを倒しているし、霊文を追っていた権一真もいて、さらには雨師もいるらしく、オールスター大集合。

もちろん戚容もいるし、半月関エピソードに出てきた刻磨将軍、与君山の鬼花嫁こと宣姫まで。最初の方のエピソード、正直あんまりピンと来なかったんだけど、全部ちゃんと繋がっているというか、「使い捨て」じゃなく続いていてすごい。

戚容はまだあの、自分が食ってしまった男の子ども、谷子を連れていて、谷子は依然として戚容のことを「父ちゃん」だと思っている。谷子が嫌がるからという理由で戚容が口についた人間の血を拭うようになっているのが面白い。戚容、このまま谷子に感化されて多少はマシな人間(人間じゃないけど)になるといいのにねぇ。少なくとも、謝憐の手を煩わせないくらいに。

権一真と引玉殿下の因縁もすごいし、霊文がなぜ「錦衣仙」を生み出してしまったのか、ちょっとわからなくもない過去エピソードもひどい。さらに今回初めて顔を見せた雨師の飛昇の経緯がまた。

エグすぎる。

本当に神官たちもあれだし、そもそも人間ってやつが……。

そしてさらにエグいことになりそうなのが謝憐の前世。いや、まだ「前世」と決まったわけでもないのですが、銅炉山は実は2千年以上昔に栄えた「烏庸国」のなれの果て。山のあちこちに神殿が残っており、そこには烏庸太子を描いた壁画が。

かつて謝憐は師である仙楽国師から烏庸太子の逸話を聞いたことがあったのですが、烏庸太子の経歴、あまりにも謝憐にそっくりなのです。生まれた時の星宿まで同じ。

火山の噴火により、ポンペイのごとく火山灰の下に埋もれた烏庸国。壁画によると、烏庸太子はその災厄を予知し、しかし他国を攻めるのはよしとせず、「国民を全部いったん天界へ逃がそう」としたらしく。

まさに目のつけどころが仙楽太子、コップ一杯の水しかないのに「よそからもう一杯持ってくる」みたいな発想。結局烏庸太子は国を救うことができず、銅炉山には火山灰に閉じこめられた人々とその暮らしが埋まっている。烏庸太子のお守りを握りしめ、絶命していった人々の様子が、そのまま。

謝憐と仙楽国の逸話を読んだ時も思ったけど、こういう場合の最適解ってなんなんでしょうね。大勢の国民が干ばつやら噴火やら、「もとの土地ではもう生活できない」となった時に、国王は「よその国を攻めて領土を広げる」他ないのか。どこの国も、何万何十万という移民を受け入れてくれるわけはなく、さりとてまだ誰も住んでいない「肥沃な地」がそうそうあるわけもなく。

戦って奪うしかないのかなー。それが「良い王」なのか。

自分自身と重なりすぎる烏庸太子の生涯に、

「私の身に、私自身でさえ知らない何かがあるっていうのか? 私がまだ覚醒していないってどういうことだ? まさか本当は私こそが……」 (P323)

と、おののく謝憐。答えて花城、

「何があっても俺がいることを覚えておいて。俺は永遠にあなたの味方だから」 (P324)

ああああああ、花城の愛が深すぎる。好き。

最後、かつての烏庸国の都にあった神殿で、人面疫の壁画を見つけたところで4巻はおしまい。

人面疫といえば、銅炉山には顔を包帯で隠した郎蛍のような白衣の少年も来ているらしく。しかも鬼たちをすごい勢いで倒しているらしい。郎蛍より年上の16~17歳に見え、「背格好は謝憐に似ている」という話なのですが、果たしてそれは誰なのか。もしや白衣禍世だったりするのかな。そして白衣禍世こそが烏庸太子のなれの果てだったり???

なぜか烏庸語を聴き取ることができる謝憐。でも謝憐でさえ文字は読めないのに、烏庸文字が読めてしまう花城。かつて「絶」となるため銅炉山で戦っていた時に独学で学んだらしいのですが、現在の文字と似た文字を手掛かりに、「よく出てくる文字」や「前後の文字」から類推&解読していったと。

花城、学者すぎる。

すべては謝憐のため、「私のために生きなさい」と言われ、それを成し遂げるために文字通り命を賭けて闘い、学んできた。幸せになってほしい、花城……。


日本語版5巻の発売が待たれます。また来年の春ぐらいなのかしら。早く、早く続きを~~~!