2014年8月31日日曜日

修道士カドフェル15『ハルイン修道士の告白』/エリス・ピーターズ



久しぶりのカドフェルシリーズです。

『ヴァリス』『ディファレンス・エンジン』といったハード系の読書が続いて、そろそろカドフェルの温かみが恋しくなりました。

でも何巻まで読んだのか忘れていて。

このblogのサイドバーの「ひゅうがの本棚」をチェックして「13まであるから次は14か」と思って図書館行って、わざわざ14を書庫から出してもらって借りてきました。

そして家で、裏表紙のあらすじを読みました。

あれ?

これ、知ってる……。

シリーズ14作目『アイトン・フォレストの隠者』はもう読んだじゃないですかー! 感想記事も書いてるじゃないですかー! 「久しぶり」と言ってもまだ半年も経っていないのに、タイトル見た時に気づかないなんて……。

いや、確かにタイトルに見覚えはあったんだけど……。普通に書架に並んでたら裏表紙のあらすじとか確認して「これは読んだ」ってわかったと思うんだけど、書庫から出してもらったものだから……。

図書館のコンピュータにもAmazonさんみたく「あなたは○月○日にこの本を借りました」って出ればいいのに(もしかして貸し出し処理の時にカウンターのコンピュータ画面には出てるのかもしれないが)。

で。

改めて、15作目『ハルイン修道士の告白』を借りてきました。

最初の「スティーブン王が女帝モードをまた逃がしちゃって…」というところで苦笑。カドフェルシリーズの重要な背景となっているこの内乱、ホントにいつまで続くんでしょうか。

ちなみに今作は1142年の冬12月から翌1143年の3月までのお話。つい先日読んでいた『ローマ亡き後の地中海世界』で、イスラムに征服されていたシチリアがノルマン人に再征服され、「ノルマン・シチリア王国」が成立するのが1130年だそう。

カドフェルの舞台イングランドも「ノルマン・コンクェスト」でノルマン人に征服されてるんですよね。1066年のことらしい。

海賊に蹂躙される地中海世界と、内乱はありつつも比較的穏やかな(やたら殺人事件は起こってますが)カドフェルの世界。ノンフィクションと小説という毛色の違いもあって、「まるで違う世界の話」のように感じていましたが、実は思いきり同時代なのですよねぇ。

「かつては十字軍の戦士だった」というのがカドフェルの人物像の重要な要素になっていて、それは重々承知しているのだけど、地中海とイングランドという、位置と風土の違いも大きいのでしょう。

さて。

今回の事件は殺人ではありません。内乱に絡んだものでもなく、タイトルになっているハルイン修道士を襲った悲劇が事の発端。

大雪のせいで修道院の宿泊所の屋根が壊れ、修道士たちは交替でその修理に当たっていました。ハルイン修道士はその最中に屋根から落ち、ただ落ちただけでなく一緒に落ちてきたスレートによって足をずたずたにされてしまいます。

誰もがもう助からないと思い、また、本人も死の床にあることを悟り、告解を望みます。駆けつけた修道院長とカドフェルの前で彼は、自らが18年前に犯した罪を語り始めました。かつて仕えていた邸で主人の娘と恋仲になり、一夜を共にしたこと。求婚したものの娘の母親に撥ねつけられ、絶望のあまり修道院に入ったこと。そして、娘の母親に請われるまま、当時カドフェルのもとで教わったばかりだった堕胎のための薬草を持ち出し、あげく娘も腹の子も死んだという連絡を受け取ったこと……。

長い間一人で抱え込んでいた重荷を下ろし、これで安らかに天国へ――と思われたハルイン修道士はしかし、一命を取り留めます。松葉杖のおかげでどうにか動けるようになった彼は、自分のせいで死んでしまったかつての恋人の墓所への巡礼を思い立ち、カドフェルがついていくことに。

そして顕れる18年前の不幸の真実……。

いやぁ、面白かったです。

読み始めると止まらない。シリーズ中でもページ数の少ない方(本文259ページ)とはいえ、あっという間に最後まで読んでしまいました。「もしかしてこういうことじゃない?」と予想がつくだけに先が気になって、ページを繰らずにいられない。

予想のさせ方、ヒントの出し方がうまいんですよねぇ。あまりわかりやすすぎても面白くないし、かといって「何が何だかさっぱり」でも読者はついていけない。

死んだ恋人バートレイドの母アデレーズは、18年前の悲劇を突然蒸し返しにやってきたハルインに驚きながらも毅然とした態度を崩さない。

このアデレーズの造形がまた際立っています。毎回芯の強い魅力的な女性が登場するのがカドフェルシリーズの常ですが、大きな孫のいる年齢になっても自身の美しさに誇りを持ち、18年間一人で抱え続けた真実がカドフェルによってあらわにされた後は、自分できちんと決着をつける。

彼女が「母」であるよりも「女」であったがために起こった悲劇だったんだけども。

もしも自分の母親だったり親戚にいたりしたらきっと付き合いづらくて敬遠しちゃうような女性でしょう。

事実息子の嫁とはうまく行ってなくて、息子ともそんなに親密ではなく、物語のふんわりした温かい結末と彼女だけは無縁に、この先も一人寂しく生きていかなければいけない。彼女はそれを「寂しい」ではなく「孤高」と感じているだろうけど。

18年前の真実を暴くのに、「歴史は繰り返す」を持ってくるのも巧い。

「そんなうまい偶然があるものか」と思いつつ、どんどんページを繰らされてしまうストーリー・テリングの巧みさ。

修道士だけに、ハルインは自身が生死のあわいをさまよったことも含めて、「すべては神のお導き」って言ってしまうんだけど、まったく信心深くない私でも「あの死線を乗り越えればな…」と納得しちゃうし、最後、18年抱え込んできた「罪」から解放されて晴れ晴れと帰路につくハルインのセリフにはなんとも言えない感慨を覚えてしまう。

折しも季節は春を迎え。

厳しい冬を乗り越えたからこその、春のぬくもり。

はぁ。

やはりカドフェルシリーズはいいなぁ(しみじみ)。


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