冗長で退屈だなぁ、と思った上巻。あとがきでは「上下2冊で終わらず3巻4巻と続くかもよ~」と言っていたけど、めでたく下巻で終わりました。ホッ(笑)。

いや、でも下巻は面白かった。やっと「人間の金貸しにすごい額のお金借りてそれを踏み倒そうとしてる貴族」の城について、そこから怒濤の展開。

上巻でもDに護衛を頼んだ金貸しのエル爺さん、途中で拾われたリジア、爺さんに借りた金を踏み倒そうとするヤクザ者数名、とけっこう入り乱れてたのに、城に着くとその当主の侯爵、改造されて並の貴族以上の能力を持つ侯爵の娘マチルダ、そしてマチルダの前世の借金を取り立てにくる貴族の老夫人、とまたまた癖のある登場人物がいっぱい。

マチルダの造型も、そして老夫人の造型も面白かったけど、リジアの印象が薄くなっちゃったなぁ、って。

上巻でリジアに取り憑いた「何か」が、今ひとつうまく活かされてないっていうか、「そのエピソード必要あったのか」的な。

誰もが金金金で「借金」の取り立て、あるいは踏み倒しにこだわってて、「お金」という切り口では人間も貴族も変わらない、って、リジアはこのセリフを言うために存在したのか。

タイトルの「黄金魔」、黄金でできた魔物とかそーゆーものかと思ったら、「お金という魔物」の意味だったのねぇ。

確かに「お金」が一番の魔物かも。

<神祖>に会ったことがある、というのがエル爺さんのDに対する切り札、釣り文句だったけど、もちろんそれはたいしたものじゃなくて。

生きているのか死んでいるのかよくわからない〈神祖〉とDの対決はきっと永遠に描かれないんだろうなぁ。

でも「ジパで会おう」の「ジパ」って、「ジパング」なのかしら。

そして次作でDはまだ人間の子どもジジを道連れにしているのかしら。

年を取らない、そして寿命も何倍もあるDと、すぐに大きくなる人間の子どもの道連れって、ちょっと面白そうだけど、たぶん一緒にはいないんだろうな。

街の人間が全員やられた中でなぜか一人生き残ったのがジジだったけど、「なんでジジだけが」っていうのは結局理由がなかった。マチルダの「絶対悪ではない側面」を演出するのに有用だったジジ。それなら上巻でリジアの代わりに最初からジジが一行に加わっていても良かったような……。

リジアにとってもジジが「守るべきもの」になってはいたけど。

やっぱり私はリジアに憑いてた「何か」が気になるんだよなぁ。

そう言えば貴族って、「侯爵と娘」みたいにちゃんと親子関係があって、不老と言いつつ娘は父より見た目も若いんだけど、Dにも「子どもの頃」というのがあったんだろうか。

前世の借金を取り立てにくる強烈な老夫人は間一髪で死地を切り抜けたために若いままではいられず見かけが老けてしまったらしいけれど。

まぁ、人間の尺度では測れないのが貴族=吸血鬼で、さらに「特別」なのがDだから、生まれ落ちたその時からあの美貌であの強さだったとしても驚かない。

いつかDの「旅の終わり」が描かれることはあるのかしらね……。